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王妃イメルダ

「そう」

イメルダは侍女から聞いた話に舌打ちしそうだった。


アナクレトは聞こえるように言ったに違いない。

アナクレトの思うように動くのは(しゃく)だが、このままだと王妃の座を奪われ息子は王太子の地位を失う。

何よりシェレス公爵令嬢の婚約が無くなったというのは、大きな脅威だ。

夜会や茶会で見た姿を思い出す。

公爵夫人に似て美しかったが、化粧も薄く派手な姿を見たことがない。

公爵令嬢という身分を引けらかすわけではなかったが、おとなしく近寄りがたい雰囲気だった。


潰すしかない。


結論は決まっていた。

今までのように、アナクレトが興味をもつ令嬢は生きていては困る。

息子以外の、王の子供の存在は要らないのだ。


イメルダもかつてはアナクレトを純粋に愛していた。

だが、王宮というところは、低位貴族のイメルダには優しくなかった。

そしてアナクレトは、イメルダに正妃の座を与えたが守ろうとはしなかった。


引き金は、アナクレトが側妃として迎えた侯爵令嬢の懐妊だった。

男子が生まれるかもしれない、それはイメルダを追い詰めた。

その頃から、息子の食事に毒の混入があっては発見されるということが繰り返された。


侯爵令嬢が出産することはなかった、流産したからだ。

侯爵令嬢は身体を壊し、王宮を辞した。

それは王と高位貴族の確執を深くする一因となった。


一度、凶行に手を染めれば、イメルダにとってその後は同じだった。

王妃という地位だけが、イメルダを守るものだった。



シェレス公爵家ならば、護衛も強固であろう。

今までのように、王宮に入ってからでは間に合わない。

側妃としてではなく王妃として入るなら、自分は側妃に落とされ地位が下になってしまうからだ。


17歳の小娘が、こざかしい。

父親の宰相の目が王宮にある限り、王宮内での犯行は難しい。


茶会を開こう。

使うのは何がいいか?

イメルダは毒か、男か、と考えをめぐらす。


「マリーナ、来週にお茶会の準備をお願いするわ。

そうね、庭園の茶会がいいわ」

王妃からの招待を断れる家はない。

来週では遅いか、と思い直して4日後にする。




王妃から招待状が届いたことを受けて、ヘルフリートがシェレス公爵家に来ていた。

「断ってもらってかまわない」

ヘルフリートが言うからといっても、エヴァンジェリンが肯定するわけにはいかない。

これからも女性社会でのことがあるのだから。

「殿下、王妃様のご招待を断るわけにはいきません」

挨拶だけして、体調が良くなっていないとすぐ帰ろう、とエヴァンジェリンは思っていた。

ヘルフリートの言葉を聞くまでは。

「まだ回復していないのだ。公爵の名前で断れば問題ない」


これは私の為に言ってくれている?

それとも、命令をしている?


ミッシェルがそうだった。

『心配だから、今度の夜会は休んでいた方がいい』

その夜会にミッシェルは男爵令嬢を連れて行っていた。


「殿下は、私が茶会に行きたくない、と言う前にどうして断る前提で話されたのですか?」

こんなこと王弟殿下に言ってはいけない。反論してはいけない。

今までの私はそうだった。

でも、それじゃいけない、とエヴァンジェリンは顔をあげてヘルフリートを見る。


「天使、そうじゃないんだ」

ヘルフリートは何がエヴァンジェリンの気に障ったのか、理解が出来ない。

王妃は危険人物の認識があるヘルフリートと、王妃とは接点がなかったエヴァンジェリンとでは、王妃のイメージが違う。


「また天使?

殿下は、私を見てくれてはいないんですね」

エヴァンジェリンは笑おうとして失敗した。

政略結婚でも向き合って、良い関係を築きたいと思っていた。


「君が私の天使なんだ。

ずっと君だけを見てきたんだ」

ヘルフリートの言葉にエヴァンジェリンは驚くしかない。

「殿下は政略で結婚を受け入れたのだと思ってました」

「違う。

私が公爵に頼み込んで、婚約の許可を得たのだ」


好感をもたれているとわかると嬉しい。

でも・・

「私は殿下が理想とする天使ではありません。

考えたり、泣いたりもする普通の人間です。

人間の私を見てくれませんか?」


「今までは遠くから見る事しか出来なかった。君が笑う顔は可愛いくて、私の天使だったのだ。

君の手は温かいと知った。

もっと近くで、他の事も知っていいだろうか?」

ヘルフリートがエヴァンジェリンに手を差し出すと、エヴァンジェリンは手を添えた。

「許可します」

今度は、笑うのを失敗しなかった。



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