襲撃の結末
エヴァンジェリンも公爵令嬢として、アナクレト王の葬送式に参列していた。
目の前で起こった騒乱は、あっという間に鎮静されたとはいえ、王が襲撃されたのだ。
参列者の多くは逃げまどい、警備の騎士や兵士がガードする。
逃げる人の列を逆走してエヴァンジェリンは走った。人の流れを掻き分け、ヘルフリート目指して。
そのエヴァンジェリンにも警護が付いている、彼らもエヴァンジェリンから離れないようにしながら、周囲に注意する。
ヘルフリートとケーリッヒはそんなエヴァンジェリンに気が付いていた。
危ないからこちらに来るな、と思っていても、心配して来てくれる姿は嬉しい。
ヘルフリートの警護に付いている、何も知らない騎士が近づいて来るエヴァンジェリンを排除しそうな動きをして、ケーリッヒに止められた。
「あれは僕の妹で、陛下の婚約者だ」
「ヘルフリート様」
はぁはぁ、と息を切らしながらエヴァンジェリンが走って来る。
「大丈夫ですか?おケガはありませんか?」
「私は大丈夫だ、優秀な警護が付いている。エヴァンジェリンこそ大丈夫か?」
ヘルフリートはエヴァンジェリンの手を取り、その身体を確認して無事を確かめると安心して息を吐いた。
突然の襲撃があり、列席者の多くが避難したが、アナクレトの葬儀は続けられ、王家の霊廟に埋葬された。
ヘルフリートの隣にはオブライアン王子ではなく、エヴァンジェリンが付き添った。
手を繫ぐ二人の姿は、人々に周知の事になり、ヘルフリートとエヴァンジェリンの婚約が公布されたも同じだった。
問題は、オブライアンの処理だった。
王宮の居室に厳重に監禁されてはいるが、牢に移そうとするホルエン司令官達にヘルフリートが反対しているのだった。
「自分以外のただ一人の王族で、子供だ。処刑と決めるのは早計過ぎる」
葬儀の後、エヴァンジェリンの安全の為に、ヘルフリートは自分の部屋にエヴァンジェリンを匿っていた。
エヴァンジェリンがヘルフリートの婚約者と知れ渡った今、残存しているアナクレト親派が狙ってくるかもしれないからだ。
「陛下」
コンコン、とノックして現われたのは、シェレス公爵だ。
「お話があります。入室してもよろしいでしょうか?」
ヘルフリートが許可すると、入って来たのはシェレス公爵だけではない、ケーリッヒ、ホルエン司令官と嫡男で近衛部隊長のフェリック、レガシー侯爵と嫡男ガンゼル、コーディング公爵と嫡男ランカスターだった。
連血状の主要メンバーであり、国の要職に就いている重鎮と嫡男達だ。錚々たるメンバーにヘルフリートは、オブライエンの処理の事にしては不穏だと思った。
「ヘルフリート様、私は外に出ております」
エヴァンジェリンが部屋から出て行こうとするのを、ヘルフリートが止める。
「外は危険が多い。隣の寝室に行ってくれないだろうか」
はい、と返事したエヴァンジェリンが寝室に入って扉を閉めると、シェレス公爵が人払いを、とヘルフリートに進言する。
侍従も騎士も部屋の外に出て、ヘルフリートの居間には9人の男達だけになった。
応接のソファだけでは足りず、椅子を持って来て、それぞれが座る。
「私も父から受け継いだ話になります。
今こそ、陛下と息子に告げるべき時だと思い、集まってもらいました。
これは、最初から御存知でおられるレガシー侯爵にお願いするのが間違いないと」
シェレス公爵が言うと、最年長のレガシー侯爵が後を引き継いだ。
「今から30年程前になります。先代、いや先々代に当たる陛下の父上の時代の事です」
そう言って、レガシー侯爵は話し始めた。