邂逅
「大きな門…」
目の前に広がる、石で造られた大きな門。
見上げれば隅々まで精巧に出来ている事が窺える。
上の方は大きくアーチ状に湾曲しており、所々に蔦の細工があり見ていて楽しい。
左右に門番であろう鎧を着た騎士が立っていて、右手には刃先が上を向いた状態で槍を持っている。
そして門の中心に、槍を持った騎士よりは軽装の兵士が二人居て、一人一人何かをチェックしていた。
「何を見せてるのかしら…?」
前世はこの世界の住人であったリーシャも、箱入り聖女だった為まだウィシェリアの一般常識は疎い。
それぞれの国に入るには、ギルドで発行される通行証が必要だと、彼女は知らない。
「行ってみれば分かるわよね…」
一抹の不安を抱えながらも、リーシャは数人並んでいる列の最後尾に行く。
因みに、リーシャが精霊の池で採取した魔草は、片手で抱える程の量だ。
剥き出しのままでは何か言われるかもしれないが、如何せんバッグも何も無いので仕方無い。
「次、通行証を拝見」
こちらも見ずに、流作業化してしまっている兵士の手がリーシャに向けられる。
「えっ!?通行証?」
「持ってない場合は一万Gです」
「……どちらも持っていない場合はどうなるんでしょう?」
「はぁ?アンタ何…っ」
ここで漸く兵士はリーシャに顔を向けた。
しかしながら彼の言葉は最後まで紡がれる事も無く、瞳を瞠若させて固まる。
異変に気付いた隣の兵士もリーシャを見つめ、ポカンとだらしなく口を開けて固まった。
「あの…私小さな村から出て来たばかりで、お金も旅の途中で使い切ってしまったんです。そんな私がこの国に入る事は出来ませんか?」
咄嗟の嘘でリーシャは言い繕うが、どんなにこちらの事情を話しても平氏の反応は未だに無い。
困って隣にいる兵士に助けを求めようと視線を送るが、そちらもまた固まったまま動かない。
え、何なのこの人たち…固まったまま動かないんですけど。
私の顔、そんなにへんな顔してるのかしら。池で見た時は、なかなかの美女だと私は思ったのだけれど。
美的感覚が違うのかしら?
「あの……」
どうしたものか。
声をかけても反応してくれないと、これから先どうしようもない。
「どうされましたか?」
リーシャが困ってオロオロしていると、街の中から長身でスラッとした美丈夫がこちらに歩いてくる。
濃紺の髪に、赤い瞳。佇まいからして腕のある騎士か兵士なのだと分かる。
左肩だけに掛けてある裏地が赤い黒のマントが風に靡き、リーシャは見惚れた。
「あ、あの…私お金も通行証も無くて、どうしたらこの街に入れるか兵士の方に伺ってるんですが、先程から反応してくれなくて…」
まさに天の助け!とリーシャは颯爽と現れた美丈夫に事の成り行きを説明する。
「成程」
男性はリーシャの言葉で全て把握したのか、眉間に皺を寄せ大きな溜息を吐く。
「ラトリー!ゲイリー!」
「「は、はいっ!!」」
威厳のある低く大きな声で男性は兵士二人の名前を叫ぶ。
その気迫に我を取り戻したラトリーとゲイリーは、瞬時に背筋を伸ばし男性に敬礼する。
「ダン特務支部副部長に敬礼!」
「お疲れ様でございます!」
「挨拶はいい。それよりも女性が困っているではないか。職務を全うせず何をしていた」