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新しい婚約

父、母、兄が揃うのは昨日からよく見る風景だが、何年も一人で食事をしていたエヴァンジェリンにとっては、慣れない風景である。

ベッドサイドは、3人の定位置になりつつあった。

ベッドの周りに陣取って、エヴァンジェリンが少しでも食べたら褒めてくる。

嬉しいんだけど、息苦しい。

スープ粥は半分も食べられず、残してしまった。

「ごめんなさい、食べないといけないのは分かっているのですが」

言葉半分で、(うつむ)いてしまった。

最近、食べても吐く事が多くて、すっかり痩せてしまったエヴァンジェリンだ。

細い身体で弱々しく笑顔を浮かべようとする姿が、痛々しい。


だが、3人はメイドから聞いてエヴァンジェリンが痩せたと知ったが、元のエヴァンジェリンが太っていたとか痩せていたとか知らないのだ。

いかに長い年月、関心がなかったかと思い知らされた。

力のない娘(妹)を放置した罪悪感で、胸がいっぱいになる。



「オフィーリア、エヴァンジェリン、話がある」

公爵が口を開けば、緊張が走る。


エヴァンジェリンも婚約の事だと、分かってはいるが不安である。

ミッシェルとの婚約が無くなるのは嬉しいが、家に貢献できなかった娘となるのが辛い。


「大丈夫よ、エヴァンジェリン」

オフィーリアがそっと手を握ってくれる。

はい、と声を出さずに顔をあげるエヴァンジェリン。


公爵は、エヴァンジェリンとオフィーリアを見ると、安心させるように頷いた。

「ミッシェル・ビスクスとの婚約は破棄、本日受領され、即日で承認された」

承認したのが王ではなく、王弟の裁決であるが結果は同じだ。


婚約解消ではなく、破棄。

そこに公爵家の怒りが反映されている。

エヴァンジェリンは待っていた言葉に、感情が追い付かない。

体調が悪いのに、無理して街に買い物に行ったのは、もうすぐのミッシェルの誕生日プレゼントを買う為だった。

結局買えなかったが、これでミッシェルにプレゼントの文句を言われないで済む、などと放心状態で思っていた。


「エヴァンジェリン?」

呼ばれて、やっと現実を見る。

ミッシェルとの婚約がなくなった。

「申し訳ありません、公爵家に損害を与えてしまいました」

頭を下げて謝るエヴァンジェリンを、ケーリッヒが止める。

「エヴァンジェリンは何も悪くない。

よく頑張った」

「お兄様」

エヴァンジェリンの頬を涙が零れ落ちる。

ミッシェルと仲のいい時期も長かったのだ。好きだった。結婚すると思っていた。他の女性との話を聞くたびに辛かった。カフェで会った時は、あまりの事に怒りでどうにかなりそうだった。

イロイロな思いがあふれ出る。


「そして、王弟ヘルフリート・フォン・メルデア殿下との婚約が決まった。

明日には承認される」

あまりのことにエヴァンジェリンは言葉を失くし、父親を見る。


「王弟殿下が王位を得る為に、我が家が後ろ盾になる為、ということですか?

エヴァンジェリンは安静が必要なのです。早急すぎます」

オフィーリアもさすがに早すぎると反論する。

婚約がなくなった途端、次の婚約など、エヴァンジェリンがなんて言われるか、オフィーリアが心配する。


「お母様、大丈夫です。

今度は、殿下のお役に立ちますようにしますので」

そういうエヴァンジェリンは、公爵令嬢の顔をする。

大丈夫、私は大丈夫、とエヴァンジェリンは自分に呪文をかける。

父は、倒れた私を心配してくれた、それだけで十分だ。

家の為に嫁ぐのが、貴族の娘の務め。


「違うのだ、エヴァンジェリン」

あわててケーリッヒが公爵の言葉をフォローする。

「殿下が是非にとお前を望まれたのだ。

お前を妃にすることによって起こる全てを、受け入れる覚悟で言われたのだ」

だから、とケーリッヒが続ける。

「お前を妃にした殿下を、我が家は全力で支援する」


カー、とエヴァンジェリンの顔が真っ赤になる。

それって、殿下が私の事を好きって聞こえる。


さっきと態度が変わって、オフィーリアが優しい笑顔を向ける。

「殿下のお気持ちはわかりましたわ。

でも、エヴァンジェリンに王子妃、王妃は負担が大き過ぎます」

オフィーリアの言うことは尤もだ。

エヴァンジェリンも赤くなりながら、首を縦に振る。


「それぐらいでは、殿下のお気持ちは揺らがないみたいだぞ。

エヴァンジェリンと出会った時の花を見舞いに贈った、と言われていたが、あれだろう?」

ケーリッヒが指さす花が、それだ。


「殿下からお花をいただいて、困惑していたのです。

でも、出会った時って、覚えがないのです。

夜会でお姿をお見かけしたことがある程度です」

私を好きになる程の接点がありません、というのは自惚れているようで言えない。


「覚えていないのか?

殿下は嬉しそうに言われていたぞ」

ケーリッヒに言われれば、覚えていない自分が悪いように思えてきたエヴァンジェリンである。


シェレス公爵家の誰もが、それが14年も前の事だと思っていない。

ほとんどの令嬢が公に姿を出すのは、デビュタント以降だから、王弟殿下がエヴァンジェリンと会ったのもそれ以降の話だと思い込んでいた。



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