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5 すーぱーじんせいそうだん

「まあまあ言ってやるな砂押。さっきもその話をしていたんだが、そういう関係では無いとこいつは言っている。無理に聞いても良いことは無いだろう」

「と言ってもよ、俺学校でそんなこと無かったぜ?」


 九十九は俺の味方をしてくれるようだ。この調子だったら長くならずに言いくるめられるかもしれない。


「まあ、本音を言えば俺も新作のためにそこら辺を聞き出したいんだがな」


 前言撤回。やっぱり友情よりも自分の欲望をとりやがった。


「待ってくれ。そもそも雪と会って俺まだ二日しか経ってないぞ。流石にそれで邪推するのは無しだろ」

「雪って言う名前なんだ。多分それ名字じゃ無いよな。出会って二日で下の名前で呼び合ってるのか。へぇー。女友達なのに随分と仲がよろしいようで。なあ? 風矢君」

「いや、それは相手がそう呼べって言ったからで。大体、下の名前で呼び合ってる奴らなんて創作の世界だったら幾らでも居るだろ。スクールカースト上位の男とか。なあ九十九?」

「それは……まあいるが。だが、それはあくまで創作の世界の話だろ。しかもお前はスクールカースト上位の奴では無い。謎の交友関係はあったが……」


 創作の世界の学校みたいな所に通ってる奴が何を言ってるんだ。自分の置かれている状況と他の人の状況を同一視出来ていないなこいつ。


「……じゃあ仮に俺が付き合っていたとしてだ。どうやって口説いたと思う? それこそ創作の世界とかの話にならないか?」

「いや、そりゃお前妙に口が回るし。何か適当なこと言って口説いたんじゃないか?」


 なんてことを言いやがる。確かに適当なこと言って話しかけには行ったが、あくまで友達にならないかって話だぞ。


「まああんまりこういうことを言うべきではないと思うが、さっきのラノベ群を読んでいたようなやつだ。よっぽど友達とかが居ない奴だったんじゃないか? 多分根暗な奴でもあるだろう。そんな奴が話の合う奴を見つけたら懐くのは普通だと思うが」

「よく見ず知らずの奴に暴言吐けたなお前。その友達が居なくて根暗奴の仲にはお前も入ってるんだぞ」

「まあ何も間違ってないからな。事実お前らぐらいしかまともに話せる奴はいない。高校でも自分のでずっと本を読んでるからな」


 堂々と言うことでは無い。それにさっきから雪に対する風評被害が凄いぞ。確かに友達が居なかったし、根暗というか暗い雰囲気は纏っていたけども。それでもマイペースながらおどおどはしていない。むしろ堂々としている。


「じゃあ、お前はどう思ってるんだよ風矢。相手のことをよ」


 理が突然妙なことを言ってくる。

 

 俺がどう思ってるか? 


 まずはちっこい見た目だろ? 小動物みたいな感じの。それで何だ? 趣味が合うし、話していると癒やされるな。ゆったりとしたペースだから、こいつらと一緒に居るときみたいに慌ただしく喋る必要は無い。


 俺の基準で考えれば良い奴ではある。他の人がどう思うか分からないが、一人で居るよりは一緒に居た方が嬉しい。


「なんだろうな。一緒に居て嬉しい、楽しい存在か? 友達としてだけど。お前らと居ると疲れるんだよ」

「……正直ド直球の返答が来て困る。まあそうだな。これ以上突っ込むのは野暮か? なあ文夫」

「その通りだ。茶化して悪かったな、風谷。今度紹介でもしてくれ」

「え、何々急にどうした?」


 いや、この話が終わるんだったらそれはそれでと言うか、願ったり叶ったりの状況だけど、何か含みを持たせてる言い方だなこれ。ド直球の返答という言葉から察するに……あ、そういうことか。

 これに関しては変に反論すると生暖かい目で見られかねないから、黙っておくとしよう。折角話が流れたのに無理に蒸し返すことも無い。


「まあ話題を変えて、俺の高校の話でも聞いてくれや。風矢君の心にグサリと刺さるモノがあるかもしれないが、まあそこは甘んじて聞いてくれ」


 俺がいるから配慮してるのか? いや甘んじて聞いてくれって配慮の意識がひとかけらもねえな。


 まあ落ちた話というか、過ぎた話を引きずるのはほどほどに留めておかないと飽きられる。


「分かってるよ。俺もそこまで昔のことを気にするタチじゃ無いからな。で、落ちた奴に対しての自慢とやらはどんなもんなんだ? 似合わない髪型で学校に行って生暖かい目で見られてる理君とやら」


 まあ飽きられるからといって、それとこれとは話が違うよね。


「まあまあ聞いてくれよ。うちの学校の特色なんてみんな聞いたことあるだろうけど、実際どうなのかをさ。負け犬君」

「いちいち煽るのはやめろ馬鹿ども」

「「何だと!?」」


 俺たちそんなに学力変わらないはずなのに馬鹿と言うとは。言って良いことと悪いことの区別もつかないのかこの馬鹿は。


「そもそもお前ら落ちた落ちないの話してるが、入ったレベルなんて俺たち全員同じだろ。何をそこまで言ってるんだ」

「自分の第一志望に落ちたのが非常に悔しいです。できれば自分の望むところに行きたかった。後、一人だけ受かった理に気を遣わせたくない」

「風矢だけ落ちて俺なんて声をかければ良いのか分からない。せめていつも通り明るいテンションで行こうと」

 

 理……お前……。


「本音は?」

「え、だって理が受かったのに俺が落ちたの悔しいじゃん」

「風矢の落ちた高校に行ってあざ笑うのって最高じゃね?」

「いつも通りだなお前ら」


 ぶっちゃけ落ちたのとかどうでも良い。ただただ、こいつらに負けるのが嫌だ。


「そもそも九十九はどう思ってるんだよ」

「ぶっちゃけ人の進路とかどうでも良い。お前らに見下されなければ」


 同類じゃねえか。


「そろそろ俺の話をしても良いか?」

「良いぞ」

「早くしろ」


 実際気になる所ではある。他校の事情なんてなかなか知ることが出来るものではないからな。


「キラキラしてるよ。みんな。学校が始まって一週間は経つけど、正直今が楽しいって連中ばかりで辛いわ。自分は何してるんだろうって」

「友達……出来なかったのか」

「いや、そういう訳じゃ無いんだ。ちゃんと居るけど目の輝きが違うって言うか、エネルギッシュな奴が多いんだよ」


 エネルギッシュな奴ね。


 俺がこいつの行ってる高校を志望校に選んだのは、活力にあふれた刺激的な毎日を送ってみたかったからというのがある。うちの学校もそう言う面もあるにはあるけど、ちょっと違う。こっちの学校が面白さに振り切れてるのに対して向こうは清廉なイメージがある。

 わかりやすく言えばこっちがギャグの世界線に対して向こうは綺麗なラブコメをやってる様な感じ。

 

「本音を言うと行く高校を間違えた感が半端ない」

「誰だって最初はそうだろ」

「そうなんかな?」


 俺はそんなことを考える程高校に行っている訳でも無いので何とも言えないが、少なくとも中学の時には同じように感じていた。


「俺はそんなこと感じたこと無いな。収まるべき場所に収まったって感じだ」

「まあ文夫はそうだろうな。あそこはキラキラしているイメージは無いし」

「まあ、思う所が無いと言えば嘘になるが。俺も大体一週間経つが周囲とのズレを感じたことは無い」

「お前はずっとぼっちだからだろ」


 さっき一人自分の席で読書しているとか言っていた奴はどこのどいつだ。


「皆も同じようなものだ。一人自習していたり、読書をしていたりな。友人と話しているやつも居るが騒いでいるということはない」

「俺もそこ行けば良かったかな?」

「いや、やめておけ。お前はガチガチの理系だろう。あそこはどちらかと言えば文系の教育が盛んな学校だ」

「まあそうなんだけどさ」


 九十九は本を書いている通り文系であり、理はゲームを作っていることからも分かるとおり理系である。とはいえ、どちらもどっちかが壊滅的に出来ないと言う訳ではない。あくまで突き抜けて勉強ができると言う話である。


 因みに俺は、突き抜けている所はない。まあ強いて言うなら文系である。ただし、暗記科目が苦手なので地理とか歴史とかは辛い。


「とりあえずその髪型を元に戻せば良いと思うぞ」

「え、それ関係ある?」

「身だしなみとかから人の意識は変わるって言うだろ。それと同じだよ」

 

 後、単純に似合ってない。


「そんなもんか?……ってなんか暗い話になっちゃったな。よし歌うか」


 確かに少ししっとりとした雰囲気ではある。というか学校生活の話では無く、こいつのお悩み相談会になっていたぞ、これ。


「どうした? 風矢の番だぞ」


 理が歌うと言い出したので、いつ歌うのかと心待ちにしていたら、理が俺にマイクを差し出して来た。

 しまった。折角気をそらしていたことを忘れていた。


「おいおい。言っただろ俺は歌が上手くないって。お二人で歌ってくれよ」

「よおカラオケの提案者。お前だけ歌わないのはそれはノリが悪いってもんだぜ?」

「その通りだな。よし俺が曲を選んでやろう」

「は? おい、ちょっと待て。せめて曲ぐらいは俺に選ばせろ」


 時すでに遅し。もうすでに予約は入り、前奏が流れ始める。

 聞いたことがあるメロディだ。何だこれ……って。


「何童謡を流してるんだお前は」

「歌が下手なのであれば簡単な曲から歌えば良いだろう。だからこれにした」

「え、これマジで歌うの?」

「折角流れてるんだからそりゃなぁ」


 地獄の童謡大会が幕を開けた。



 ◇


 カラオケの時間が終わり、帰り際。駅まで俺たちは少し話していた。

 あの後、俺は何曲か歌わされた。非常に恥ずかしかった。みんなの前で演説とかする分には恥ずかしくないのに、歌になると何故こんなに羞恥心を感じるのだろうか。


「意外と上手いじゃないか。風谷」

「勝手に言ってろ」

「そうふて腐れるなよ。誇っても良いぜ? 点数も高かったし」


 実際に本気で歌ったら、そこそこ良い点数は出ていた。何点ぐらいから上手い判定か知らないからどうなのかは分からないけど。


 でも恥ずかしいんだよぉぉぉ。


「まあ良い社会経験ってことで。想いが実ったら役に立つときが来るかもしれないしな」

「堀内、それは言わないって話だろ」

「おっとすまんすまん」


 反応したいし、否定もしたいがスルーした方が身のためだ。ここはぐっと抑えて。


「痛! お前いきなり何すんだよ」

「悪い悪い。ちょっと体を伸ばしたかっただけなんだ」

「いや、握りこぶしを作って前に伸ばす行為は、体を伸ばす範疇に入らないぞ」


 最近体痛いからこういうこともあるよ。うん。


「おい、馬鹿ども。早く帰らないと明日に響くぞ」

「まだ夜ご飯も食べてねえしな」

「おっし帰るか」


 俺たちは同じ駅を利用しているとはいえ、家自体はそれぞれ離れた場所にある。そのため、それぞれ別の帰路につくのだった。

直球過ぎる好意って茶化すに茶化せないよね

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