表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/68

近づく為の一歩

翌朝、食堂に行くと公爵はすでに席に着いていた。

徹夜をしたのだろう。

「おはようございます、お父様」

エヴァンジェリンが挨拶すると、公爵も返してくる。

「おはよう、よく眠れたか?」


「はい、疲れが取れました」

エヴァンジェリンは朝の目覚めが、いつにもましてスッキリとしていた。

昨夜、リリに襲われた時に、エヴァンジェリンはリリをかわしたのだ。それが自信になっていた。


今まで、ミッシェルに従い、婚約破棄になると次の婚約者もすぐに決められた。

貴族の娘の結婚を父親が決めるのは普通のことだが、今朝のエヴァンジェリンはちょっと違う。


もちろん、無茶をするつもりなどないが、自分で出来る事が増えるのは嬉しい。

「お父様、ビスクス伯子の事はどうなっているのでしょう?」

もう他人だ、ミッシェルとは呼ばない。


「軍の牢に入っている。取り調べは慎重にしないとならないのだ。

彼が一人で公爵領地に来たとは考えられないからね」

父親に言われて、エヴァンジェリンは気づいた。

いくら自惚れやのミッシェルであっても、現在のビスクス伯爵家に力がないのを分かっているだろう。

お茶会の帰りの馬車の暴走も、リリの暴挙もエヴァンジェリンを狙ったものだ。

ミッシェルもそれと関係している、と考えてもおかしくない。


「ビスクス伯子が単純に婚約を迫っただけの話ではない、ということですね」

それを、どうなったんだろうと、王都に戻ってくるなんて、単純なのは私だ、とエヴァンジェリンは恥じた。


「いや、今までそういう教育をしてこなかったから当然だ。気付いたのならそれでいい」

公爵は娘の姿に目を細める。

ビスクス伯爵夫人になる予定だった娘には、経済的なことが中心の教育をしてきた。

なのにエヴァンジェリンは自分で気が付いた。

(さと)い娘である。嬉しい誤算だ。

王弟殿下は王に成る身だ。エヴァンジェリンは王妃になる。

エヴァンジェリンは王家と貴族を結ぶ礎になるだけではなく、殿下を支える賢妃になりえる。

「エヴァンジェリン、政治の勉強をするか?」

言いながら、娘に苦労を増やすようで公爵は否定の気持ちもあった。


「はい」

失敗したと思っていたのに、父親に認められて、エヴァンジェリンは力強く返事をした。





ヘルフリートとケーリッヒは、国境の砦を掌握し、王都への帰路であった。

馬に水を飲ますために、湖の近くで休憩を取っていた。


「殿下?」

草むらに入って行くヘルフリートにケーリッヒが声をかける。


「珍しい花が咲いていると思って」

ヘルフリートは摘んだ花をケーリッヒに見せると、胸ポケットからメモ帳を取り出すと、そこに挟んだ。

押し花である。

「花には詳しくないのだが、この地域にしか咲かない花だったら見せてやろうと思う」

ヘルフリートは、誰に、という言葉が抜けているが、聞いているケーリッヒの方が恥ずかしくなってくる。


「そうですか、喜ぶでしょう」

そういえば、妹にプレゼントなんて何年もしていない、とケーリッヒは思い出す。

会話も、あの街に出かけたのが久しぶりの会話だったのだ。

妹に寂しい思いをさせていたな、これからは、と思うが、すぐにヘルフリートに奪われるのだと思いなおす。

なんだか、楽しくない自分に気が付いた。


そうか、生花では持ち帰れないから押し花か。


殿下には勝てないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ