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保護したものは…

池の周りに生えている魔草を持てるだけ摘ませてもらい、一番近い街は何処だっけと記憶を辿る。


精霊の森は確か大国ミーヤの南に位置しているモモの森の外れにあったと思う。

モモの森は動物が多く生息していて、薬草や木の実も豊富。空気も澄んでいることから精霊の森を飛び出して来た精霊の姿も偶に見れる、と噂の美しい森だ。

精霊の森は滅多に入れる所では無いので、精霊を見たいが為にモモの森に訪れる人が後を絶たない。精霊を見れると、幸せになると言われているからだ。


「シイラが死んだ国じゃなくて良かった。うん」


前世は帝国フィドルに居た。大国ミーヤの遥か西にある国だ。

好戦的なお国柄で、よく隣国と戦争をしていて争いが絶えない国だった。

戦の結果により国は富んだり貧したりで安定しない、何とも住み難い所。

私は聖女として神殿で暮らしていたから民の苦しさは直接味わっていないけど、治療の際によく愚痴や不満を聞いていた。


「ミーヤは温厚な人が多いと言うし、暫く暮らしてみて問題なければ定住しようかな」


ギルドで冒険者登録しても、常に根無草の旅というわけでもない。

気に入った国や街であれば、申請さえすればその地の住人になれる。

幸いミーヤには亜人などの差別も無かったし、余所者を毛嫌いする風習も無い。


「あ、これが神の采配ってやつかしら…」


何だか幸先良さそうな展開だけど、後でどんでん返しとかやめてよね。

神のことだから何かしらあるとは思うのだけれども。


「今は前に進むのみ………?」


何だろう…あの地面に落ちてる白い毛玉みたいなやつ。

長い毛が風に靡いているけど、生き物なのかしら?ピクリとも動かないけど。魔物じゃないよね?

辺りを見回すけど、ここはまだ精霊の森の中だから魔物じゃ無い筈。

魔物は澄んだ空気を嫌うし、浄化されて消えるから違うよね。


どうしよう。何か変な物を見つけてしまった気がする。

無視して通り過ぎちゃおうかな…面倒な事になったら嫌だし。

触って毒があったら…あ!こんな時こそ心眼を使えばいいのか。


「んん、どれどれ…」


【精霊獣】

生まれて間もない精霊獣。

リコリスモドキの毒を摂取し、毒状態。



「…………イベント発生、ってやつですねコレ」


これも神が描いたレールなのかと疑いつつ、白い毛玉…基、精霊獣に近づく。


「キミ、大丈夫?」


びっくりさせないように声を掛けつつ、精霊獣の側にしゃがむと、まんまるの体に白くて長い毛に隠れていた瞳がこちらを睨みつけていた。

恐らく私が人間だから警戒していると思うのだが、如何せん毒状態のため弱々しい。


確か精霊や精霊獣はある程度成長していれば毒は効かない。

けど鑑定したところ生まれて間もないってあったし、リコリスモドキの魔草はその名の通り薬草のリコリスと間違えやすい。リコリスの薬草はお菓子の風味付けなどに良く使われるけど、リコリスモドキは毒のある魔草だ。

間違って摂取すれば、痺れ、眩暈、呼吸困難を引き起こす。

致死では無いが、処置が遅れると後遺症が残る事もある。

一刻も早く、解毒させなければ。


「大丈夫、じゃないよね。けど、私に会えて幸運だよ精霊獣さん。今、楽にしてあげる」


『!?』


私が手を翳すと精霊獣はビクッと体を震わせたけど、抵抗する力が無いのか覚悟を決めたように固く目を瞑った。


こらこら、台詞だけ聞くと如何にもな感じだけど。

こちとら前世は聖女で、今世は癒しの力がある神の愛娘ですよ?

神の愛娘が何かは分かってないけど、癒しの力は健在なのです。多分ね!


「キュア・ポイズン」


右手を翳し、祈りの力を込めて詠唱すればパァっと金色の光が私の手から溢れ、精霊獣を包んだ。

刹那、その体から赤黒い靄が生まれ、それは光の粒子に囚われて消えた。


「ほら…もう大丈夫よ。苦しくないでしょう?」


白い毛玉の精霊獣に優しく微笑めば、白い毛に隠れた黄金色の目が瞠若する。

どうやら自身の身体を蝕んでいた毒が無くなっている事が信じられないようだった。

念の為もう一度心眼を使い、確認したけど毒は綺麗に消えていたから本当に大丈夫だろう。

少し惚けているようにも見えるけど、ずっとここに居る訳にもいかないし、私はもう一度微笑んで別れの言葉を告げる。


「じゃあ私は行くわね。今度は間違って毒草を食べないようにね。バイバイ」


何も反応がないのは寂しいけど、助けられて良かった。

人を治すのは何だか抵抗を感じてしまうけど、精霊だし、誰かに言い触らされる心配も無いからコレはこれで良し。

街ではヒーラーだとバレないようにして、冒険者と採集の資格でも取って暮らそうかしら?


『マ、マッテ!』


「ん?」


これからの計画をうんうん練ってたら、後ろから白い何かが飛んでくる。

身構える暇も無く、ふわふわのソレは私の目線の高さに留まっていた。


「毛玉が飛んでる…!」


『ボクケダマジャナイ!セイレイジュウノコドモ!サ、サッキハタスケテクレテ、アリガトウ』


目の前の毛玉、じゃなくて精霊獣の子どもは、ふわふわと上下に揺れて感謝の言葉をくれた。

ていうか精霊って喋れるの?聖女の時も精霊は見た事あったけど、喋った事は無かったような。


「あ、えぇと。どういたしまして。元気になって良かったわ」


『ウン!キミスゴイ!ボクスゴクゲンキ!ナニカオレイシタイ!ナニガイイ?』


「お礼?別に要らないわ。そんな気持ちであなたを助けたんじゃないもの。気にせず帰っていいのよ」


『ダメ!オレイシタイ!』


「えぇ…?」


こんなお礼の押し売り経験したこと無いのだけれど。

見返りを求めてやった訳じゃないし、そもそも精霊がこんなに喋るなんて聞いてないんですが?


「あのね精霊さん。私、ここに来て間もないの。だから欲しい物やして欲しい事が思いつかないのよ。無理に欲を出す必要もないし、だから…本当に気にしなくていいの。あなたは生まれたばかりなのでしょう?私に構わず、好きな事ややりたい事をすればいいの」


『ボクガヤリタイコト?』


「そうよ」


『ジャアボク、キミトイッショニイキタイ!!』


ボフッと精霊の毛が膨らみ、黄金色の目がキラキラと輝き出す。

それはまるで純真無垢な子どものおねだり攻撃のようで、私の心にクリーンヒットする。


「え、えっと…それっていいの?精霊って長い間住処から離れたら弱ってしまうんじゃ…?」


『ケイヤクヲムスメバ、ハナレテモダイジョウブ』


「けいやく、って、契約!?絆を結ぶ契約の事?」


『ウン!キミノタマシイハケガレテナイカラボクモゲンキニナルシ、キミノチカラモイマヨリツヨクナルヨ!』


にこにこと嬉しそうに話す精霊獣。そんな事急に言われても展開が早過ぎて着いていけないよ!

日本人だった時に体験したジェットコースター並みよ、あなた気づいてる?ねぇ。


『オネガイ!ボクモツレテッテ!キミトセカイヲミテミタインダ!』


キラキラキラキラキラ。


まさにそんな擬音が当て嵌まる、精霊獣の見つめる攻撃。

精霊と契約を結ぶだなんて、あんまり前例が無かった気がするんだけど。

しかも生まれて間もないんでしょ?何か騙した感がある。騙してないけどっ!

こんな期待の眼差しで見つめられたら断れないじゃないか。


「分かった…絆の契約を結ぶにはどうしたらいいの?」


『カンタンダヨ。ボクニナマエヲツケテ』


ニコッと笑った精霊獣。

やっぱり断ればよかったかもと後悔しても、それは後の祭りだった。







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