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公爵夫人と公爵令嬢

「まぁ、それはいい事ね。

お化粧なら、私の侍女に任せなさい。

時には派手やかに、時には清楚に、ドレスも(あつら)えましょうね」

オフィーリアは、エヴァンジェリンがミッシェルの浮気現場のショックから立ち直ってくれるなら、何でも賛成だ。

だが、翌日に次の婚約が決まるのはエヴァンジェリンの負担が大きすぎると思っている。

オフィーリアも政略で嫁いできたので反論する気はないが、今度はエヴァンジェリンの側にいてあげたい。


「殿下からのお花のお礼に、刺繍したハンカチを贈ろうと思うのです」

「まぁ、それはステキね」

刺繍は貴族令嬢の(たしな)みである。

エヴァンジェリンもいくつか作ってミッシェルにあげていた。大きな図案でなければ、すぐに出来るだろう。


お見舞いに届いた花束。

最初は不審に思ったが、贈り主の王弟殿下が婚約者と聞いて、公爵夫人であるオフィーリアが知らない花ということは普通の所にある花でないと思った。

派手な花ではないが、特別な花をエヴァンジェリンに贈るなら大事にしてくれるだろう、と考え始めた。

たとえ政略でも、お互いを尊重し合い、もう傷ついてほしくない。

オフィーリアは、食事を終えたエヴァンジェリンを美しい笑顔で見つめていた。


「お母様?」

エヴァンジェリンは、母の美し過ぎる笑顔には気持ちがないと思っていたことが間違いだと、もう知っている。

「お料理もしたいのです。ご一緒にしませんか?」

「料理? 料理人のすることでしょう?」

高位貴族の女性が料理をすることはない。




結局、エヴァンジェリンに連れられて、オフィーリアは侍女やメイドと共に調理場に行った。


エヴァンジェリンとオフィーリアが手伝うと言い始めたことから、調理場が騒乱となったのだ。

丁寧に断ろうとする料理人達だが、逆らえるはずがない。

「奥様、私がしますから!」

震える手で包丁を持ち野菜を切ろうとするオフィーリアを止めようと、メイドが代ろうとするが無駄に終わる。

「お嬢様、どうかお休みください。お身体に無理がかかります!」

玉ねぎをむきながら泣いているエヴァンジェリンに、料理人が病気が悪化したら困ると泣きそうになっている。


「奥様、お嬢様、あちらにクッキーのタネを作りましたので、焼くのをお教えします」

公爵夫人と令嬢が、初めてなのに料理の手伝いをするなど無謀である。料理人の一人が、初心者コースに誘導すると皆の期待が集まる。

「クッキーですって」

オフィーリアが興味を示したので、皆で調理台に案内する。

料理人がお手本に生地を延ばして型抜きをする。

同じようにオフィーリアとエヴァンジェリンもするのだが、均等にクッキー生地を延ばせない。

いびつだが、自分達で生地を延ばし、型を抜いたクッキーを料理人が焼き上げると、二人から歓声があがった。

料理人も侍女もメイドも一安心したところに、オフィーリアが爆弾を落とす。

「お料理って難しいのね。

また来るわ」

焼きあがったクッキーを、楽しそうに籠に入れているエヴァンジェリンも賛同する。

「ええ、お母様」

料理人が頑張ったが、分厚いところは焦げ、薄いとこはパリパリになったクッキーである。

「公爵は食べてくださるかしら?」

「お兄様には、私のクッキーを差し上げますわ」

母と娘が楽しそうにする会話は、料理人達の心臓にはよくない。





ケーリッヒはヘルフリートの護衛を兼ねた補佐官となった。

王補佐の補佐官である。

それは対外的には、ヘルフリートが宰相であるシェレス公爵の後継となる為とされたが、周りの反応は様々だった。


「陛下、来月竣工する尖塔の事で予算が出ています」

ヘルフリートがアナクレトに書類を渡す。

「教会から参列される枢機卿の人数が増えております」

そうか、と言いながら書類を受け取るアナクレトは普段と変わらない。

ヘルフリートから婚約の話を出さないが、アナクレトからも出ない。

アナクレトに婚約の書類が知られた事は、シェレス公爵が潜ませている者の報告を受けている。

ケーリッヒからヘルフリートにも伝わっており、お互いが素知らぬ振りをしているという事だ。


「予算の追加は仕方あるまい、参列する枢機卿との対談時間を増やしておくように」

書類にサインをしたアナクレトが、ヘルフリートに書類を戻す。

「すでに手配を指示してあります」

受け取った書類を手に部屋を出て行くヘルフリートに、ケーリッヒが随行する。

それを王の後ろに立っているブラウリオが横目で見たが、ケーリッヒは視線を合わせることなく部屋を出て行く。

視線を合わせる事はなかったが、お互いが観察をしていた。


アナクレトとヘルフリートの兄弟も、視線を合わせる事はなかった。


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