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3 お昼時の契約

 お昼時、昼食代をケチるために弁当を作ってきた俺はどこで食べるかを迷っていた。何せ俺はまだこの学校で知り合いが一人しか居ない。授業間の休み時間に話しかけられれば良かったのだが、何かにつけて雪が話しかけてきたのでそれも叶わなかった。


 現在雪は購買に昼食を買いに行っているのか教室から出て行ったので、知り合いを作る絶好のチャンスである。まあだからこそ悩む訳だ。


「ねえ、僕と一緒にご飯食べない?」

「へ?」


 弁当箱を持って右往左往していたら急に後ろから話しかけられた。しかしこれは……願ってもない幸運だ。知らない人に話しかけるのはハードルが高いからな。


「嫌だったら良いんだけどさ」

「いや、助かるわ。どこで食べる?」


 こいつは……誰だ? 見たところ一人っぽいが、金曜日には俺以外の殆どが何かしらのグループに属していたはずだ。しかも中性的ではあるが整った顔立ちである。ぼっちになるようにはとてもでは無いが思えない。居たら記憶に残るとは思うんだけど、初めて見る顔だな。


「ところでなんで俺と? しかも一人だし……」

「一人ぼっちでいた君が言うのか。まあ、入学式行けて無くてさ。何かみんなもうグループ作っちゃったみたいで話しかけ辛くて。今日の朝なんて凄かったね」


 分かるわー。なんかもう一体感出てるし、みんな仲良くなるのが早くて追いつけない。

 まだ二日目だぞ二日目。進級でももう少し仲良くなるのに時間がかかるからな。


「君はどうして食べる友達が居ないんだい? というか君の名前も聞いてなかったね。僕は落陽真」


 随分と直球な質問だな。


「俺は風谷風矢。まあなんというか俺の隣の席の奴とずっと話してたら友達作る機会を逃した」

「そういえばずっと女の子と喋ってたね。彼女かな?」

「違うな。そもそも出会ったの金曜日が初めてだし」

「そんなこと言って、実は幼い頃に会っていたとかじゃないの?」


 この学校の人達はラブコメ脳しか居ないのかな? 別に悪い奴らではない気がするんだけど度が過ぎていると思う。


「ないない。雪なんて名前聞いたことない」

「ま、君が言うんだったら少なくとも君の中ではそうなんだろうね」

「含みを持たせるな」


 席をくっつけてお弁当を開く。適当に作ったので見た目はアレだし彩りも悪いが、食べ物なんて食べられれば良いんだよ。


「なんともまぁ身体に悪そうなお弁当だねぇ。購買の方がまだ健康に良いんじゃないかい」

「うるせー。口に入れればどんなものも同じ栄養だろ」

「いやだから口に入れた後の話をしてるんだけど」


 正論やめて。


「お前のお弁当は凄いな」

「まあ親の影響かな。あんまり家に居る人じゃ無いから自然と料理とかするようになったんだよ」

「なるほどな。なんか聞いてごめん」


 あんまり家庭環境とかの問題に簡単に踏み入るもんでもない。言われても困るしな。


「別に良いよ、自分からした話だしね。それよりも好きなものとかあるかい?」

「随分とまあ唐突な話だな」

「そうかな? まあ良いじゃないか。趣味とかないの?」


 趣味か。最近何しても楽しくないから言われても簡単に答えられないんだよな。強いて言えば人と話すことが好きだけど、話す機会が少ないからそれも違う。


 うーんなんだろうか。


「僕はねぇ、漫画を書くのが趣味なんだ」

「へえ、クリエイターなのか」


 小説家志望とゲームクリエイターはいたけど漫画家はいなかったな。そういえば俺もあんまり漫画を読まない。文字の方が触れやすいというか目に優しいというか、そもそもストーリーが面白くても絵柄が合わないと熱中できないというのがあって敬遠していた。まあ文章であっても合わない文章というのは気持ち悪くて読めないこともあるけど。


「笑わないんだね。大概この話をすると黒歴史になるぞとか言われるんだけど」

「まあ俺の友達にも似たようなことしてる奴いるしな。作ってるときの楽しそうな顔を見てるとそんなこと言えない」

「漫画を書いてるの?」

「いや、ゲーム作ってる奴と小説作ってる奴がいる」

「なるほどねぇ、君は何か作ってるとかあるのかい?」


 俺か……。基本的に誰かに作られたものを甘受しているので特に何かを作っていることはない。


「ないな。強いて言えばあいつらが作ったものをプレイしたり、読んだりして感想を纏めてるぐらいだな」

「じゃあ僕の書いてるやつもレビューしてよ」

「時間があったらな」


 あいつらに読まされてるせいでそういうのには慣れている。一度面白半分であいつらの作品にしっかりとした感想を書いたら、案外受けが良かったのでやる度に毎回書いていた。 最近は受験でその機会も減っていたが、これからはその機会が増えていくだろう。


「何の話?」

「いや、こいつが漫画描いてるって話で……ってお前いつから?」


 気がついたら隣に雪が座っていた。机とかを知らない間に移動させていたようだ。陰が薄いから全然気付かなかった。


「おっと彼女から電話が来たようだ。僕は後で食べるからごゆっくりー」

「おい真おま……」


 いつの間に纏めたのか、真はお弁当をもってクラスを出て行ってしまった。というかあいつ彼女いるのか。本当に電話なってたし。


「誰?」

「落陽真っていう漫画描いてる奴」

「ふーん。先にご飯食べてるのずるい」

「いや、俺あいつと飯を食べようと思ってたんだよ」

「私、風矢以外に一緒に食べる人いない」


 いやまあそうなんだけど、男友達と話したいじゃん?


「それは悪いな」

「別に良い。私家族以外の人と話しながら食べるの初めて。なんか珍しい」


 本当に友達居なかったんだな。なんかこっちまで悲しくなってくる。本人は特に気にしていない様子だが、端から見てると可哀想に見えてくる。


 こいつ自身一人でいたい訳じゃないようだし。


「これから幾らでもこういう機会はある。珍しくもなくなってくるぞ」

「本当?」

「本当……かどうかは断言できないけど少なくとも俺とは何回もあると思うぞ」

「そうなれば……良い」


 多分そうなると思うけどな。だって真とこいつ以外にこの学校に知り合いがいないし。しかもあいつ彼女持ちっぽいから忙しそうだ。一人でご飯を食べるのも嫌だから結果的に雪と昼飯を食べることになるだろう。


「じゃあ明日は俺が誘うよ。一緒に食べようって」

「本当?」

「多分、きっと」


 断言すると後々怖いからな。


「なんで言い切らないの?」

「責任を負うのが嫌なんだよ」

「そんなことしてると嫌われる」 

「そうだなぁ。それは困るな」


 適当な性格をしているが、人と人とのつながり自体は大切だと思う。あんまりこういう話を人としたことがないからこういうところで嫌われたことは無い……と思うが、少し気を付けた方が良いだろうか。


 しかし、実際に断言したとしてその約束を違えたりしたときの相手へのダメージや自分の心へのダメージを考えると、なかなかに難しい。


「でも、何かしら考えがあるなら良い」

「お前、心が読めるのか?」

「何のこと?」

「いや、何でもない。まあでも気を付けるようにするよ」

「気にしないで」


 気にしないでと言われてもな。人に何か言われたらちょっとは気になってしまうだろう。

 最初から敵対的な奴ならまだしも友好的な奴に嫌われたいとは思わない。まあ普通に接すればそこまで嫌われることはないんだけど。


「はぐ。……なかなかにこのパンは美味しい」


 小さい口に惣菜パンを口いっぱい頬張っている。なんかリスのように見えるな。


「……食べる?」

「いや、自分のがあるし良いよ」

「身体に悪そう」

「それ、真にも言われたな。そこまでか?」


 味自体は別に悪くない。匂いも臭いとかは無い。だって今日俺が朝作ってきたからな。こうも言われると少し気になってしまう。


「……なんかそんな感じがする」

「なんだそれ」

「私が作ってくる?」


 雪は惣菜パンを食べながらそう言う。

 いきなりこいつ何を言ってるんだ? 友達が居なかったからって距離感おかしいだろうに。


「いきなりどうした」

「だって寿命が縮みそう」

「というか作れるのか?」

「お母さんに教えて貰ってる。料理ぐらいは一人で作れるようになっておきなさいって。面倒臭いから作ってこなかったけど、風矢のために作る」

「いや作って貰えるんだったら嬉しいけど、何も返せるもの無いぞ?」


 労働には何かしらの対価が必要だ。そうでないと何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。


「別に良い。けどそれだったら、お昼ご飯に毎日誘って欲しい」

「それがお返しになるのか? というかそれなら何もして貰わなくてもする予定だけど」

「契約。強制力を持たせてみた」


 なるほど。弁当を作ってくるから絶対に誘えと。いやまあ女の子からの弁当を貰える対価としては非常に好条件だが、なんか段階飛ばしてない?


「オッケーそれで行こう」

「うん。がんばる」


 謎の契約を交わした俺たちは、少しの間食べるのに集中した。



 ◇



 食べ終わってトイレに行く途中、真に出会った。


「君たち、大概だね」

「なんだよそれ」

「本当に付き合ってないって良く言い張れるね」


 いやだって告白とかしてないんだよ? ただの友達だよ友達。


「見てたのか?」

「クラスに居た人達みんな君たちのことを見てたよ。ラブコメをやるにももう少し人目をはばかった方が良いんじゃないの?」

「ラブコメって言うなよ。それよりもお前の彼女はどうなんだ? お前もラブコメをやってるのか?」

「いや、それがさ滅茶苦茶可愛いんだよ。共学だから他の女の子に声をかけられていないかって心配しててさぁ。全然そんなこと無いよって言ったら安心した声で私は真のこと好きだからねって言ってきて本当にキュンとしちゃったよ。別の高校に行って少し悲しかったけどこれが聞けるんだったら全然プラスだよ。ああでも直接会うのも良いな。今週末にデートの約束をしようかな。ねえどうすれば良いと思う? 僕は……」

「ちょちょちょ、ストップストップ。彼女のことが好きなのは分かったから。デートでも何でも勝手に行けばいいだろ」


 こいつの恋人の話がこんなに地雷だとは思わなかった。触れない方がいい話もあるんだな。

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