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元婚約からの手紙

「エヴァンジェリンはどうしている?」

父の声が聞こえて、エヴァンジェリンは目を覚ました。

瞼は開いていないので、周りにはまだ寝ているように見えるようだ。

花束を貰った後、また寝ていた。

安静が必要な身体は、一日の大半を寝ている。

「スープを飲んで寝ていますわ。

王弟殿下から花束が届いて、喜んでおりました」

母が父に説明しているのが聞こえる。

「エヴァンジェリンが起きたら、その事を話そう」

部屋に飾られた花を、あれか、と父が確認している。



「公爵様、ケーリッヒ様、よろしいでしょうか?」

エヴァンジェリンの寝室の扉を叩いて、家令のクロノスが控えめに申し出る。

何だ、と表情をした公爵は、ケーリッヒを連れて寝室を出ていく。

サロンにはクロノスが待っていた。

「今日、ミッシェル・ビスクス様がおいでになりました。

お申し付け通り、屋敷にはお入れしませんでしたが、お嬢様に花束とお手紙を置いていかれました」

こちらです、とクロノスは花束と手紙を差し出した。

「ご苦労だった」

公爵がクロノスを労い、ケーリッヒが花束と手紙を受け取った。


クロノスが部屋を出ていくと、ケーリッヒは床に花束を投げつけた。

ピンクの薔薇の花びらが飛び散る。

「アイツ、どういうつもりでこんな物を!」

手紙を開けて読むと頭を押さえて、公爵にそれを渡した。



『エヴァンジェリン、身体は大丈夫だろうか?

僕の妻になるのは、エヴァンジェリンと決まっている。

ちょっとした遊びだったんだ。

決してエヴァンジェリンを(おとし)めようとしたわけではない。

君が倒れた時は心臓が掴まれたようだった、君を愛していると思い知った。

もう二度と過ちは犯さない。

僕達が(つちか)ってきた愛情を信じてる。

ミッシェル・ビスクス』


「反省の欠片もないな。

これを何年もエヴァンジェリンにしてきたのか。

医者は精神的負担が原因の一つだと言っていたが、これに気付いてやれなかった」

公爵が手にした手紙は、掌で握りしめてクシャクシャになっている。

エヴァンジェリンとミッシェルは幼馴染として仲がよかった、だからこそ婚約させたのだ。

エヴァンジェリンに謝る言葉もない手紙、それが全てを物語っている。


シェレス公爵家とビスクス伯爵家の共同事業は、何年もかかる事業だ。

それを理解しているエヴァンジェリンはミッシェルの横暴に耐えるしかなく、ミッシェルは何をしてもエヴァンジェリンが受け入れると思っているのかもしれない。


()められたものですね。

我が家は公爵家、たとえ損失が出ても誇りまで売らない。

ましてや、あれぐらいの金額では大きな痛手にならない」

ヘルフリートのエヴァンジェリンへの想いを知った後では、ケーリッヒはミッシェルへの怒りが増加するばかりだ。

そして、エヴァンジェリンがそういう目に遭わされているのに気付かなかった自分自身にも。


「さすがクロノスだ。

エヴァンジェリン宛であっても知らせず、ここに持って来る」

詳しい事情を話してはいないが、エヴァンジェリンと公爵の様子で判断したのだ。

こんな手紙を書くミッシェルは、エヴァンジェリンに会えると思っていたはずだ。

公爵家の家令とはいえ、伯爵子息相手では、追い返すのは簡単にはいかなかったろう。


「ああ、クロノスには知らせておいた方がいいだろう。

殿下も近いうちにお忍びで見舞いに来るとおっしゃっているし」

公爵家内部でも、協力者が必要だ。

公爵は暖炉の火の中に手紙を投げ捨てた。

パチパチと一瞬大きな火があがったが、すぐに元の火になる。

そこに、ケーリッヒが花束を投げ入れる。

「エヴァンジェリンは何も知らない、何も受け取っていない」

父と息子が視線を合わせ、サロンを出て行く。


これからエヴァンジェリンに、王弟殿下との婚約を話さねばならないのだ。

この婚約は、しばらく内密にしなければならない。

エヴァンジェリンは静養の為、夜会も茶会も出席できないのが丁度いい。


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