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ヘルフリートの派遣

メルデア国王、アナクレトは謁見室に弟のヘルフリートを呼んでいた。

「レクーツナ王国との国境への派遣を任ず」

まるで、レクーツナ軍に合流して裏切るのを予測したような派遣である。


宰相であるシェレス公爵も初めて知ったらしい。

「陛下、王弟殿下が国境に向かえば、レクーツナ王国を刺激します」

軍の遠征は、王宮より危険だ。

王弟一人を派遣するわけではない。

軍隊を同行させれば、怪しい人物を潜り込ますことも容易だ。

何より長い道中で、警護を薄くする事が容易(たやす)くなる。

遠征中に、事故はよくある事だ。

落石、食中毒、野獣の襲撃、どれもが人為的に偽装できる。


だが、ここで断るわけにいかない。

「謹んでお受けします」

ヘルフリートは王に礼をすると、準備をすると言って謁見室を出た。


速足で歩くヘルフリートに、扉の外で控えていたケーリッヒが付き従う。

「レクーツナ国境に派遣となった」

ケーリッヒは驚きもせず、補佐官らしく日程の調整を口にする。

「明後日からの、外交会談は出席できそうですか?」

「無理だな、明日には出立だ」

執務室に着いて、扉を閉めると、ヘルフリートは向きなおった。


「僕とリュシアンが随行します」

ケーリッヒの言うリュシアンの事は聞いているが、ヘルフリートは難色を示す。

「その男は信頼できるのか?」

「敵の敵は味方になりえます。

軍隊に王の配下が紛れ込んでいるなら、少しでもこちらの手勢は多い方がいい」

ケーリッヒは机の上の書類を緊急順に分けて、ヘルフリートに差し出す。

「出立までに決裁が必要な書類です」


ヘルフリートはケーリッヒに片眉をあげる。

「君は有能だな。

それでどうして、軍になど入ったんだ?」

「剣も有能でしたので」

ペンを持つ手は止めずに、二人は会話をしている。

急な遠征で、それまでにやらねばならない事が多すぎる。

「有能な僕は、殿下を夕食に招待します。

エヴァンジェリンに話をして欲しい」

ケーリッヒもエヴァンジェリンが心配する話を切り出しにくいのだろう。

ヘルフリートも出征前にエヴァンジェリンに会うのは嬉しいが、危険な遠征に兄も連れて行く、と告げねばならない。




エヴァンジェリンは兄から手紙を受け取って、殿下を迎えての晩餐の準備を母のオフィーリアとしていた。

王妃の件も片付いていない。

王が動き出したのだ。


ミッシェルと婚約破棄して、新しい婚約者が出来たら、自分が狙われ、今度は婚約者が危険な遠征に出るという。

婚約破棄の次は、婚約者死亡など、イヤだ。


帰宅した馬車には、ヘルフリートだけでなく、ケーリッヒ、公爵も、乗っていた。


迎えに出たエヴァンジェリンに、ヘルフリートが目を細める。

シェレス公爵も、今夜は無粋な事は言うまいとしている。


それぞれの思いを胸に、時が早足で動き出した。

「エヴァンジェリン嬢、お会い出来て嬉しいです」 

ヘルフリートは、エヴァンジェリンと共に食堂に向かう。

エヴァンジェリンの手を取り、その温かさの幸せを堪能する。


自分が遠征するからと言っても、エヴァンジェリンが安全になるわけではない。

王妃は、あきらめていないだろう。

それどころか、ケーリッヒも留守になり、手薄になったこの屋敷を厳重に警備しなければならない。

ヘルフリートの思いを感じたのか、エヴァンジェリンが微笑む。

この瞬間、二人はお互いの身を案じていた。


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