分岐
レックスは興味津々といった様子でリーシャを見る。
何だか今日は質問されてばかりだな、とリーシャは思う。
しかし神の采配のせいで規格外な事ばかり起こしているので、それも当然かと認識する。
「えぇ、そうよ。何かおかしな物でも有った?」
「おかしいというか、全部希少な物で驚いてる。鑑定スキルで見てるから採取場所も分かるんだけど、やっぱりその場所は特殊だから」
「そういう事ね。レックスは行った事無いの?」
「無い。そんなあっさり行ける場所じゃ無いし、何処にあるかも知られてないから。上位の冒険者でも辿り着けない位なんだ。ギルドで受付してるオレが行ける訳無いっしょ」
「そ、そうなのね…」
少しブスくれてレックスはため息を吐く。
世間知らずなリーシャに呆れているようだ。
「レックス。リーシャはこの辺の事情や情報には疎い。そう態度に出すな」
そこに助け舟がやってくる。
とても大きな舟だ。頼もしすぎる程に。
「へ…ダン副部長が誰かを庇うなんて珍しい。雪でも降るんじゃない?」
レックスの猫目が丸くなる。相当驚いているようだ。
「茶化すな。金額は出たのか」
「うん。出たには出たけど…ねぇ、リーシャ。この魔草ってもっと採って来れるの?」
「……どうかしら。私もまたその場所に行けるか分からないし、これっきりだと考えてくれる?」
ギラっとレックスの瞳孔が細くなる。獣の亜人らしい、獲物を狙うような目だった。
「……、」
ヴィンセントは思わずリーシャを庇おうと一歩足を踏み出すが、リーシャが腕を引っ張って静止させる。
これ位大丈夫だと。
「そうなの?残念。もっとあれば換金額を上げられるのに。…ねぇ、本当に無理?」
レックスがジリ、とリーシャに近付く。
三日月のように口角が上がる。目は笑っているようで、笑っていない。企みが含まれている。
「無理ね。諦めてちょうだい」
リーシャは毅然とした態度で言う。
彼女は分かっていた。あの場所は軽々しく言ってはいけない場所なのだと。
神に置かれた場所であれ、人間が脅かしていい所では無い。
ヴィンセントもゲラルドも言っていた。あそこは聖域で、不可侵だと。
たまたま希少な魔草を見つけ、少し摘ませてもらったが、また採りに行こうとは考えて無かった。
きっと争いの種になると、本能が告げていたのかもしれない。
肩にいるヤトも、リーシャの考えが伝わったのかレックスを睨む。警戒しているようだ。
「……ダン副部長は聞いてないの?この魔草が採れる場所」
「あぁ、知らん」
「本当に?」
「くどい」
「……リーシャ。この魔草はぶっちゃけ高値で取引出来る。裏でも出回らない。けどコレが定期的に採取出来ればかなり儲かるんだ。また採って来てくれるならリーシャの願いは大抵叶うよ。家だってすぐ買えるし、服や宝石も欲しいもの買えるよ。この街に文無しで来たキミにとって悪い話じゃ無いって事は、分かるよね?」
ジリ、ともう一歩レックスがリーシャに近付く。
易しいけど、優しくない言葉がこの場を支配していく。
明るい雰囲気を纏っていた筈の彼は、真っ黒に染まっていた。




