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ダン家のお屋敷 2



「……」


「………残念、着いてしまったな」


ふっ、とヴィンセントは微笑み、リーシャから手を離した。

少し緊迫した空気が柔らかいものに変わる。


「そう、ですね」


リーシャはヴィンセントを受け入れる気だった。

あの美しいピジョンブラッドの瞳に吸い込まれそうになっていた。


「リーシャ、その返事だと期待してしまうが」


「……して…ください」


「……!」


 肯定の言葉にヴィンセントは瞠若する。

見ればリーシャの頬は赤く染まっていたが、アメジストの瞳は真っ直ぐヴィンセントを見ていた。


二人は再度見つめ合う。

お互いの瞳は同じ情の熱が篭っている。

それはゆらゆらと陽炎のように揺らめき、消える気配が無い。


「その言葉は反則だな」


「ふふ」


ヴィンセントはリーシャの薄紫の長い髪を一房掬うと、チュッと優しく口付けた。


「行こうか。続きは…後ほど」


「……はい」


 甘さを含み始めた空気が、馬車の扉を開けたことで霧散する。

差し出されたヴィンセントの手を取り、馬車から降りたリーシャは目に飛び込んできた建物を見てポカンと口を開ける。


「すご…」


一目では見渡せないほどの大きい屋敷。

右を見ればよく手入れされた薔薇の花が咲き誇り、左を見れば美しく刈り込まれたトピアリーがあった。

玄関までの道は白い綺麗な石で舗装されていて、歩けばカツコツと耳に良い音が鳴る。


「おかえりなさいませ。ヴィンセント様」


「あぁ、ただいまエドワード。屋敷に変わりはないか」


観音開きの大きな扉が内側に開き、見れば優しい笑みを浮かべた老齢の男性と数人のメイドが迎えてくれた。


「はい。ございません」


「そうか。リーシャ、執事のエドワードだ。エド、こちらのレディはリーシャ。今日からこの屋敷に住む」


まだ唖然としたままだったリーシャはヴィンセントの言葉にハッと我に返り、慌てて挨拶をする。


「は、初めまして、リーシャと言います。今日からお世話になります」


「リーシャ様、私は長年ヴィンセント坊ちゃんに仕えているエドワードです。ご用命があれば何でも申し付けください。坊ちゃんの大切な女性とあればこのエドワード、どんな力にもなりまする」


「は、はひ」


老いを感じさせない完璧な礼と、ヴィンセントの大切な人と言われリーシャは盛大に返事を噛む。

初対面の、しかも品のあるお爺さんに言われてしまうと、何とも全て見透かされているようで恥ずかしい。


「エド、坊ちゃんは止めてくれといつも言っているだろう」


「これは失礼を。ではヴィンセント様、言付け通りリーシャ様の部屋は準備出来ております。まずはお食事になさいますか?それとも」


くうぅ〜


「ひゃあ…ご、ごめんなさい」


エドワードの言葉を遮るようにリーシャのお腹が限界を迎えた。

この場にいる全員に聞こえる大きさだ。


「くくっ、謝る必要はないリーシャ。俺も腹が減ってるから気にするな。エド、先に食事だ」


「畏まりました。ではこちらに」


恥ずかしさで俯くリーシャの手をヴィンセントが優しく引き、エドワードについて行く。

エドワードはそれを微笑ましく思いながらも表には出さず、粛々と仕事に就いた。


 


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