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7 急転直下~優しい日々はやってこない

ちょっと遅れましたねぇ

 なんやかんやで入学してから一ヶ月程経った。依然として友達は二人しかいない。というか話したことある奴がこの学校で雪と真以外いない気もする。

 

 この一ヶ月何があったのかを説明すると、部活動勧誘、委員会勧誘、そして陽と陰の二極化が起きた。 

 部活動と委員会の勧誘に関しては良いとして陽と陰の二極化が何かというと、これは体感でしかないが、コミュニティが二つに分かれたようだ。要するに社交性のある奴と無い奴がそれぞれ固まり始めたって話だ。まあ俺に関係ない話ではあるが、真の話を聞く限りはそうらしい。因みにうちのクラスはみんなノリが良いので、グループが分かれているとは言え、他のグループと話さないと言うことは無い。これは言い切れる。ラブコメ脳の塊だからなこのクラス。

 このクラスの外に出るとそうでもないようだが。


 じゃあ俺はこの一ヶ月何をしていたのかというと、真から貰った漫画や九十九が書いたSSのレビューを書いていた。これらに気をとられていたのもあり、部活動や委員会には所属していない。元々めぼしい部活がなかったので問題はない。

 話を戻してレビューの件だが、九十九のSSの方は特に問題はなかった。しかし真から貰った漫画は読むのが大変だった。何が大変だったかというと量の問題もあるが、一番の理由は内容がホラー系で人体破壊の描写が過激すぎたことだ。

 

 ちょっと考えてみて欲しい。例え、漫画を書くことに理解がある人だとしてもいきなりホラーのスプラッタモノを見せるだろうか? いや、見せない。そんなことをしたらこいつやべえ奴だってなって誰も近寄らなくなるのは自明の理だからだ。


 ただでさえ読むのが大変な量なのにあの作風なのは、レビューする側としてちょっと……というか相当辛いものがあった。

 そこでやっと分かった。なんであいつが彼女にしか読ませないのかが。幾ら黒歴史になるぞと言われても、中学で漫画を書いていた奴なんて大勢居たはずだ。そんな奴らが人の作品を即座に否定する訳がない。

 内容がアレ過ぎたのだ。そして自然と人が離れていったのだろう。下手に絵が上手く人体についても研究されてる分リアリティとともにグロさが大変な事になって居る。それこそR指定がついてもおかしくないぐらいに。


 流石にレビューをすると言った手前その約束を反故にはしなかったが、とにかく大変な作業ではあった。


 ここまでの話とは少し変わってしまうが、一つ妙なことがこの一ヶ月であった。それは理が作品を見せてこなかったことだ。ゲーム制作は時間がかかると言うことは理解しているが、前回の時から大分時が過ぎている。いつもならプレイすることを強要してきても良い頃合いだが、学校が忙しいのだろうか完成していないらしい。

 まあ俺の手間が省かれるだけなので問題はない。


 とにかく充実した一ヶ月であったことは伝えておく。できるはずたった友達と引き換えにした充実ではあるが……。



 ◇



 それは下校しようと教室から出て、廊下を歩いていた時のことだった。


「あ、ごめん」


 廊下を歩いていた女子生徒に肩がぶつかってしまった。謝罪を入れて通り過ぎようとした。いつもならそれで終わっていたことだった。


「ちょっとあんた待ちなさい。」

「はい?」


 女生徒に呼び止められた。

 肩がぶつかったことに対する謝罪をもっとしろと言うことだろうか。別に謝って減るものはない。少々の不満をぐっと飲み込めばすぐ終わることなので別にそれでも良いかと思う。なんかそういう気分だった。


「あんた……木下と付き合ってるの? やめておきなさい。あんな何言っても反応しないような奴と関わるのは。それによく分からないような本を読んでる奴よ」

「いや、別に付き合ってはないよ」


 急に変なことを言う奴だ。それに言葉の節々から棘を感じる。


「そう? だったら余計言わせてもらうわ。愛想が悪いというのはそれだけ人に悪感情をもたれると言うことよ。そんな奴と一緒に居たらあんたまでそう思われかねないわ」


 これは……どっちだ? 心からの善意で言っているのか……雪のことが嫌いなのか。善意で言っているのであれば、性根は悪い奴ではないだろう。嫌いなのであれば単に性根が腐ってる奴として敵判定出来るが。

 情報が足りないな。


「ところであなたはどちら様で?」

「言い忘れていたわね。私は四組の三月。あんたのことは知っているわ。五組の風谷よね」


 なんでこいつは俺の名前を知っているんだ? 目立つようなことはしていないはずだが。


「どこから俺の名前を?」

「知らないの? あんた有名人よ?」

「え、初耳なんだけど」

「五組にクラスメイトと話さないでずっと隣同士で話してるカップルがいるってもっぱらの噂よ?」


 あーなるほど。あの馬鹿どもが話を広めた訳か。

 ラブコメ脳内ピンクどもだから人の迷惑とかも考えずに広めてもおかしくない訳だ。脳内麻薬が常に分泌しているような奴らだからな。常にトリップしてる。

 そもそも俺は真とも話している。雪とだけ話している訳では無いのだ。


 というかなんで顔を知ってるんだ? クラスに覗きにでも来たのか?


「して、何故その仲良しカップルと噂の人の彼氏っぽい人にそんなことを?」

「あんたはあいつが中学の時のことを知らないのよ」


 ほう。中学の時のこととな? これってもしかして……昔雪が意味深な区切り方をしたときの話につながる?


「あいつは入学当初こそ友達と話そうとしていたけどね、全く話が合わずにすぐに孤立したのよ。それでもう誰とも話さなくなった。それもそうだわ。だって話す内容が聞いたこともないような本の話よ?」


 まああいつの読んでいる本は特殊だからな。逆に話が合ったらびっくりするわ。いや待てよ。中学入学時にあれらの本を読んでいたのか。よく見つけたな。俺でもその時はまだ普通のラノベしか読んでいないぞ。


「よく入学当初のことなんて覚えてるな」

「たまたまよ。まあ、それからは木下は誰からも話しかけられることがなくなったし、話しかけることにすら忌避感が生まれていったわ。そして話しかけた人は周りから冷やかされるように……ね」


 なんともありがちな話だ。これが雪の言っていた「誰もが俺みたいじゃない」って話なのだろうか。まあ趣味の合う合わないの話もつながってくるから誰が悪いとかではない。 冷やかすのはどうかと思うが、中学生ならやりがちではある。俺の学校でもそういうことはあったし。


「なるほど。つまるところ三月さんはそれと同じ状況になると言いたい訳ね。で、雪が変わることは多分ないし、あのとき話しかけてあげられなかった後ろめたさもあるしで雪に話しかけられないから、せめて周りに居る人にだけでも忠告をしておきたいと。そういうわけだな」

「な、何を勝手なことを」


 ま、どうでも良いが、それに俺を巻き込まないで欲しい。よし決めた。こいつは敵だ。ムキにさせてさせてさせまくって、ボロが出るまで追い詰めてやろう。そっちの方が楽しいし。

 完全に善人というわけでもない。寧ろわざわざ言わなくても良いことまで言ってくるお節介伝書鳩だからな。


「おっと、余計なところがあったな。まあ同じ状況になるって言いたいのは分かった。でも、それは余計なお節介というもんだな」

「あんたはみんなから孤立しても良いって言うの? たった一人のために?」

「元からそんなもんだよ。ぶっちゃけあいつのせいで今ですらほぼ孤立状態だからな」


 言われるまでもなくぼっちなんだよなぁ。


「だったら、何故? だって付き合っても居ないんでしょう?」


 何なんだこの学校。本当にラブコメ脳の奴しか居ないのか? なんで物事の尺度を全て恋愛関連で測ろうとしているんだ?

 全くもって理解が出来ない。


「一緒に居て嫌じゃない。楽しい。お前らが友達と話す理由と同じだよ。ああ、自分が生活しやすいように楽しく無くても話すこともあるんだっけ?」

「何を……」

「じゃあアレだ俺は元々大人数と関わるのが得意じゃないんだよ。ぼっち最高」


 まあ嘘だ。そりゃ群れて集団に属していた方が楽だし疲れない。集団の外にいる楽さもあるが周りから好奇の目で見られるというデメリットがでかすぎるせいでやりたくない。他にも情報の手に入りやすさと量が段違いである。


「言いたいことは分かる。そんなんで疲れないのか。そんな虚勢を張って楽しいか? 大変ではないか? 何を言いたいんだ? 結論は? 辺りじゃないかな? まあ例を多く出しすぎてる感が否めないからアレだけど、結論としては雪と話さなくなるぐらいだったらクラスの全員から嫌われても良いぐらいだね」


 これは本心だ。極端なことを言えば俺の中学の時の友達が何人かいなくなったとしてもどうでも良いが、雪、真、九十九、理辺りが一人でも居なくなったら大騒ぎする。

 気持ちよく話せる相手というのはそれほど大切なものなのだ。

 まあこいつらとクラスメイトの中学の時の知り合いの違いには明確な線引きは特にない。強いて言えば自分の心をいかに大きく占めているかとかじゃないか?


「ふざけないで。そんな人が居るはずないじゃない!」

「随分とまあ強い口調だな」


 俺のことは置いておこうね。


「なんでそう思うんだ?」

「私はあんたみたいな奴よりも友達が多い。でもそんな人見たことない」


 俺に敵意が向いた? さっきまでの俺を諭すような言葉はどこへ? 煽るような口調がどこか触れてはいけないところに触れたか?


「自分が見えてる範囲が全てではないぞ。まあ別に自分が良いなら自分が見えている範囲で判断しても良いと思うけど」

「そうかもしれないけど、それでも見えてる範囲があんたより広いのには変わりないわ」

「いやいや。見えてる場所の違いだ。範囲じゃない。例えば三月さんが視力が良いとしよう。それでもな、三月さんが前を向いていたら前の情報しか入ってこない。で、今の状況にそれを当てはめると三月さんが前を向いていて俺が後ろを向いている状況なんだ、後ろの情報を前の情報で判断できる訳ないだろう?」


 まあそもそもこの例え自体おかしい。そもそもなんで俺が後ろを向いていると言う仮定なんだ。


「……なら、そうだというなら勝手にしなさい」


 どこに納得したのだろうか? それとも勢いにやられた? まあ引き下がってくれるならありがたい。

 

「分かってくれなくても良いけどさ。俺はよく知らない大勢よりも知ってる少数を大事にしたいんだよ」

「そう……。呼び止めて悪かったわね」


 そう言うと三月さんは去って行った。

 

 ふう。穏便というか行き着くとこまで行かずに済んだな。

 ……いや違う。もっと追い詰めるべきだったんだ。いやでもそんな雰囲気ではなかったしなぁ。

 まあ良いか。明日雪にこいつのこと聞けば案外目的は達成されるかもしれないしな。


「帰ろ」


 すっかり遅くなってしまった。



 ◇



 もう、何なのよあいつ。あんなにムキになってずーっと喋って木下……雪ちゃんのことを庇って。何なの。何が違ったのよあいつと。

 いや、きっと口先だけだわ。そう。そうにちがいない。


 

 でもそうじゃないのなら。それが出来るのなら……。


「それを……証明して……見せてよ」


 涙を拭う。


「ふふ。やってみなさいよ。風谷。そんなにも木下が大切なら……」


――どんな事だって乗り越えられるわよね?

下の星を五つ灯らせてブックマークしてくだしあ

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