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王弟殿下のプロポーズ、失敗編

エヴァンジェリンは、ため息も出なかった。

ミッシェルの浮気現場に遭遇してから、怒涛のような2日である。まだ2日しか経っていないのに、既に新しい婚約者がいて、その婚約者が早朝から見舞いに来たのだ。

王弟殿下と婚約ということは、結婚して王弟妃になるのだ。

失恋で泣く余裕さえない。


王弟殿下が見舞いに来たということで、慌ててベッドから出て支度した身体はまだ回復していない。

メイドに支えられてサロンに行くと、ヘルフリートが立ち上がって、エヴァンジェリンを迎える。

父親の公爵がいることから、二人にする気はないようで安堵する。


「申し訳ありません。

心配で、こんな朝から訪問してしまいました。

公爵にも無理を言ってしまいました」

王家の良いところを集めたような美丈夫である。

王補佐という知性派であるのに、剣の訓練も欠かさない。

女性の噂もない。

女性の間では圧倒的人気があるが、結婚が簡単に決めれない人物である事も知れ渡っている。


「倒れられたとお聞きしていたので花だけ届けたかったのですが、エヴァンジェリン嬢にお会い出来るとは思ってもいませんでした」

ヘルフリートが嬉しそうに笑顔を浮かべれば、エヴァンジェリンだってドキッとする。

こんな人だっけ? 夜会などで近づく女性に冷ややかな視線を向けるのしか知らない。


お父様、ミッシェルの浮気の後だからと言っても、女性に興味がないと噂されている殿下を、次の婚約者に選ぶなんて、極端過ぎます。

エヴァンジェリンは、自分がヘルフリートに好かれているなどと知らないし、想像もしない。

政治的配慮で、公爵家の娘の自分が選ばれたと思っている。


それにしても、こんな早朝に来るなんて、随分強引な人物なんだわ。夜会でも話したこともないし、王族への挨拶に行っても、話しかけられた事はない。

年も随分上だし、何を話せばいいのかしら?

「殿下、エヴァンジェリン・シェレスでございます」

とりあえず無難に挨拶をすることにした。


エヴァンジェリンは座る前にカーテシーをしようとしたが、体力が落ちた身体ではふらついてしまった。

公爵とヘルフリートが支えようとして駆け出したが、座っている公爵より立っているヘルフリートの方が早かった。


ヘルフリートの手袋をした手が、エヴァンジェリンの身体を支える。

フワッとエヴァンジェリンの髪が、ヘルフリートの顔をかすめると、ヘルフリートの耳まで真っ赤になった。

「天使」


「え?」

エヴァンジェリンは突然の事で意味がわからない、てんし、何?


ヘルフリートがエヴァンジェリンを座らせると、片膝を突いた。

「ヘルフリート・フォン・メルデアである。

エヴァンジェリン・シェレス公爵令嬢、どうか結婚してください」

エヴァンジェリンの手を取り、甲にキスを落とす。


女性には手袋越しにしか触らない王弟殿下が、唇でエヴァンジェリンの手に触れた。

公爵は、驚きで目を見開いた。

エヴァンジェリンだけは特別なのだ、殿下ならエヴァンジェリンを幸せにしてくれる。

公爵は、早々に婚約を決めたことを間違いではなかった、と安心した。


ここまでは良かった。


ボトボト、絨毯に血が(したた)り落ちた。

ヘルフリートが大量の鼻血を垂らしているのだ。


「きゃあ、殿下!」

驚きすぎて、エヴァンジェリンは手を取られたまま硬直してしまった。


エヴァンジェリンの手を持っていない方の手で鼻を押さえているヘルフリートは、恥ずかしさのあまり言葉を失った。

唇で触れた天使の手は、温かくて(やわ)らかくて、長年の想いが一気に押し寄せてきたのだ。


「殿下?」

そっとエヴァンジェリンが、ヘルフリートを(うかが)い見ると、視線が合ってしまった。

ブッ!

手袋を真っ赤にして、押さえた手の隙間から鼻血が噴き出した。

ヘルフリート撃沈。


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