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蒼い勇騎  作者: 風南 春樹
3/8

始まりの出来事

 あれからどれくらい気を失っていたのか分からない。

「…………んっ……。」

 けれど、近くで魔力の波動を感じ取った私は、水を浴びせられたように突如その場で目を覚ました

「……ハッ!?な、なに!?今、魔力が…ま、魔物!?というか、ここはどこ……!?」

 一気に飛び起きて辺りを見回す。

 寝ぼけ眼ながらも、洞窟の外から僅かに陽が差し込んできているのが見える。そして寝入ってしまう前より僅かに外の空気が澄んできているのを感じ、夜が明けたのを直感した。そして頭がようやく起き始めたのか、この洞窟に到るまでの経緯を思い出し始める。

 そっか…私、一人で生きていくことを誓い旅立ったはいいけど、お腹が空いて目を回し始めて、この洞窟で夜を明かそうとかしたんだっけ…。それで、そこに魔物が襲ってきて………。

「……あっ!そうだ、今何処かで、魔物の気配――あ、あれ?」

 辺りを見回しても、それらしい魔物の姿も見えず魔力も感じられない。

「何も……居ない?でも、さっき感じたのは……?」

 そんな事を一人ぼやきつつ、もう少し注意深く辺りを見回し始めたとき、洞窟の少し奥の壁近くで何か黒光るものが見えた。

 そこから微弱ながらも何かの気配を感じ不思議に思った私は、何近づいてみることにした。

「こんなところに、何があるのかな……って、ふえぇ!?」

「…………。」

 そこに居たのは、全身に衣服も何も身に着けていない、人間の男の子だった。

「お、お、男の…子?……えと…あ、あの…あなたはだぁれ?どうして、こんなところにいるの?」

 彼は膝を抱えて座り込んだまま、その場から全く動かない。

「…………。」

 何も答えず、ただジッと私を見つめてくる。私を真っ直ぐ見ているその目は、夜の闇のように真っ黒く、まるで感情が読めない。でも、特に何かをしてくるわけでもない。なんとなく分かったことは、彼は私に敵意はもっていないこと。……そして、なんとなくかもしれないのだけれど、彼は私が起きるのを待っていたのかもしれないということだった。

「あなた…ううん、君はずっと私の傍に居たの?でもね、この洞窟には魔物がいて――……。」

 そこまで言いかけて、私はようやく自分が魔力を注いで助けようとしたあの魔物のことを思い出した。

「……あっ!そうだ!さっきのコウモリの魔物は何処へ……あ、あの!君がここに居たのなら、ここにコウモリ型の魔物が――」

「…………。」

 私がそう喋りかけた途端、男の子はその場で立ち上がり、よろよろと私の傍へと歩み寄ってくる。

「ふぇ!?」

 怖じ気づく私に対して、男の子は私の傍に来ると、再び膝を抱えて座り込んだ。そしてゆっくりと目を閉じると、その場で頭を私への方に押し付けるようにしてくる。

「えっと…どうしたの?」

「…………。」

 男の子は答えない。私に何かをしようとする素振りはない。むしろ彼は、まるで私に何かをさせたがっているように見えた。

「…っ……えっと……。」

 私には彼が何をされたがっているのかは分からない。だからひとまず、触れられるような位置にあるその彼の頭を、私はゆっくり撫でてみる。

「キィッ!キイィィィィ…!」

 私がその頭を撫でてあげた瞬間、男の子は甲高い声を上げながら満足そうに顔を綻ばせた。その綻ばせた表情の口元の両端から、鋭い牙が生えているのが見えている。まるで、生き物の肌に噛みつくためのその形。なんだか、昨晩に襲ってきたコウモリの魔物の口元に生えてた牙にそっくりなのだけど……。

「……あっ!まさか、君は……!?」

「キイィッ…!」

 彼は嬉しそうな表情を浮かべて、私の顔を真っ直ぐに見てくる。

 さっきあの魔物に魔力を注いだ時、間違いなく私はその場で気を失った。……それなら、残りのコウモリの魔物達にそのまま襲われていたっておかしくない。そして私が目を覚ましたとき、何故かあの魔物は居なくて、代わりにこんな裸の男の子が近くにいた。そして彼は話しかけても鳴き声のような声を上げるだけで、人の言葉を話さない。

 …………うん、やっぱりそうとしか考えられない。

 私は確証を得ようと、その男の子の身体を隅々……いえ、パンツで隠す場所以外を一通り見せてもらうことにした。

「……ちょっとごめんね。君の体、見せてもらって良い?」

「キュイィ…?」

 身体をジロジロ見ている私を男の子は不思議そうに眺めている。でも、全く嫌そうな顔も素振りは見せない。それどころか、上半身を捻ったり、時折身体を起こしたりして、私が全身を見やすいように動いてくれている。流石に真正面から立ち上がっているときは思わず座るように促しちゃったけど、そういった部分も含めて、彼の体は人間の男の子と全く変わらない感じだった。

「あ、ありがとう……。うーん、特には何も――……」

 そう言いながら背中の方を確認したとき、背中から骨のようなものが黒く突き出ているのが見えた。

「ん?……これって…?」

 何だろう?黒くてデコボコしてる。骨が背中から突き出て……ううん、違う!これ、骨じゃない。

 ………ちっちゃな、翼だ!

 そう判別した瞬間、私の中で少しずつ答えが紡がれていく。そうだ…あのコウモリの魔物にもこんな黒い翼があった。と、言うことは…………。

「やっぱり、君って……。さっき私が魔力を注いだコウモリの魔物さん!?」

「……マモ……ノ?」

 驚いた私が問いかけると、彼はたどたどしい口調で声を出す。

「え?君、言葉が……私の言葉が分かるの?」

「キミ……ワタシ……コト……バ……?」

「言葉が…分かるんじゃないの?」

 私の問いかけに、彼はまばたきをしつつ不思議そうに答える。

「……コトバ……?」

 まだ言葉が分かっている訳じゃないみたい?私が言ったことを返してるだけみたいだ。

 まるで…人間の赤ちゃんが、お父さんお母さんからの言葉を音として耳にして、それを反復して返しているみたいな……。

「ワカル……コトバ……?」 

 ……あっ!だけど、言葉みたいな音を発することが出来るのなら、もしかして……。

 私は自分を指差しながら、ゆっくり大きな声で一文字ずつ呼び掛ける。

「ミ・サ・オ。……ミ・サ・オ。……言えるかな?」

「ミー…サ、オ?イエ……カナ?」

 彼は不思議そうな顔をして、私の言葉を繰り返す。

「そう!私は、ミサオ!……って言っても分かんないのかな?」

 もう一度彼に言ってみると、彼は私を指差しながら、不思議そうに言葉を繰り返す。

「ミサ…オ?」

 心なしか笑顔を浮かべつつ、彼が拙くも私の名前を呼んでくれた。

「あっ!分かってくれた?私は、ミ・サ・オ。ミサオだよ!」

「ミ・サ・オ……ミサオ!」

 そう言いながら私の隣に座ってきた彼の表情が、分かり易く笑顔になっていく。

 やっぱり思った通りだ。言葉…単語を喋ることが出来るのなら、意思の疎通だって出来るのかもしれないと。それを理解できたことを嬉しそうにしてくれた。まだ出会ったばかりの男の子…元は魔物だった子なのに…きっと彼とは、仲良くなれる、この男の子は、私を知ろうとしてくれているのが分かり始めてきたから。

 何故か分からないけれど、不思議とそんな確信めいた予感があったんだ。

「ミサオ……ワタシ、ミサオ!」

 彼は私の手を握って、嬉しそうに言葉を繰り返していた。

 こうして、助けてあげようと魔力を注いだコウモリの魔物は、どういう訳かは分からないけど……人間の男の子みたいになってしまった。それが私が初めて見た『魔物が人の姿に変わる』という出来事だった。


 ……そしてそれこそが、私の人生を大きく変えていく始まりの出来事だった。

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