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王弟、結婚を申し込む

シェレス公爵は登城すると、王弟に礼を言いに行った。

王弟の処理は宰相代理として申し分ないものだった。王の補佐にしておくには惜しい才能であることは間違いないが、本人が王位を望んでいない限り、王の影の存在であるしかない。


王の派閥である低位貴族達以外は、血筋、才能、外戚、誰もが王弟の方が王に相応しいと思っていた。

シェレス公爵もそうであった。

王の息子である王太子の後ろ盾はないに等しい。


王弟ヘルフリートの母である先王妃の祖国では、王妃の息子ではなく側室の息子に王位を授けたことで、国境に軍を配置するようになった。

王女を嫁がすというのは和平の契約でもあるのだ。

それをないがしろにされた、ということである。


ヘルフリートが王位を望めば内戦、王位を手にしなければ先王妃の国と戦争の可能性が高い。



「令嬢の容態はどうなのですか?」

訪ねて来た公爵にヘルフリートが最初に言った言葉がこれだ。

エヴァンジェリンが危篤。

昨日から山ほど後悔していた。

エヴァンジェリンを亡くすぐらいなら、もっと側で守ればよかった。何でもしたのに、とヘルフリートはエヴァンジェリンの情報を集めた。



「殿下にはご心配をおかけしましたが、容態は落ち着いて意識も戻っております」

公爵はヘルフリートの様子を慎重に確認しながら、言葉を続ける。

ヘルフリートがエヴァンジェリンを気に掛けるなど、思いもしなかったからだ。

昨日、公爵が帰れるようにと、仕事を引き受けたことからして異様なのだ。

「殿下、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか?

人払いをお願いしたい」


ヘルフリートは了解と頷くと、事務官を下げてシェレス公爵と向き合う。

机に広げられていた書類を片付けるヘルフリートは常に絹の手袋を着用している。

ヘルフリートの潔癖症は有名だ。決して素手で女性に触らない、手袋を外すことはない。政略的に結婚が難しいこともあったが、女性に関心がないという噂まである。

「公爵、話とはエヴァンジェリン嬢に関することと思っていいか?」

「はい」

これは公爵の賭けでもあった。

ヘルフリートは女性の噂は皆無に等しい。その王弟がエヴァンジェリンの名を知っている。

「娘の婚約は破棄となります」


パっ、と顔をあげたヘルフリートを見て、公爵は確信した。

「次の結婚相手を探さねばなりませんが、今回のことで娘の身体は弱っており簡単にはいかないでしょう」

「私が大事にする!

誰よりも、何よりも大事にする!」

ヘルフリートは公爵に身を乗り出して、アピールする。


驚いたのは公爵だ、これほどの反応をするとは思ってなかった。

「殿下お待ちください、エヴァンジェリンの状態をお話しします」

そうして、昨日の出来事を話した。


ボキッ、その音に公爵はヘルフリートの手を見た。

握られていたペンが折れていた。

「その男は、エヴァンジェリン嬢の婚約者となった幸運をよく考えるべきだった」

「殿下」

ペンの状態で、ヘルフリートの怒りの大きさを察した公爵が止めに入る。

「ビスクス伯爵家には、我が家が制裁します。

二度と娘の前に現せません」


「公爵、どうか令嬢との結婚の許可をいただきたい」

シェレス公爵はヘルフリートに答えないで、押し黙っている。

「私は、欲しいものは手が届かないと思っていた。ずっと昔に諦めて、他はどうでもよかったんだ。

今度は、諦めない。

どうか、御令嬢を私にください」

ヘルフリートは手袋をした手を差し出した。


「殿下、シェレス公爵の娘を娶る覚悟がおありですか?」

部屋に公爵の言葉が響く。


「エヴァンジェリン嬢を守る為なら、王になろう」

それは王を凌ぐ力を持って対立するということだ。

血統、才能、母親の国という外戚、シェレス公爵を筆頭とした国内勢力、全てで王を優越している。

「エヴァンジェリン嬢を亡くすかもしれないという恐怖を知った。

守りたいんだ」


シェレス公爵は、ヘルフリートから目をそらした。

「殿下が王道なのです、それが我らの真意です」

ですが、と公爵は言葉を躊躇する。

「娘が王妃となって、苦労するのも危険になるのも避けたい」

娘が可愛いと、再認識したばかりなのだ。


それでも、公爵としてこの国の未来を考えねばならない。

公爵は、ヘルフリートの手を取った。

「婚約を許可します。

ですが、娘が結婚の意思をもつまで結婚式はお待ち下さい」

婚約者の浮気と破棄、吐血して体調は最低の状態のエヴァンジェリン。すぐに婚約が決まると負担も大きいだろう。


「ああ、ありがとう公爵。

誰よりも先にエヴァンジェリン嬢の婚約破棄を知れて幸運だった。

エヴァンジェリン嬢が安心して暮らせる国にする、皆の期待を裏切らない」

ヘルフリートは公爵の手を強く握った。


「殿下、私は娘の婚約破棄の手続きをしますので、これで失礼します。

近いうちに息子を殿下の元に回します。

他の有力貴族達との会合を設定しますので・・」

シェレス公爵が全てを言わなくとも、ヘルフリートは首を縦に振る。

「ああ、外交の事は任せてくれ」

ヘルフリートは母の国の事は抑えると言っているのだ。


「まず、軍を押さえましょう」

シェレス公爵は、小さく呟いた。


エヴァンジェリンが知らないうちに、エヴァンジェリンを中心とした王位簒奪が動き出した。


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