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決断の時

長い時間をかけ、開戦の準備をしていた国からの要請。

即断の出来る事ではなかった。


瞳の色の指輪。

それに強制力はない。

だが、一族の長としての誇りが王にはある。


「ヘルフリート・フォン・メルデアが王位を簒奪できなくとも、メルデア王国の王と王弟の争いで国力は落ちているだろう。その時に攻め入れば、我が国の被害は少なくて済む。

ヘルフリート・フォン・メルデアが王位に就いた時、親レクーツナの国が成立する。

今回、静観してメルデア王国を支配下に置くかを判断するとしてはどうでしょう?」

ヘルフリートの手紙を受け入れるべきと、王太子サムエルが主張する。

それは、ヘルフリートが王位に就いた時は、親レクーツナにはなるが支配を出来ないということだ。

今までの準備を放棄することになる。


「メルデア王国は、サラティ王女が王子を産んだ時に、王太子を交代させるべきだった。信頼を作る為の政略結婚であり友好条約という同盟になるのだ。

それをメルデア王国は裏切った。ヘルフリート王子が王位に就いたとて、先王と同じ裏切りをしない保証はない。

今が攻め入る時期なのです。それを逃してしまう」

司令官は軍事決行の時期を優先して言う。


王は両方の意見を聞いていたが、宰相にも意見を求めた。

「私は、あの使者の姿に感嘆しました。あの者が仕える人間を見てみたいですね」

宰相の考えに、司令官も反対はない。


「私も王太子と同じ意見だ」

王が決断したことで、ヘルフリートの手紙を受け入れる事が決まった。


ガタン、と席を立ったのはサムエルだ。

「使者殿の様子を確認してきます。我が軍の者がした事が恥ずかしい」

王の返事を待たずに、サムエルは謁見室を出て行った。


「あれは、ずいぶん気に入ったようだな」

王が面白そうに言う。

「陛下、あの使者は拷問で死のうとも、主君の名誉を守ったでしょう。

その主君が羨ましくありますな。殿下もそうでしょう。

何とも魅力的な御仁ですから」

それが心配だ、と宰相も同意する。





扉が閉まる音がし、リュシアンは飛び起きようとして痛みに(うめ)いた。

「驚かしたか、リュシアン」

サムエルは侍従に椅子をベッドサイドに持って来させると、部屋から下げさせた。

「殿下、申し訳ありません」

起き上がろうとするリュシアンをサムエルが止める。

「医師から話を聞いた。背に深く傷ついている、絶対安静だ」

無数の古傷があるとも聞いている、気になるが聞くべきでないことも分かっている。


「大丈夫です。傷には慣れています。

一刻も早く、主の元に帰らねばなりません」

「その傷で馬に乗ろうとするのか!?」

気持ちはわかるが、傷をつけたのが自国の兵であるだけにサムエルは治療を優先させたい。

もしかして、古傷がその主と関係があるとしたら、なおさらだ。


虚勢を張っても、痛みは無くならない。

リュシアンが眉を(ゆが)めるのを、サムエルは見逃さなかった。

いや、妖しさに目を離せなかった。

「陛下が返信の書状を書かれている。

それを待つ間、休んだ方がいい。こちらからも騎士を届人として同行させる」


それを聞いて、リュシアンも安心した。

さほど待たずに国に向かって出発できそうだ。


リュシアンは視線を感じて、サムエルを見る。

色恋に関しては敏感で、自分の容姿もよく分かっているリュシアンだ。

王太子が自分に興味を持っていることを感じていた。

「殿下」

リュシアンの手を、サムエルが取る。

「殿下、申し訳ありません」

レクーツナの王太子ならば、思いのままになるだろう。きっと自分のことなどすぐに忘れる。

首を横に振っても、サムエルの視線は外れない。

ただの使者であるリュシアンには、王太子に逆らうわけにはいかない。


その夜は、そのまま何事もなく過ぎ、翌朝、王の書簡を持って、リュシアンは国に向かった。



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