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婚約者の裏切り

前作が完結して少し休憩と思っていたら、休憩どころか休暇になってしまいました。

すっかりのんびり生活に馴染んでしまい、心機一転です。こんなに長く休むつもりはなかったんですけどね~。


これから頑張って書きますので、楽しんでくれると嬉しいです。


家同士が決めた婚約とはいえ、エヴァンジェリンは婚約者のミッシェルが好きだった。

10歳の時に婚約が決まり、それからの7年間二人の仲は良好であった。

ミッシェルが他の令嬢と仲がいいと、誰かに言われても、そんなはずない、と思っていた。

ミッシェルは普段と変わらなかったし、結婚式の日取りも決まって、準備は順調にすすんでいるからだ。




「エヴァンジェリン?」

立ち止まるエヴァンジェリンに声をかけたのは、兄のケーリッヒだ。

エヴァンジェリンが見つめる先にケーリッヒも、ミッシェルが笑いながら見知らぬ令嬢と歩いているのが見て取れた。

「あれは、キルフェボン男爵令嬢だ。

最近、ミッシェルと一緒にいるのをよく見かける」

王都の雑踏の中で、ミッシェルを見かけたのは運命ともいえるのかもしれない、とケーリッヒは思っていた。


「お兄様も知っているぐらい有名なのですか?」

エヴァンジェリンの顔色は悪い。

今日は街に買い物に出かけるエヴァンジェリンを心配した母から頼まれて、同行したのだ。

普段は兄妹といっても、食事の時間さえすれ違っていて、接点は少ない。


ケーリッヒは誤魔化そうかと思ったが、このまま結婚を進めてもエヴァンジェリンが不幸になるようにしか思えない。

「ああ、ミッシェルと男爵令嬢は色々な場所で見られている。

エヴァンジェリンが体調が悪くて行かなかった夜会に、ミッシェルは男爵令嬢を同伴していた」

エヴァンジェリンがケーリッヒを見上げた瞳は、今にも泣きそうだ。

それでも、ここで誤魔化すのは優しさではないと分かっている。

「ミッシェルはエヴァンジェリンと結婚しても、男爵令嬢の方を優先するのではないかと噂されている」

それは、すでに愛人関係になっていると公認され、エヴァンジェリンは正妻という名の飾りになるだろうと思われているという事だ。

衝撃過ぎて涙も出なかった。

歩こうとする足は前に出ず、バランスを崩して兄に支えられる自分がスローモーションのようだった。

ケーリッヒの言葉が頭に響く。


「エヴァンジェリン、大丈夫か?

僕としても家同士の契約さえ全う出来ない人間に、事業の共同者としての信頼は出来ない。

父上も同じだ。我が家の大事な娘を託すに、相応しくないと判断するかもしれない」

エヴァンジェリンは兄に言い返そうとしても、兄が間違っていないのは分かっているし、なにより頭が痛い、胃を何かが駆け上って来る。


ケーリッヒはエヴァンジェリンをすぐに休ませる為に、側にあったカフェに入り席につかせた。

ボーイに冷たい飲み物をオーダーすると、エヴァンジェリンの手を取った。

脈が弱いように感じて、屋敷に帰ったらすぐに医者の手配をしようと考えていると、新しい客が入って来るのが見えた。

それは、ミッシェルと男爵令嬢だった。


二人は、ここにエヴァンジェリンがいるとは夢にも思っていないのだろう。周囲を見ることもなく、エヴァンジェリン達が座る席の近くに座っても気がついていないようだった。

小さな声で話しているが、近くの席の人間ならば集中すれば聞こえる距離だ。


「赤ちゃんは、結婚相手に育てさせるんでしょ?

公爵令嬢なら、世間体もあって無下にはしないわよ。

ミッシェルの跡継ぎが必要だもの」

「ロミリア、本当に産むつもりなのか?」

ミッシェルは戸惑っているようにも見えるが、結婚相手に育てさせるという言葉を否定しない。


ガタン!

大きな音を立てて椅子が引かれると、周りの視線が集中した。

それが、ケーリッヒだと分かったミッシェルの顔色が真っ青になった。


「ミッシェル・ビスクス、キサマの不貞で婚約は破棄だ。

すぐに父から書状が届くことになる。

慰謝料は、キサマとそっちの女にも請求するから覚悟しておけ」

ケーリッヒは、今にもミッシェルを殴りそうになる自分を抑えるので精一杯だ。

「エヴァンジェリン、帰ろう」

そっとエヴァンジェリンの手を取り立ち上がらせようとした時だ、エヴァンジェリンが激しくむせて、真っ赤な血を吐いた。

「エヴァンジェリン!」

崩れ落ちるエヴァンジェリンをケーリッヒが支えるも、エヴァンジェリンの口元には真っ赤な血が流れる。


「エヴァンジェリン!」

ミッシェルがエヴァンジェリンの名を叫びながら駆け寄るが、両手でエヴァンジェリンを支えているケーリッヒに蹴り飛ばされ、ガタガタ、と音を立ててミッシェルは後ろのテーブルに倒れ込んだ。


「きゃああ!」

男爵令嬢が悲鳴を上げてミッシェルに(すが)ろうとするが、ミッシェルはそれを無視して立ち上がりエヴァンジェリンに触れようとするも、その手は払いのけられる。

突然の騒動に店では、遠巻きに見る者はいても仲裁に入る者はいない。


「僕の妹に触るな」

これ程冷たい表情はない、抑揚のない言葉がケーリッヒから発せられた。

なのに、瞳だけは怒りで燃えていた。

ケーリッヒに抱きかかえられているエヴァンジェリンは口元を手で押さえているが、吐血はドレスに飛び散っていた。


母は、エヴァンジェリンの様子がおかしいのを気にしていた。きっとミッシェルのことを知っていて悩んでいたのだろう。そのせいで身体を壊したのかもしれない、それを母は察していたのだ。

急激にケーリッヒは妹への憐憫を感じていた。

こんなに妹を身近に感じた事はなかった。

自分が守るべき存在がここにいる。


エヴァンジェリンが生まれた時は嬉しかった。

手を繫いで歩いた幼い頃。

剣の稽古や授業が始まると、エヴァンジェリンと一緒にいる時間は減った。

ケーリッヒの中で思い出がよみがえる。

それはドンドンすれ違い、大人になった今は家族という枠で同じ屋敷にいるだけだった。

その妹は血を吐き、意識はあるが朦朧(もうろう)とした様子でケーリッヒの腕の中にいる。

一刻も早く医者に診せないとならない、死んでしまうかもしれないという不安に押しつぶされそうだ。


「エヴァンジェリン!」

妹の名を呼び続ける男を足蹴にして、ケーリッヒはエヴァンジェリンを抱きかかえて店を出ると、密かについて来た護衛が馬車を回していた。


「ケーリッヒ様、お急ぎください」

店での出来事を見ていた護衛は、二人が馬車に乗り込むと急いで屋敷に向かった。


「お腹が痛い」

馬車の中で身体を丸め震えるエヴァンジェリンを、ケーリッヒは抱きしめていた。

噂を聞いていたのに、もっと早く婚約を失くすべきだった、とケーリッヒは後悔し、ミッシェルに対する怒りが渦巻いていた。




店内には茫然としているミッシェルが取り残され、男爵令嬢がわめいているも聞こえていないようだった。


ーお知らせー

11月11日11時に、妹の三香との共同企画、テーマは「冬のハッピーエンド」を投稿します。

三香『冬の小鳥と呼ばれた君へ』

violet『僕が見つけた君』

両方読んでいただけると、嬉しいです!


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