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4 馬鹿と馬鹿と馬鹿

 放課後、雪は速やかに帰ってしまったし、真は彼女と会ってデートの約束をすると言って一人で帰ってしまった。故に今の俺は一人ぼっち。一人寂しく下校となる。と言ってもどうせ道が同じなのは駅までなのでそこまで悲しいとかはない。


 それに俺は今日例の二人と会う約束がある。約束と言ってもついさっき集まろうと連絡が来ただけなんだけど。

 集合場所は俺の家からの最寄り駅であいつらの最寄り駅でもある。つまるところ帰りに集まって遊ぼうぜって話だ。最近会っていないので、あいつらが現状どうなっているかが非常に楽しみでもある。中学校の春休みは各々受験が終わりやりたいことを思うがままやっていたので、現実で会うことが無くSNSでのやりとりしか無かったのだ。


 俺の最近の楽しみは人と話すこと。それも実際に声を交わす会話が楽しい。雪とか真とかと一緒に話すのも楽しいは楽しいが流石に、気を使い合う仲であるやはり気の許せる友達のとの会話と勝手が違ってくる。 


 なんてことを考えながら歩いているとと知らず知らずのうちに学校からの最寄り駅に着いていた。考え事をしながら歩く道というのは短く感じるものだ。



 ◇



 電車に乗って目的地の駅に着くとすでに奴らは集まっていた。あいつらの通う高校は俺が通う高校よりも若干この駅から近いのでその差だろう。


「おっすおっす」

「おん? ああ風矢か。制服姿見るの初めてだわ。何か変な感じするな」


 チャラそうな髪型をしている男、煽りマンこと砂押理が反応する。


「いやいや、お前の制服こそ初めて見たぞ。あと若干髪型が似合ってない……」

「やめろって僻みは。落ちたからって勝者に対しての暴言は負け犬の遠吠えにしか聞こえな……」

「いや砂押、風谷の言ってることは本当だ。さっさと直してきた方が良い」


 そして最後に眼鏡をかけて暗そうな雰囲気がある、本屋の倅こと九十九文夫が会話に加わる。


「え、マジ?」

「大真面目だ。そんなんじゃ彼女も出来ない」

「だから何か温かい目で先生から見られてたのかー。失敗したなぁ」

「それは……ご愁傷様で」

「まあいいや明日にでも直して来る。んでどうする? 集まったとは言え何かすることあんのか?」


 こいつ……俺たちを集めた癖に何も考えて無いのか? 


「カラオケにでも行くか? 行ったことないけど」


 良いよねカラオケ。何か青春って感じがする。


「俺も行ったことねえな。文夫はどうだ?」

「お前はお前らよりも外に出ない俺にそういう経験があるのかと、そう問おうとしているのか?」


 そう、九十九はなかなか外に出ず、俺たちが遊びに誘ってもあんまり来ることがない。それなのにも関わらず何故か運動神経が良いという所に不平等さを訴えたいが、普段運動不足なので動いた後は高確率で筋肉痛に悩まされるというオチがついている。


「そういやそうだったな。すっかり忘れてたわ」

「そうだもんな、理はチャラい髪型には絶対しないって言ったのにも関わらず、そういう髪型にする奴だもんな。そりゃ覚えてないはずだよ」

「おま、さっきの奴根に持ってるな。まあでもそうは言ってもお前よりも暗記が得意だし、頭が良いから。敗北者の風矢君とは違うんですねぇ」


 好き勝手言ってくれるじゃないか。


「いやいや、よく考えてみろ。実際に暗記が得意だったとしても、失敗をしないための記憶を覚えられていないのであれば意味が無いだろ? それに頭が良いと言ったってな。そういう判断をしてしまう頭の悪さがある以上、頭が良いという具体的な基準がないものを武器に俺に何か言ってきたとしても……ってところがあるよな」

「でもお前、落ちてるじゃん」

「それは論点のすり替えって奴だよ。元の話が何か、ご自慢の暗記力とやらで思い出してみてくれ」

「あれだろ、風矢が、理はチャラい髪型には絶対しないって言ったのにも関わらず、そういう髪型にする奴だもんな。そりゃ覚えてないはずだよ。って言って始まったんだよな?」


 こいつ……一字一句間違えずに全て覚えてる。流石の暗記力と言ったところか。


「ほら、落ちてる云々の話じゃ無いだろ? やめて欲しいなぁ学歴マウントはさぁ」

「そらあれだろ、忘れてたのに関しては記憶のこぼれだよ。どうでも良いことはあんまり覚えないようにするたちなんだ」

「話が前に進まない。もっと建設的な話をしろ」

「ほら、言われてるぞ理」 

「風矢の方だろ」

「お前ら二人だ」


 なんだと。

 

 まあいいや。そろそろ本題に戻るとしよう。


「……まあ俺はカラオケで良いと思う」

「文夫もそう言うんだったらそれにするか」

「して、カラオケに行って何をするかが問題になってくる訳だけど」

「そりゃ歌うんだろ」


 歌ねぇ。自分で提案したのも何だが俺は歌にそこまで自信が無い。ただ青春ぽいの一点のみで選んだ場所である。


「歌に自信無いんだよ俺」

「風矢お前それでカラオケを選んだのか」

「まあ、歌わなくても良いだろ。学校がどうかとかも話したいし」


 そう言えばこいつらに一人で歌ってるところを見られたこと無かったな。クラスが同じになったこと無かったはずだし、合唱祭とかも目立つ方では無かった。


「そんじゃ行くか。近くにあったっけ?」

「調べろ」

「集めた人が調べれば良いと思うな」

「お前ら……まあいいや」


 理がスマホとにらめっこしている間、九十九が俺に話を振ってきた。


「学校はどうだ? と言ってもお前は金曜日からだったらしいが」

「全然友達が出来ないんだよ。隣の奴とずっと喋ってるせいで。まあ悪くは無いんだけどもう少し男友達が欲しいかなって。学校で話せる知り合いそいつ含めて二人しか居ないから」

「その言い方だとどうも、そのお隣さんとやらが男には聞こえないんだが?」

「まあ、ね。と言っても別にそういう話では無いし」


 惚れた腫れたとかそういう話では無い。すぐそう言うことに結びつけようとする不埒な輩がいるが、それで勘違いしてはいけないというのは一般常識であり社会通念である。


「そうか。まあ入学したばっかりだとそう言うこともあるだろう。俺の行ってる高校はな、生徒会の権力が滅茶苦茶強いんだ」


 理が行っている高校と違い、九十九が行っている高校のことは俺はよく知らない。 

 何でも伝統のある高校とは聞いているが。


「どんな感じよ」

「事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。ほぼ全ての行事を生徒会が仕切っているらしい。しかも校則とかも生徒会が決める権限を持っているそうだ」


 どっかの進学校みたいな高校だなそこ。


 まあそれはともかくこいつの性格的にはぴったりな学校だ。こんなにお堅い口調ではあるが、内面は珍しいこととか非現実的なこと大好きな奴だ。何でも小説みたいなことが起こるとインスピレーションが湧くそうだ。


 根っからのプレイヤー気質である俺にはよく分からないが、理もそれに同意しているからクリエイターには何かしら通ずる感覚なんだろう。


「やっぱり新しいこととか珍しいことというものは良いな。いつだって俺に発想をくれる」

「可愛い女の子とかは居ないのか?」

「なんでも皆が憧れる先輩が居るらしいぞ。いやもう発想妄想がはかどって最近は執筆活動に忙しすぎて睡眠不足気味なんだ」


 なんか楽しそうで何よりだ。


「おい、何かここから五分ぐらいの所にあるらしいぞ」

 

ついに理が場所を見つけたようだ。


「そうか。それじゃあ行くとしよう」


 青春カラオケの始まりだぜ。



 ◇



 理がマイクを握って熱唱している。例によってゲームソングだ。原曲が女の人が歌っているというのによく歌えるものだ。しかもなにげに上手いし。


「いやー疲れた疲れた。歌うって良いな」


 歌い終わった理がジュースを飲みながらそう言う。


「意外と上手いな」

「そうだろそうだろ。俺はマルチなジェネラリストなんだよ」

「えっ運動が苦手なのに?」

「苦手じゃない。体力が無いだけだ」


 こいつは運動ができない。別に太っているからとかそう言うのではなく単純にすぐバテて、運動神経もあまり良くないので自分の体を動かす事が出来ていない。


「砂押、お前は大縄飛びでよく引っかかってたよな」

「いや、それは……」

「まあ良い。次は俺が歌うとしよう」

「お、良いじゃーんお前も歌が上手いんだよな」


 そうなのか。


 流れてきたのはアニソン。ライトノベル原作のアニメは結構見ているらしく、流れている曲もそのうちの一つのオープニング曲だった。

 

「あ、これは俺も聞いたことある奴だ」


 理はあまりアニメを見ない。というかそんな時間は殆どゲーム制作やゲームのプレイに費やしている。


 俺は何もすることがないので広く浅くゲームをしたりアニメをしたりラノベを読んだりしている。


「よし、俺の番は終わりだな」


 ……この流れで行くと俺も歌わされる羽目になるのでは? 不味い、話を変えなくては。


「そういや九十九、リユニオン・フェイタル読んでる奴が高校に居たんだけど」

「本当か? あの知名度の無さを誇るリユニオン・フェイタルだぞ」

「なんだそれ?」

「砂押、俺の親が営んでる店で売ってるぞ」

「え、買うの? 教えてくれないの?」


 あの面白さは読んでみないと分からないからな。営利目的が少しばかり入っているとはいえ、選択としては正しい。


「さっき言った隣の席の奴が読んでたんだよ。しかもリコールクエストとかも読んでたぞ」

「嘘だろ。何者だそいつ」

「え、何隣の人って」

「風谷の女友達」

「え、女友達とかできたの? 恋人? ねえねえ恋人?」


 面倒くさい奴にこの話を聞かれてしまった。

 長くなりそうだなこれ。


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