園遊会はキケンがいっぱい
王宮の庭園には、多くの令嬢が招待されていた。
エヴァンジェリンは公爵令嬢でありながら、初めて王妃主催の茶会に出席したのだ。
早くに婚約が決まったこともあり、社交は最低限しか出席しなかったからである。
いくつかのテーブルが庭に設らえられ、王妃がそこを回って話しかけていた。
お茶会というよりは、園遊会である。
「シェレス公爵令嬢、ずっとお誘いしたいと思ってましたの」
笑顔で王妃が声を掛けてくると、エヴァンジェリンは緊張を緩める。
「ご招待ありがとうございます。
王宮の庭の素晴らしさに感動してます。」
テーブルには庭の花が飾られ、カトラリー、クロスも季節に合わせ、セッティングのお披露目のようになっている。
侍女が準備したとしても、指示を出す王妃のセンスの良さである。
しかも、各テーブルに若く美しいバトラーが付き、令嬢だけでなく、夫人方も楽しんでいるようである。
「楽しんでくださいね」
王妃が次のテーブルに動くと、バトラーが菓子を取り分け令嬢や夫人方に配る。
好みを聞いて、プチフールを皿に並べる。
「ご令嬢、ベリーはお好きですか?」
金髪碧眼の見目麗しいバトラーが、エヴァンジェリンに微笑みかける。
うわぁ。
眩しい、とエヴァンジェリンは内心ドキドキである。
エヴァンジェリンは、こういう事に免疫はないが、教育は受けている。
ハニートラップだ。
エヴァンジェリンの皿にケーキを盛りベリーで飾ると、エヴァンジェリンの前にそっと置いた。
「どうぞモーガンと、お呼びください」
バトラーは名前を告げると綺麗な礼をする。
周りの女性陣から、ホォとため息が漏れる。
女性は美しいものが好き、彼らにお金を出す女性も多いのだろう。
王妃の子飼いの男達。
「ありがとう、モーガン」
キケン、キケン、とエヴァンジェリンの中の警鐘が鳴る。
経験不足のエヴァンジェリンには、彼らを上手くあしらうスキルはない。
エヴァンジェリンはカトラリーを手に取り、ケーキを切ると口に入れる。
だが頭の中では、どのタイミングで帰宅を告げようかと考えていた。
だから、返事が遅れた。
「いいですよね?公爵令嬢」
モーガンがエヴァンジェリンを覗き込む。
え、何が?
エヴァンジェリンの返事を待たずに、モーガンが手を差し出す。
「庭園の薔薇のアーチが見頃です」
どうやらテーブルの皆で見に行くことになったらしい。
「申し訳ありません。
まだ体調が回復していなくって、そろそろお暇いたします。
王妃陛下にご挨拶に行きますので、どうか皆さまは楽しんできてくださいませ」
オフィーリアに似せて笑顔を浮かべる。
美しいが親近感がなく、近寄りがたい笑顔。
エヴァンジェリンが挨拶に行くと、王妃は心配してモーガンを呼びつけた。
「シェレス公爵令嬢を馬車寄せまでお送りしてちょうだい」
王妃に言われて、エヴァンジェリンが断れるはずもない。
モーガンを贔屓にしている令嬢達は公爵家に歯向かうことが出来るはずもなく、エヴァンジェリンを蔑んだ目で見ている。
体調が悪いのは出任せだけど、モーガンの気を引きたかったのじゃないもの。
ここは堂々とするべき、と思いはしても周りの視線が痛い。
本当にお腹が痛くなってきた。
「馬車を回すように連絡しましたので、ご案内いたします」
モーガンが差し出した手に、今度は手を添える。
王妃の前では従うしかない。
婚約者である王弟殿下の反対を押し切って出席したのだ。
麗しい男性にときめいている場合ではない。
馬車寄せに向かっているはずなのに、見たことのない景色はどうして?
エヴァンジェリンは、ときめきとは違う意味の動悸がしてきた。
心臓の音が聞こえそうなぐらい、ドキドキしている。
「モーガン、車寄せに向かっているのよね?」
「少し休憩の出来る部屋を用意しました、顔色が良くないです。
これで馬車に乗るのは、悪化すると思われます」
正論をモーガンは言っているが、ヨコシマな意味があるように聞こえてしまう。