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ケーリッヒとモーガン

アネットは出血は多かったが、命に別状なく翌日には目を覚ました。

エヴァンジェリンは、アネットが目を覚ましたと聞いて会いに行った。

アネットは、エヴァンジェリンを庇って大ケガをしたのだ。

「ありがとう、アネット。ゆっくり休んでちょうだい」


「いいえ、お嬢様。直ぐに仕事に戻りたいです」

アネットは、メイドから侍女になったばかりで、仕事がなくなることを恐れているのだ。

だが、必要なのは信頼出来る侍女なのだ。アネットはメイドから昇格するほど仕事は出来るし、信頼も勝ち得ていた。

「気にしないで、まずはケガを治して」

「お嬢様」

エヴァンジェリンが、アネットと過ごしている頃、同じ屋敷の1室では、ケーリッヒがモーガンと会っていた。


モーガンは、エヴァンジェリンに危害を加えたわけでは無いので罰する事は出来ないが、王妃の意向を受けて動いていた人間である。

「裏切るというのか?」

ケーリッヒが、モーガンに確認する。

「裏切るというほどの信頼関係は、俺と王妃にはない」

モーガンは美しい顔に、苦笑いを浮かべる。

「今の僕は、王妃にとって邪魔者だ。

排除対象になっているって事だよ。

なら、エヴァンジェリン嬢の方につくさ」

最初に連れていかれた王弟の執務室から、シェレス公爵邸に身柄を移されたのは、王妃から守る為でもあると、モーガンも分かっている。


馬車の襲撃で最悪の場合を避けれたのも、モーガンがエヴァンジェリンを助けようとしたからだ。

ケーリッヒは、それを重要に考えていた。


「王弟殿下、シェレス公爵が協力関係にあるというなら、答えは簡単だ。

僕の命を保証してくれるなら、それに見合う対価を働く」

モーガンの言葉を聞いて、ケーリッヒはモーガンが美しいだけの男ではないと分かる。

「それだけ賢ければ、王妃に重宝されただろう?」


「あの方は、賢い男は嫌いでね。

ほどほどに賢い程度にしないと、生き残れなかったさ」


ケーリッヒは、右手をモーガンに差し出した。

「王弟殿下と父上には僕から話そう。

まずは、僕の下で働くことになる」

モーガンは、それに応えるかのように、差し出された手を握った。

「よろしくお願いします、ケーリッヒ様」

必ず信頼を勝ち得ないとならない。

それが、生き残る術だ。


ケーリッヒもモーガンもお互いを探り合うように見ている。

「随分殊勝だな」

ケーリッヒも夜会などで、王妃と一緒にいるモーガンを何度も見ている。

王妃であったり、貴族令嬢であったり、いつも女性と一緒であった。

軽やかなステップのダンス、心躍る会話、麗しい顔。

ケーリッヒの知るモーガンは、そういう男だ。


「俺はね、この顔なものだから、子供の頃に売られたんですよ。

それから、王妃に献上された。

何をされていたか、なんてわかるでしょ?

こうやって拘束された、という状況でなかったら王妃から離れる事が出来無い。

死んだことにして欲しいぐらいです。

ずっと闇で仕事してもいいですよ」

モーガンが自虐するかのように笑みを浮かべる。


「もったいないだろ」

ケーリッヒはモーガンに言う。

その顔を使わない手はない、モーガンはその意味だと思っていたが、続くケーリッヒの言葉に驚く。

「御婦人方を喜ばす会話、先を読む知識。外国の婦人も接待していたな、何カ国語話せる?

その環境で深い知識を得るには、相当の努力が必要だったはずだ。

身体も鍛えているだろう?

闇の仕事もしてもらうさ、それだけではもったいないだろ」


ポトン、モーガンの涙が落ちた。

「待ってくれ、俺の価値は顔だけだったから、慣れてないんだよ」

モーガンは真っ赤だ。

「俺、泣けるんだな」


真っ赤になって泣いているモーガンに、拍子抜けするケーリッヒだ。

こんな男だったのか?


「最初に売られた男が子供をいたぶって、泣くと興奮するヤツだったから、泣かないように」

こんな事言いたくないのに、言葉にしてしまった。モーガンは途中で(うつむ)いてしまった。

泣いてしまったのを弁解するようで、恥ずかしい。


「じゃ、こんなのはどうだい?」

ケーリッヒが、モーガンに提案する。

「もう、モーガンはいないんだよ。新しい名前にするのはどうかな?

その方が仕事もやりやすい」


顔を上げたモーガンの唇が震えている。

「ケーリッヒ様に付けて欲しい」


「そうだな、リュシアンなんてどうかな?」


「いい名前だ」

モーガンは、リュシアンと(つぶや)いた。


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