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花の名は・・・

届けられた花束に、エヴァンジェリンは首をかしげた。

「王弟殿下?」

カードに書かれた名は、ヘルフリート・フォン・メルデア。

自分が婚約したことを知らないエヴァンジェリンは、花を(もら)う覚えはない。


朝早くに兄からスープを飲まされた後、ずっと眠っていたエヴァンジェリンの目が覚めた時には花束が届いていた。

父も兄も出仕して、まだ帰って来ていない。

婚約を知るはずもないのだ。



「お母様、これはどういうことでしょうか?」

付き添っている母親のオフィーリアに聞いても、知るはずがない。

完全にヘルフリートの見切り発車である。

「昨日、街で倒れて、噂になってるのかもしれないわね。

殿下が、公爵家にお見舞いということかしら?」

オフィーリアも、返すわけにいかないし、と困ってしまう。

独身の王弟が、未婚のエヴァンジェリンに花束を贈るのは、深い意味があると取られることさえある。

「あの慎重な殿下が、何か訳があるのかもしれないわね。

薔薇の花ではないから、お見舞いで他意はないのかしら」

「はい、お母様。どこかで見たような気がするお花ですね」

「私もそう思うのだけど、思い出せなくって」


教会の庭に咲いている雑草のような花を、急遽取り寄せたヘルフリートの熱意はすごいが、エヴァンジェリンが覚えているはずない。

その時、エヴァンジェリンは3歳だったのだ。


ヘルフリートの真心は、エヴァンジェリンに伝わらない。

それどころか、母娘は公爵家に対しての儀礼とさえ思っていた。




ケーリッヒは父の宰相に呼ばれて、宰相執務室に来ていた。

「父上!」

思わず声を荒らげたのはケーリッヒだが、一緒に話を聞いている軍司令官は違う意味で叫びそうだった。

「ケーリッヒ、声が大きい」

宰相であるシェレス公爵が、落ち着きなさいと制する。

ケーリッヒは言いたい事がたくさんあるが、集っているメンバーを見て口を閉ざす。


口を開いたのは、軍司令官ホルエン侯爵である。

「殿下、よくぞ決意してくださった。

これで、戦争を避ける望みが出てきた」

ヘルフリートの手を握らんばかりである。

「心配かけているのは知っていたが、兄と争うのは避けたかった。

戦争になれば、どちらが勝っても、大勢の戦死者、負傷者が出るだろう。

分かっていても、決断出来なかった私を許して欲しい」

ヘルフリートは、まっすぐにホルエン侯爵を見て、その後ケーリッヒに向いた。


「ケーリッヒ・シェレス、貴殿が心配するのは尤もだ。

王位を得る為に、シェレス公爵令嬢を娶るのではない」

ヘルフリートは口元に手袋をした手を当て、少し躊躇してから続ける。

「もう、何年も諦めていたのだ。

公爵家の令嬢を妃にすれば、兄の地位をさらに追い詰める。

それに、エヴァンジェリン嬢には婚約者がいたから、幸せを願っていた」

それで、婚約者になりたいと勢いたっていたのか、と納得のシェレス公爵と、驚くケーリッヒとホルエン軍司令官。


「先程、エヴァンジェリン嬢のお見舞いに、御令嬢と初めて会った花園に咲いていた花を贈ったのです。

少しでも、心休まって静養されるといいのですが」

フライングしたのを嬉しそうに話すヘルフリートに、ケーリッヒは同情したくなってきた。


その花園の出会いがいつかは知らないが、ずっと片想いして、他の女性を近づけない程の純情。

婚約破棄したばかりで、直ぐに次の婚約を決めるのは節操がないと思われるが、エヴァンジェリンを他に取られまいと頻拍していたのは理解できる。

父親に妹の婚約者が王弟で決まったと聞いた時は驚いたが、これ程大事に思われているならいいのではと思えてきた。

これから、危険が大きくなる王弟殿下を守らねばならない。



15歳のヘルフリートが3歳のエヴァンジェリンを見初めたと、知ったならシェレス公爵もケーリッヒも、エヴァンジェリンとの婚約を渋ったかもしれない。

ホルエン軍司令官だけは、相手が幼児であろうが、赤ん坊であろうが、ヘルフリートが王位を覚悟するなら誰でも賛成するだろう。 


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― 新着の感想 ―
[一言] 当人との温度差が凄いです。 エヴァンジェリンの中で『気持ち悪い』になり掛かってますよ、王弟殿下(笑)
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