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ミッシェルの執着という思い違い

ミッシェルはシェレス公爵領の屋敷に来ていた。

屋敷というより城という方が正しい。

エヴァンジェリンと婚約して間もない幼い頃に、遊びに来た記憶がある。

城壁の傷んだ所から出入りして、森に遊びに行った。


当然、その穴は塞がれていたが、明らかに色が違い、材質の違いが見て取れた。そういう所はもろいのだ。

ミッシェルが用意していた鉄棒で強く叩くと、ボロボロと崩れだした。そうなると穴を空けるのは容易だった。

塞がれていた所が穴になったが、子供には余裕だった穴が、大人のミッシェルが通るには苦労した。


公爵邸は警備を強化されていたが、城壁の外の巡回はなく、ミッシェルは見つかることなく城に入れたのだ。

ミッシェルは城内の造りは分からないが、エヴァンジェリンを見つけるまで探し回るつもりだ。


ミッシェルにとってエヴァンジェリンは、自分の言う事を聞く女という思いしかない。

今まで、『はい、ミッシェル』、常にこの言葉がエヴァンジェリンから出ていたのだ。

自分が優しい言葉をかければ、すぐに元通りになるはずだ。

父親に叱られた時も、王妃に呼ばれた時も、そう答えたのだ。


あんな綺麗なだけの面白みのない女でも、公爵令嬢だ。

男爵令嬢のロミリアよりも自分に相応しい。


ミッシェルが堂々と城内を歩くので、かえって誰からも不審に思われない。

使用人の数は多く、ましてや多くの警備兵が王都から同行して来ているので、知らない顔がいても不自然でないせいでもある。


そして、ミッシェルはエヴァンジェリンを見つけた。

庭園の片隅で、何かしている。


ミッシェルの記憶のエヴァンジェリンは、部屋で本を読んでいるとか、刺繍しているとか、おとなしく部屋に籠っていた。

庭にいても、木陰でお茶をしていた。こんな、太陽の下で庭に出ていたことなどなかった。


ミッシェルが近づいても、エヴァンジェリンは気が付かずに花を摘んでいる。

護衛は気づいているが、堂々としているので用事のある使用人の可能性もあり、すぐには制止に動かないで様子を見ている。


「エヴァンジェリン」

ミッシェルは、エヴァンジェリンが嬉しそうに反応するはずと声をかけた。





ミッシェルがそこに居た。

エヴァンジェリンは、すっかり忘れていた存在を思い出していた。

あれから怒涛のような毎日で、ミッシェルのことなど考えたこともなかった。領地に来てやっと穏やかになったばかりだ。

「不法侵入者よ、好きにしていいわ」

公爵令嬢と伯爵子息、明らかにエヴァンジェリンの方が身分が高く、招待もしていない。


こんなにいたのか、と思う程の護衛がミッシェルを捕らえにかかる。


「エヴァンジェリン、僕だよ、婚約者のミッシェルだ」

君の好きな顔だよ、とばかりにミッシェルが自慢の顔に笑顔を浮かべる。

護衛達に取り押さえられているのに、状況を理解していない。


エヴァンジェリンは、ミッシェルを一瞥(いちべつ)しただけで、嫌そうにする。

気持ち悪い。

浮気者の元婚約者より、一途に自分を想っていてくれた現婚約者の方に気持ちは動いてしまっている。

「私には婚約者がいます、貴方ではありません」

元婚約者に見切りをつけた女は潔い。

「関係ありませんので、屋敷に忍び込んだ泥棒と同じ扱いでいいわ。

誰か、お母様に不審者がいると連絡してちょうだい」

ミッシェルに目を向けることなく、エヴァンジェリンは侍女を連れてその場を去っていく。


護衛に押さえつけられているミッシェルは、後を追う事も出来ず暴れるが、護衛に(かな)うはずもない。

「婚約者だと、この浮気者!

お前達、僕を誰だと思っているんだ!

無礼者!手を離せ!」

王妃にエヴァンジェリンを連れて来ると約束したんだ、僕のメンツはどうなるんだ!


遠ざかるエヴァンジェリンの耳に、ミッシェルの声が小さくなっていく。

あんな男を好きだった時が、遠い昔に感じる。

バカみたい。

どうして、あんな男の言う事を聞いていたんだろう?

昔の男のことなど頭の中から消えて、婚約者の顔が思い浮かんでくる。


ヘルフリート様はご無事でいらっしゃるかしら?

お兄様も付いてらっしゃるけど、危険には変わりないもの。



オフィーリアから王都にいるシェレス公爵に連絡がいき、ミッシェルは公爵邸に忍び込み、令嬢を攫おうとした犯罪人として王都に護送されることになる。


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