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本当の罠

「お粗末すぎる。

毒キノコも熊も、危険には違いない。

だが、王族の護衛は優秀だ。あれぐらい排除するのは分かり切っている」

熊の出没を印象づける必要があるという事だ。


たとえば、殺した遺体を熊に襲われたとカモフラージュできるように。




砦の視察を終え、用意されていた部屋に入ろうとした所で、ケーリッヒはヘルフリートを止めた。

「お待ちください。

中から音がします」

ケーリッヒが剣を手にして、反対の手で扉に手をかけると、リュシアンがヘルフリートを庇うように前に立つ。

ケーリッヒは、扉の前には立たず、扉の影になるように扉を開ける。


部屋の中には、部隊長が立っていた。

「殿下に謀反の疑いがあります。

視察に乗じて、レクーツナに逃亡しようとされたのでは?」

とても、話を聞きたいという様子ではない。

部隊長の後ろには、兵士達が剣を構えている。

 

「殿下に剣を向けるのがどういう事か、わかっているのか?」

ケーリッヒが声を張り上げる。

「お前達こそが、謀反者ということだ」


「俺は、王の親書を持っているんだ、これだ!」

部隊長が懐から手紙を取り出す。


あれが本物かどうかは関係ない。王が証拠になるような物を用意するとは考えにくい。

国境への派遣は急な事だった。それをヘルフリートの暗殺に使うのは用意されていたという事だ。

偽物の書状だとしても、王が関与しているのは間違いない。


ケーリッヒが剣の達人であったとしても、多勢に無勢。

ケーリッヒがヘルフリートとリュシアンに目配せをする。

危険と分かっていながら、護衛がケーリッヒとリュシアンだけというのは理由があるからだ。



部隊長が面白そうに、抜いた時に事態は動いた。


「ぐえぇ」

背中から斬られた部隊長が倒れた。


兵士の中から数名が、仲間の兵を斬り始めた。王弟派閥の貴族が潜り込んでいるのだ。

部隊長に協力するふりをして様子を窺っていた。

ケーリッヒの合図を受けて、部隊長に斬りかかり、部隊長に協力する兵士達を排除している。

そこにケーリッヒが突入した。

リュシアンはヘルフリートを守る為に、その場に留まっている。

ヘルフリートも剣技が優れているが、実戦経験はない。それどころか、血で汚れるのを嫌う潔癖主義だ。

王もそれを見越して、国境に派遣したのだろうが、派遣を受け入れた時点でヘルフリートは覚悟を決めていた。


生き残る為に足掻(あが)こうと。


剣を手にしたヘルフリートが、一歩を踏み出した。

「熊に襲われたようにするつもりだろうが、それはお前達だ!」

ザン!

ヘルフリートの白い手袋が赤く染まっていく。

リュシアンはヘルフリートの邪魔することなく、護衛に徹している。勘のいい男である。


雌雄はあっという間に決まった。

兵士の多くは、闘争意欲を失くして降参したからだ。

元々、部隊長に逆らえずにいた者も多い。


返り血を浴びたヘルフリートに、ケーリッヒが跪くと、他の者達もそれにならう。

国の未来を憂い、戦争を避けるために国境の地に身を隠していた王弟派の貴族に連なる騎士達である。

「よくぞ、耐えてくれていた」

ヘルフリートが皆の苦労を(ねぎら)う。

頭を下げたままの騎士達の肩が震えている。

長年潜んできたのが、報われた瞬間であった。


「ケーリッヒ」

ヘルフリートがケーリッヒを呼ぶ。

「部隊長は熊に襲われて亡くなった。

外にいる、何も知らない兵士達に伝達しろ」

「はっ」

ケーリッヒは数人を引き連れて、部屋を出て行く。


「始まった、もう戻れないんですよ、兄上」

それは私もだ、と呟く声は、リュシアンにだけ届いていた。


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