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6 ラブコメ

 翌日、いつも通りに起きた俺は昨日よりも遅く学校へ向かっている。

 通学路にはうちの学校の制服を着た人が昨日よりも多く歩いており、新入早々できた友達と話しながら学校へ向かっている。


  眩しい光景である。俺もこれを目指していたのだが、現実はそう上手くはいかなかった。


「風矢。おはよう」


 なんてことを考えていたら、後ろから声をかけられた。


「真か」


 振り返ると彼女大好きイケメンがそこに立っていた。


「昨日よりも来るのが遅いね。僕が来たときにはもう人だかりが出来てた気がするんだけど」

「昨日は特例だ。早く目が覚めたんだよ」


 そうか。よく考えれば朝二人っきりで話していたから、あんな騒ぎになったのか。今度からは気を付けよう。脳内ピンクの連中には男女二人で居ればどんなことでも恋愛沙汰に見えるみたいだからな。


「彼女とはどうだったんだ? 昨日なんか会うとか言ってたけど」

「あーそれはね……」


 そういえばこいつ、彼女についての話が長いんだった。事前に釘を刺しておこう。


「なるべく短くお願いな」

「え? あ、うん。昨日はデートの約束をするだけの予定だったんだけど、そのままデートにも行こうって流れになって、水族館に遊びに行ったりしたよ。それでさ、おそろいのキーホルダーとか買ったんだ。そうそう、同じモノをお土産で買ったんだけど君もいる?」

「いや、いらないけど。なんだ? 俺への当てつけか?」


 流石にどうかと思うけどな。彼女とおそろいのモノを友達にお土産として渡すって。向こうにも失礼だし、こっちにも喧嘩売ってるだろ。


「当てつけとかじゃ無いよ。そもそもそんなので彼女とおそろいのキーホルダーを君に買ってくる訳ないだろ。出会ってまだ二日目だよ、僕たち」

「それもそうか。して、なんで俺にそんなモノを買ってきたんだ?」

「いや、君と何だっけ? 雪さんだっけ? に渡そうと思って。彼女に高校の友達がカップルなんだけどその人達にお土産買いたいな。って言ったら嬉しそうに一緒に選んでくれたよ」


 馬鹿なのか? こいつもその彼女も。百歩譲って俺とあいつが彼女だったとして、自分たちとおそろいの奴を買ってくるのは無いだろ。


 というかなんで出会ったばっかりの奴にお土産なんて買ってくるんだろう? 中学の時の友達に対してならまだしも、そこまで仲良くないとと思うんだが。


「何度も言うけど、雪と俺はそういう関係じゃ無いからな」

「そうだったね。それに僕からよりも君から貰った方が嬉しいだろうし」


 何がそうだったねだ。完全に分かっててやってるやつだろこれ。


「お前なぁ。……まあ良い、分かった」


 昨日、こいつ以上のやばい奴らと話してたから、もう何でも許せる。


「何が分かったんだい? もしかして自分の恋心?」

「そうそう、恋心。雪への恋心だよ」


 案外適当なノリで言えば恥ずかしくないのが世の定め。本気で考えようとするから恥ずかしくなるのであって頭を空っぽにして言えば恥ずかしくないのだ。


「直球だね。でも良いの? そんなことここで言って。みんなに聞こえるよ?」


 ふと周囲を見渡すと、一部の見覚えある生徒達がこそこそと何かを話していた。あいつら……クラスメイトの奴らじゃねえか。


「嵌めたな、真。全然気がつかなかったぞ」

「え、何急に。自爆しただけじゃん」


 うっわやらかした。昨日はカラオケの中だったから内輪ネタで済んでいたがここは屋外。しかも、生徒達が多く居る通学路である。適当なノリといえど軽々しく話さない方が良かった。


「まあ良いさ。別にあいつらは俺に話しかけてくることも無ければ雪に話しかけてくることも無い。外野が盛り上がっても俺には何も害はないさ」


 昨日はちょっとイラッとしたから言いに行ったが、もうどうにでもなれ。俺は好きなように生きていく。


「君が良いんだったならそれで良いよ。それよりも……僕が描いてる漫画を読まない?」

「随分とまあ唐突な話だな。良いけど、俺漫画ってあまり読まないんだよな」

「えーでもレビューしてくれるって言ったじゃないか」

「いや読まないとは言ってない。ただ、コマ割りとかよくわかんないからあくまで、ストーリとかに関してしか言及ができないぞ」


 絵の上手い下手なんて見れば一発だけど具体的にどこが悪いのかも分からないし、初心者に言われてもイラッとするだけだろう。そもそもあんまり読まないから無難なことしか言えないのもある。


「助かるよ。いやー読んでくれる人が彼女しかいなくてさ」


 読んでくれる人が彼女しかいないって。いやまあでもそうか。中途半端に親しい奴に読ませても笑われる可能性の方が高い。それならば彼女って言う親密な仲の人に見せるのが無難か。

 もしくはそういうことに理解のある人か。

 

「じゃあこれが原稿ね。くれぐれも学校では開かないように」


 真は鞄から大きい封筒を渡してきた。 

 しかも結構厚みがある。これ、相当な量があるんじゃ無いの?


 

 ◇



 特に何がある訳でも無く、強いて言えばオリエンテーションとかやっていないせいで、学校に迷った以外は昨日と同じように過ごして昼休みになった。


「風矢。お昼ご飯」


 雪と一緒に食べる予定だったので席をくっつけていると、雪から小包を渡された。


「え、何これは」

「お弁当。作ってきた」

「え? え?」

「そういう契約。忘れてる?」


 そういえばそうだ。昨日のカラオケのせいですっかり忘れていた。


 家から適当にパンを持って来ちゃったよ。どうしよう。

 

「おい。あいつ女の子からお弁当を貰ってるぞ。昨日まで茶化してただけだけどガチだったのか……」

「馬鹿、声がでけえよ。しかし、みんながいる前で渡すとか随分と見せつけてくれるな。どう煮てやろうか」

「は? 見守ってやれよ。おま、純愛に口を出すとか舐めてんの?」

「お前、純愛過激派か!? 不味い、NTR同盟盟主だとばれたら殺される。逃げろ」


 なーにやってんだあいつら。やっぱりこの学校はギャグ世界じゃないか。

 

「食べないの?」

「いやいや、そんなことはない。とりあえずお弁当ありがとう。いただくとするよ」


 お弁当の中身を開けると、卵焼きや目玉焼きやゆで卵や煮卵が入っていた。


「卵尽くし!? あ、いやありがたいけど。え?」

「卵しか残ってなかった。でも美味しい……はず」


 とりあえず卵焼きを口に運ぶ。うん美味しい。あれだ、だし巻き卵ってやつだ。俺は甘い奴よりもこちらの方が嬉しい。


「美味しいよ」

「本当? 良かった」


 普段無表情な雪が珍しく嬉しそうな顔をしている。

 なんかこっちも嬉しいな。いや、お弁当を貰った時点で嬉しいんだけどそれとはまた別嬉しさというか。うーんよく分からないな。表現し辛い。


「こっちを見つめてどうしたの?」

「いや、珍しく顔に感情が出ていると言うか、無表情じゃないなって」

「そう?」


 雪が頬をつまんでむにむにと動かしている。何だよ。小動物みたいな可愛げがあるじゃないかよ。


「雪も食べようぜ」

「うん。分かった」


 目玉焼きもゆで卵も煮卵も美味しい。というか煮卵なんて朝作れるものなのか?


 炭水化物が欲しくなったので袋の中身を覗くとおにぎりが入っていた。 とりあえず食べてみる。

 え、これにまで卵が入ってるの? いや、美味しいけどさ。食べると、先ほど食べた煮卵がそのままおにぎりに入っていた。

 大丈夫かな。こんなにタンパク質をとったら痛風になりそうな気がする。

 

 そんなこんなで黙々と食べていたら、すぐに食べ終わった。

 俺は少食な方なので量は食べられない。しかし俺に気を遣ってなのか天然なのか、雪と同じ量だったので腹八分目程度の食べやすい量だった。


「ありがとう。美味しかったよ」

「それは良かった。健康のため作るって言ったのに卵ばっかでごめん」

「いやいや、別にそこまで気遣わなくても良いぞ」


 俺はまだ若い。なんたって男子高校生だからな。ちょっとやそっとの食生活の乱れで倒れる程やわではない。


「あ」

「どうした?」

「おべんとついてる」


 雪がこちらに身を乗り出して俺の頬についているご飯粒を取り除く。


「サンキュー」

「気にしなくて良い」

 

 ティッシュかなんかにくるもうとポケットの中を探る。

 そこで雪が手についたご飯粒を口に運ぼうとしているのに気がついた。


「お前何してるんだ?」

「もったいないから」

「い、いや雪、お前、それは……いやいや」


 あまりにもベタ過ぎるというか恥ずかしいと言うか。


「キャー! あれよくやったわね」

「もう付き合ってるわよ絶対アレ。確実よ、結婚を前提の奴だわ」


 あーもう知らん。知らん。やばい顔が赤くなってくる。


「どうしたの?」


 お前は何故そんなに冷静なんだ……。   

あ、下にある星を全て灯らせて下さい。やる気が……出ます!

ブクマもしてくれたらやる気が……更に出ます!

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