愛を感じる時
エヴァンジェリンは扉に耳を付け、隣室の話を聞こうとしたが、何も聞こえなかった。
重要な話を大声でするはずがないのだ。
「うーん、気になる」
私だって、ヘルフリートの妃になる覚悟は出来ているんだから、教えてくれてもいいじゃない。
それに、ヘルフリートがケガをしていたのも心配だ。
でも、あのメンバーの秘密の話を無理に聞く事はしたくない。言える時がきたら、教えてくれればいい。
アナクレト王の葬儀も済んで、今はやることがいっぱいなんだから。
どうして、アナクレト王を殺してしまったの、と、思ったけど、目の前でオブライアン王子がヘルフリートを襲おうとしているのを見て、分かってしまった。
殺さないと、殺されるのだ。
部屋にあるデキャンターの水を飲もうと、ベッドのサイドテーブルに向かう。
寝室の扉から離れると、大きなベッドが目につく。
うわぁ。
両頬に手を当てると熱を持っているのが分かる。きっと顔は赤くなっているだろう。
ベッドを見て、赤くなるって、と自分で恥ずかしい。
だって、そのうち、このベッドでヘルフリートと、なんて想像してしまう。
「いやーん、もう」
水は後回しにして、ベッドをボスボス叩いていたら、後ろに人影を感じた。
「何が、いやーんなんだ?」
心臓が止まるほど驚いて、身体が跳ね上がった。
ギギ、と音が聞こえるような動きで振り向けば、予想した通り、ヘルフリートが立っている。
「うきやぁあ」
淑女としてあるまじき悲鳴である。
「ぶ、ははは」
ヘルフリートがお腹を抱えて笑い出した。
「いや、貴女はまさに天使だな」
生まれてきたのを後悔するような話だったのに、それを一瞬で忘れさせてくれる。
「どこが天使なんです!?」
ベッドでの事を妄想してたんですよ、と声に出さなくとも、真っ赤なエヴァンジェリンを見たら想像がつくのだろう。
「いつでも、貴女の期待に応えるつもりだ」
ヘルフリートがエヴァンジェリンの髪を一房取り、口付けをする。
「ヘルフリート様、潔癖症の貴方は何処に行ったんですか!
ま、ま、まるでレディ・キラーのようです!」
焦るあまりに、エヴァンジェリンは他人に対しての配慮を欠いている。
幼なじみのミッシェルと近すぎて、大人の付き合いのなかったエヴァンジェリンには、泡を吹きそうなぐらいに強烈な事なのだ。
「潔癖症か、そうだな、間違いない。
けれど、エヴァンジェリンの事だけは、違うみたいだ」
ヘルフリートは、夜会で見かけていた物静かなエヴァンジェリンが、ヘルフリートを心配して人をかき分けて走って来る行動力に驚き、嬉しかった。
「エヴァンジェリンの事が好きだから、何をしても愛しい。
閨を考えて、この真っ赤な顔も可愛い」
「きゃああ」
エヴァンジェリンはヘルフリートの口を塞ごうと手を伸ばして、思い出した。
今度は、私からキスしたい。
そのまま、ヘルフリートにキスをした。
驚いたのは、ヘルフリートだ。
「生まれてきて、良かったと思うよ」
エヴァンジェリンは、大げさなと思ったが、ヘルフリートにとっては真剣だった。
「貴女が笑っていられる国でありたい」
貴女の為に、王になる。
「私もです」
エヴァンジェリンも、笑顔でヘルフリートを見る。
「ヘルフリート様が笑ってくれる家庭を作りたい」
エヴァンジェリンがヘルフリートに抱きつく。
「だから、いつも一緒にいましょう」
「ああ」
ヘルフリートはエヴァンジェリンの体温を感じて、これを幸せと呼ぶのだと思う。
エヴァンジェリンを抱きしめ、髪に手を添えれば、エヴァンジェリンが頭を預けてくる。
そっと上を向かせて、唇を重ねる。
好きな人に、愛されている。