決闘
あけましておめでとうございます。
2022年、今年もよろしくお願いします。
皆様にも、良い年でありますように。
天気は快晴、騎士の訓練場には、多くの人が集まっていた。
王弟ヘルフリートと、伯爵令息ミッシェルの決闘の時間が迫っていた。
ヘルフリートが水の入ったグラスを机に戻した。
「これは、誰が用意した?」
護衛のケーリッヒが、それを持って周りに確認する。
ケーリッヒが準備していないものが、ここにある、それが問題なのだ。
死ぬほどの毒でなくていいのだ、少し体調が悪くなるだけでいい。そうすれば決闘という場で、堂々とヘルフリートを殺すことが出来る。
毒とも言えないほどの微弱な悪意ある物は、無味無臭だけでも山ほどあって、簡単に手に入る。
誰も名乗り出る者はいない。
異物の入った水を置いたなら、すでに逃げているだろう、とケーリッヒは諦めた。
今は、決闘に騒動を起こすべきでない。
「申し訳ありません殿下、これは決闘が終わりましたら、調査を続けます」
簡単にヘルフリートには近づけないようにしてあるのに、どこかに穴があったか。
「殿下、時間です」
騎士が呼びに来て、ヘルフリートはケーリッヒを伴い控室を出る。
決闘が決まってから、ケーリッヒを相手に剣の練習を強化した。動きも国境にいた頃より軽くなっている。
ケーリッヒを柵の手前に置き、決闘場である軍の訓練場に入ると、すでにミッシェル・ビスクスは来ていた。
見物の中には、王夫妻の姿があり、シェレス公爵とエヴァンジェリンの姿もあった。
エヴァンジェリンから貰ったリボンは、剣の鞘に結び付けてある。
ヘルフリートの決闘相手は、ミッシェルであって、ミッシェルでない。
王にヘルフリートの腕前を見せつけるのも目的の一つだからだ。
「ヘルフリート様」
遠く離れているエヴァンジェリンの声が聞こえた気がした。
ヘルフリートは手袋をしていない。
剣を持つ手が滑らないように、素手である。
潔癖症などと、気弱になっている余裕はないのだ。
真ん中に立つ審判である騎士が手をあげた。
「始め!」
きゃあ、と声援が上がり、周りからも声援とも怒声とも聞こえる声があがる。
カキーン!
剣が打ち合わされ、二人が剣に力を込める。
「何をした?」
ヘルフリートはミッシェルが、何を意味して言っているのか理解出来なかった。
「え?」
「あいつは、いつも僕の言う通りにしてたんだ。
僕に反論するなんて、変なんだよ」
エヴァンジェリンをあいつだと?
まるでエヴァンジェリンが、お前のものであるかの様に言うのが気に入らない。
「公爵令嬢だ、貴様があいつなどと言っていい相手ではない」
何よりもヘルフリートの婚約者なのだ。
ガン!!
何度も剣がぶつかり、火花を散らす。
それでも、少しずつミッシェルが打ち込まれていく。
ザン!
ヘルフリートの打ち込んだ剣が、ミッシェルの頬をかすり、血が流れる。
ミッシェルの服が、斬られてボロボロになっていく。ヘルフリートを避けようとして、ミッシェルがバランスを崩してよろけると、ヘルフリートはすかさず打ち込んでいく。
ヘルフリートが大きく腕を振り上げ、ミッシェルを斬りつける。
ドン、と音がしてミッシェルが倒れ込み、地面にミッシェルの血が広がっていく。
「勝者、ヘルフリート・フォン・メルデア」
場内に立会人の声が大きく響いた。
ああ、良かった。
エヴァンジェリンは、安堵に肩の力が抜けた。
かつて好きだったミッシェルが倒れていても、ただヘルフリートの無事が嬉しいと思う。
そんなものなんだ、ストンとエヴァンジェリンの心に何かが落ちた。
私が、ヘルフリート殿下を選んだんだ。