23 イチャイチャする暇なんてない
おっひさー
最近忙しくて全然書けなかったしこれからも纏まった時間とれないけどちまちま書いていきたい
「雪、おかえり」
俺が選択したのは触れないことだった。自分が書いた手紙について言及したくないというのも一つの理由だが、もう一つ大きな理由がある。
「風矢、私ちゃんと保存してる」
雪はお茶といくつかのお菓子が入ったお盆を俺が座っている座布団の前にある机に置くと、ラノベ等がぎっしり詰まっている棚の不自然に空けられていたスペースから、透明なケースの中に大事そうに保管されている手紙を持ってきた。
そこまで大層に保管されているのを見たら触れられるわけがない。普通に怖いからな。
「大切にしてくれているようで何より」
「風矢、手紙ありがとう。学校じゃなくてここで言いたかった」
そういえば手紙のことは学校では一切触れられなかったな。あの場で喧嘩した時の保険程度にしか考えていなかったから今日見るまですっかりその存在を忘れていた。
「……どうしたの?」
「なんでもない。それで、これからは何をするんだ?」
この話をこのまま掘り下げられても困るので話を変える。
まぁそれとは関係なしに、成り行きというか約束だからここに来たものの、何をするとかしたいとか聞いていないので、これからの予定を聞きたいというのもある。
「ゲームをしたりとか、好きな本とかアニメとかについて話そうと思ってる。けど、その前に、姉さんと何話してたのか聞きたい」
ふむ、言いたくないな。いや、特に話して問題のある話でもないが、知らぬ間に雪の地雷を踏みそうなので怖い。それに、ある程度冬さんからの質問をはぐらかしたので、突っ込んだ話をされるとより地雷を踏み抜く確率が高くなる。
しかし、ここは素直に話すことにしよう。変に隠しても不信感が貯まるだけだ。
「雪とどうして仲良くなったのか少し話しただけだよ」
「本当にそれだけ? 姉さんから何か言われたりしなかった?」
「雪から聞いた昔話は冬さんからされたけど、それ以外は特に何も」
最後の一言は刺さる言葉ではあったが、話の流れ的にはなくても良い言葉なので省略する。
しかし、やっぱりわからないな。なんであの人は俺とあんな話をしたんだろう? 俺のことを知りたいのならばあまりにも遠回りしすぎているし、単なる世間話にしては最後の言葉は出てこないはず。
別に人は合理の塊ではないので、考えすぎかもしれないが、最後の言葉が出てくるあたり何かあるのではないかと、勘ぐってしまう自分がいる。自由連想法的な何かだろうか?
「本当に? 何か隠してない?」
「隠しても良いことなんてないだろ?」
「それなら良い」
雪は満足気に頷くとお菓子の山の中から一つ取り出し封を開ける。
棒状のクッキーにチョコレートが塗られたみんな大好きの例のお菓子だ。
「それじゃあ、ゲームしよ?」
雪はチョコレートがついていない方を咥えて顔を近づけてくる。
「いや、ポッ◯ーゲームはちょっと……」
どう考えても恋人同士がやるアレだった。
雪が距離感バグってるのは前からだが、より直接的に迫ってくるようになったな。可愛いからこういうことをやっても許されるが、これを別の奴がやったら普通に気持ち悪がられて、クラスに晒されて無事孤立するレベルのことだ。
俺が一向に咥えないのに痺れを切らしたのか、それとも冗談だったからなのかわからないが、クッキーの方からポリポリとリスのように、お菓子を食べる。
「一緒にゲームするって言った」
「だとしてもポ〇キーゲームは今日日聞かないしやらないぞ」
「今日日って言葉も今日日聞かない」
それはそう。
「で、本当は何をするんだ?」
「鉄道のゲーム」
「貧乏神が出てくるあの?」
「そう」
……人間関係破壊ゲームをやろうとするなんてこいつ何を考えているんだ?
「俺と仲悪くなりたいの?」
「このゲーム嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、嫌がらせをして乱闘騒ぎとかよくある話だろ?」
「よくある話じゃないし、高校生になってそんなことある訳ない」
「ご尤もで」
真面目にに返されてしまった。
それはさておきこんなクソどうでもいい話をしてる間に雪はゲームを始めるための準備をし終えていた。
「何年でやるんだ?」
「百年」
「いや、俺帰れないんだけど」
「冗談。二十年」
「六時間ぐらいかかるよね、それ」
「……それぐらい居てくれても良い」
その捨てられた子犬のような表情と、こちらに申し訳無さを感じさせるような、つい手を差し伸べてあげたくなるような声に頷きかけたが、冷静に考えるとここを出るのが九時近くなるので理性で押し止める。
「そんなに居たら家に親が帰ってくると思うんですけど」
「それは困る……けど……」
「まぁまた今度来るからさ、今日は短めで……」
「それなら百年やる」
「え?」
一瞬何を言ってるんだこいつと思った。が、雪の言いたいことはすぐに見当がついた。
つまるところ「また今度来るんだったら長いゲームやっても、続きからできるだろ」という至極当然な主張をしているのだろう。そりゃそうだ、一度にゲームを終わらせなければならない道理はない。
しかし、しかしだ。本当にこれに同意しても良いのだろうか? もちろん額面通りに受け取れば何も悪意がない。いや、多分額面通りに受け取らなくても悪意は含まれていないのだろうが、それによって何かが俺から奪われはしないだろうか?
……やめよう。結局はまた約束してここにくるのが面倒くさいという考えによって、ただただ思考を張り巡らせているに過ぎない。
そんな思考は自分を窮地に追い込むことに気づいているはずだ。ここで押し問答をしたとて、雪の悲しそうな顔をまたみることになるだろう。そうしたら次は折れてしまうかもしれない。無茶苦茶な要求を飲んでしまうかもしれない。
「わかった。じゃあそれで行こうか。まあ頃合いを見計らって帰るけど」
「うん、それで良い」
クソみたいな思考の末にあったのは雪の満足そうな顔だった。もしかしたら、これを狙って雪はごねていたのかもしれない。
とはいえ、女の子との予定が増えるというのは悪いことじゃない。そう思えばどうでも良くなってくるものだ。
そんなことを考えているうちに気がついたらコントローラーを握っておりゲームはスタートしていた。
◇
二時間ほどゲームを続けて現在の総資産額の差は数億程度となった。もちろん俺が負けている。雪のカード運の良さと、単純にプレイングがうまいことが合わさって、なんとか喰らいつけてはいるものの、着実に差をつけられている。
「あの……強くないですかね?」
「そんなことない」
そんなことあると思うんだけどなぁ。
というか最高難易度の某鉄人よりも遥かに強い気がするのは気の所為ではないはず。まぁゲームシステム的に優遇されているNPCキャラと正確に比較はできないが、割とそのぐらいの理不尽は感じる。
「電話、鳴ってる」
「え?」
携帯を確認すると確かに着信が来ていた。それも一ヶ月近く音信不通だった理からだ。
「すまん、ちょっと電話出る」
一応雪に断ってから通話ボタンを押す。
すると少し焦ったような様子の理の声が聞こえてきた。
「もしもし、風矢か? ちょっと話したいことがあるから前に集まったカラオケに来れるか?」
「一旦落ち着け。何があったんだ?」
「ちょっと電話だと話しにくいことなんだよ。多分お前も信じないだろうから一旦来てくれ」
「オーケーオーケー。とりあえずお前は来てほしいんだな。ただ、俺は今友達の家にいるからな。一時間以上行くのにかかるかもしれない」
「え、何、文夫の家に居んの? でもそこからでも一時間はかからないだろ」
「いや、そうじゃない」
「もしかして前言ってた……」
「と、そういうわけだ、少し待っていてくれ」
余計なことを言う前に電話を切る。
まったく、油断も隙もあったもんじゃないな。
「悪いちょっと用事ができて帰らなくちゃいけなくなった」
「どうしたの?」
「いやちょっと友達に呼び出されて」
「友達って誰? 都?」
雪の声が少し刺々しくなる。
「いや、違うけど」
「今一緒に居る私を放ってまでいくこと?」
「一ヶ月近く音信不通だった友達が電話かけてきたからな。行くほかない」
「じゃあ私も行く」
「え、いやそれは……」
困るというか、面倒くさくなるというか。あんまり雪のことを話したくないからさっきも電話を切ったのに合わせるのは少し気後れする。
「友達だったら問題ないはず」
「いや、でも……」
「友達を友達に会わせるのになにか問題ある?」
「分かったよ。一緒に行こう」
どうせ理のことだし話したいことと言っても大したことはないだろう。それに人に話す時点で他人に知られたくない話だというのも考えづらい。
そして、別に雪とあいつが会ったところで俺に何の不利益も生じない。
そう思い込むことにした。




