24 誰がために君は動く?
電車に揺られること約一時間、ようやく目的地であるカラオケ店の目の前についた。
電車に乗っている最中に一応友達を連れて行く旨を理に伝えておき、許可をもらったのでトラブルに陥ることはないだろう。
というわけで、理に教えてもらった部屋へ強襲する。
「おいーっす、失礼する……ぞ……」
扉を開けると思いもよらぬ光景が広がっていた。
「失礼ですがその子どちら様で?」
「いや、ちょっと話したいことって言うのがこの子についてなんだよ」
「は……はじめまして……」
理に全く釣り合わないであろう、可愛らしい女の子が理の隣に座っていた。
まあ違うだろうが、一応聞いておかなければいけないであろうことを聞いておく。決して前の意趣返しではない。
「なんだ、彼女紹介か」
そう俺が言うと理の隣にいる少女は急に顔が真っ赤になり、少し嬉しそうな顔をして、理を見た。
「違う。そんなわけないだろ」
理がそう言って否定すると少女の顔の赤みは一気に引き少し悲しげな顔になりうつむく。
この子感情がコロコロ変わって目まぐるしいな。
「ふーん」
どっかで見たような反応を見せる少女に少し心が痛みながらも、気にせず理に疑いの目を向ける。
「ところで、その子は前言ってた例の子か?」
「そうだけど、まあ着いてきただけだから気にせず本題に入ってくれ」
「いや、そうも行かないだろ。ほら、やっぱり初対面の人には礼儀正しくしないとな。ええっと雪さんっていうんだっけ? 風矢の彼女さんであってるかな?」
「今はまだ、友達」
「雪さんや、含みを持たせないでくれ」
今更ながら連れてこなきゃよかったと後悔する。いや、十分想像の範疇内だから後悔もクソもないか。
「まあまあ、風矢君や、そこまで否定することもないだろう?」
「ブーメラン飛んでるぞ。というか早く本題に入ってくれ」
「ま、それもそうだな」
理は姿勢と表情を改めて真面目な雰囲気を醸し出しながら話し始める。
「話したいことって言うのが、この子……白井さんが、その、まぁなんだ、嫌がらせを受けている件についてなんだ」
「なるほど。具体的には?」
「クラスのグループチャットに入れてもらえなかったとか、女子の方にも招待されないとか、後、プリントが一人だけ配られないことがあるとか、そんな感じだな」
プリントが配られないのはともかく前者のやつは現代の高校生にとっては辛いな。かくいう俺もクラスのグループには入れさせてもらえていないわけだが。
「それで、どうしたいんだ?」
「クラスのグループの輪に溶け込めなくても良いから、嫌がらせとかの実害が出るやつはやめさせたい。今はこんなもので済んでるけど、これから先どうなるかわからないからな」
白井さんと呼ばれた少女は理の隣でコクコクと頷いている。こころなしか嬉しそうに微笑んでいる気がするが、まぁそれは……見なかったことにしよう。
「嫌がらせをやめさせたいと。じゃあそうだな、例えばどんな人が中心になってやってるんだ? 性別は? 性格は?」
「性別は基本的には女子だな。性格は割と明るい子。ただ、具体的に誰がやってるのかとかはわからない。そういうグループがやってるというのはわかるんだけどな」
「じゃあそのグループの中心人物は?」
「加担してるとは言いづらいな。プリントとかが配られていないときに積極的に持ってきてくれたりするから」
「でも、女子のグループにも入れないんだろ?」
「それは招待を送ってもキャンセルが直ぐされるとかいくらでも可能性は考えられるからな。優しいといっても自分の地位をわざわざ脅かすような真似はできないだろ」
理も理なりに色々調べたりしているようで、ある程度は敵の姿が見えているようだ。しかしその輪郭は分かっても表情がわからない。
埒が明かないな。少し別の視点から見てみるか。
「ちょっと話が変わるが、その嫌がらせを受けるようになったきっかけみたいなのはあるか?」
「きっかけって……白井さん、どうかな?」
白井さんはおずおずと話し出す。
「ええと、初めは私が暗いのもあって誰からも話しかけられないだけだったんです。だから皆の連絡先も知らないだけで、特にちょっかい出されることもなかったんですけど……。でも、そんなときに、砂押くんが私に話しかけてきてくれて。その……」
「えっと、白井さんだっけ? ありがとう。そこまでで大体わかった」
「そ、そうですか?」
決定的な一言を言う前に白井さんの言葉を遮ってやめさせる。彼女が言おうとしたその言葉は、あまりにも危うい。ここで理が使い物にならなくなったら、わざわざ時間を割いてここに来た意味がなくなる。そこまで理が弱いとも限らないが、白井さんの精神的な負担にもなりかねない。
「おい、風矢どうしたんだよ」
「このことは後で俺がお前に誤解のないように言うから少し待っていてくれ。それが多分白井さんのためにもなる」
「……分かった」
なんとか納得はしてくれたようだ。
だが、それにしてもこれでは、こんな理由では面倒くさい。理がきっかけとなってこうなっているのに、理に対して何も起きないなんて。これはつまり……。
いや、まだわからないな。そうじゃないかもしれない。九割そうであったとしても一割は違う可能性がある。それならば、その可能性を否定してはいけない。
また、理由というものも一つではないはずだ。単純な理由だけで人は動くほど簡単な世の中じゃない。なんとなくの可能性だってある。
まぁ、そんな馬鹿が入ることができるほど簡単な学校でもないのも確かだが。
「なあ白井さん」
「は、はい……」
「君はどうしたい?」
「えっと……それはさっき砂押くんが言ったとおりで……」
「それができれば嬉しいよな」
分からない訳ではないはずだ。現状を打開できそうな方法でなおかつ、一番持っている手札の中で簡単な方法。簡単というよりかは、分かりやすい方法と言ったところか。
「分からないわけじゃないだろ? 一番解決しそうな方法が」
「あの……何を言って……」
雪が俺の裾を引っ張り、そして耳打ちをする。
「風矢、それはひどい」
「そんなことは分かってる。でもな、解決する一歩手前でこれを持ち出されたらどうしようもないだろ」
「それは、そう」
どうなるかは分からないが、ハッピーエンドに向けての一歩を踏み出すためには必要なことであるはずだ。
「嫌……です。それは嫌なんです!」
急に大きな声を出して、白井さんは言葉を紡ぐ。
「やっとできた友達なんです! そう簡単に離したくはありません! ずっと夢見てたことだったんです!」
思ったよりも信念を曲げない強い人間なようだ。雪と似た、でもちょっと違うまた別ベクトルの怖さを持っているタイプの人間だ。
「だから、その選択はできません!」
「ありがとう。それが聞きたかったんだ。圧迫面接みたいなことをして済まない」
「あ、え、私……」
もともと、興奮して真っ赤だった白井さんの顔が更に赤くなる。自分の言ったことを思い出して恥ずかしくなっているようだ。
「まぁ、話を戻して理。というわけで、白井さんとやらはなかなかに覚悟を決めて、この問題に臨むらしいぞ。お前はどうだ?」
「いや、白井さん頭が沸騰しそうなくらい赤くなってるんだけど」
「どうだ。お前は誰のことを一番に考えて行動するんだ? 自分か? クラスか? 友達か? 白井さんか?」
「……この一ヶ月何のために行動してきたと思ってるんだ? そんなことお前に言われなくても分かってる」
理は一呼吸置いて、続けて言う。恥ずかしさとか、もうどうでもいいように。最大限にカッコつけて。
「白井さんだよ。当たり前だろ」




