16 ターニングポイント
スマン、忙しくて全然書けなかった。
「わからない」
雪はそう言うとお弁当を食べる手を止めてこちらを見つめてきた。
「恋愛感情なのか、それとも親愛から来ているものなのか」
俺も知らないよ。
口からのでまかせに過ぎないからな。あくまでさっきの発言は遅延策として話したのに過ぎない。
しかし、雪も正直に考えてくれたものだ。
「さっきも言ったけど今すぐに結論を出す必要はないよ」
改めてどうにか長引かせることができないかチャレンジする。
「すぐに結論を出す必要はない? じゃあなんでそんな問題を私に話したの?」
「それは……雪に後悔して欲しくないからだよ」
「別に良い。私は後悔しても、風矢と一緒にいられるのならそれで」
一瞬ドキッとする。こんなこと今まで言われたことがない。
いや、駄目だ。よくわからないがこれはだめに決まっている。
そう思い込むことにする。
「まあまあ良いじゃないですか。私だって友達とずっとに一緒に居たいと思うこともありますし、わざわざ厳密に分けなくても問題ないですよ」
突然の前川の裏切りに困惑する。いや、別に前川が味方だったことはないか。
「いやいやそれは……」
「大体人からの好意から逃げ過ぎじゃないですか? 別に好きとか愛してるとか言ってくれるならありがとう、それで良いじゃないですか。どうしてそこまで頑なに認めようとしないんです?」
「都……」
人からの好意に逃げ過ぎ……か。
例えば人からの好意を認めた場合、何かしらのアクションをこちらからも取らなければいけない。
告白に置き換えるとわかりやすいだろう。誰かから告白された時、こちらが取れる選択肢は大まかに分けて二つである。
断るか、受け入れるかだ。
もちろん俺は責任を取ったり行動を阻害されたりするのが嫌なので受け入れることは少ないだろう。
だが、断ったあとの関係性はどうなるだろうか?
仲の良い人から告白された場合次に会うときに気まずくなるだろう。親密な関係になるほど余計にだ。これまで通りに接していくのはほぼ不可能だと言っても良い。
別に断ったあともう二度と関わらないから問題ないよ、となる場合なら良いのだがそうでない場合その告白イベント自体を回避しなければならない。
と、言うことを弟から学んだ。
異性からの好きという感情はそれほどに敏感にならなければいけないのなのだ。
鈍感系で生きられるほどこの世界は甘くはない。
だから、なんとしてでも雪からの好意を認めるわけにはいけないのだ。しかしあまり言い過ぎると友達としての雪との関係に亀裂が入る。
ああ、難しいなぁ。雪と友達でいるのは。
「俺は……」
「あ、もうこんな時間ですね。教室に戻らないと」
前川の言葉を聞いて時計を見る。時計の針は授業開始の三分前の時間を指していた。
あと少しで授業が始まることにほんの少し安堵する。授業の終わりまで返答のための言葉を考える時間が伸びた。
とりあえずはこの場を乗り切ることに成功したようだ。
「そうだ風谷さん、今日放課後空いてます? 話したいことがあるんですけど」
放課後? まあ良いか。
「どこに行けばいいんだ?」
「校門前にしましょー」
校門前か。割と目立つ気がするが、前川が良いのなら良いか。
「分かっ……」
っと言いかけたところで言葉を遮られた。
「なんでそんな事言うの?」
「雪ちゃん?」
「都、風矢は私のもの。誰にも渡さない。ねえ風矢私と放課後遊ぼ?」
え? いやいや俺は俺のものだ。誰のものでもない。というか一体雪はどうしたのだろうか?
「いや、別にそういうわけじゃないですよ? ちょっと私の家のことについて話そうと思っただけで」
そう言えば前川は塾を辞めることはできたのだろうか?
適当なことを言った自覚があるので十中八九失敗しているとは思うが、ちょっと気になる。
「家同士の付き合いなの?」
「いやいやそういうことではないですよ。ちょっと人生相談的なものを風谷さんにしただけです」
「それならもう解決したで終わらせて良いはず。なんで放課後にまで呼び出さなければいけないの?」
「雪、お前……」
「風矢は私の方を選ぶよね」
急にヤンデレモードに入ったんだけどどうしたこれ。
「ちょちょっと待って下さい。風谷さんには色々まだ言わなければいけないことがあるんですよ」
「私だってまだ言わなきゃいけない想いがある」
え、これどうしよう。どうやって収集つければ良いんだ?
「そんじゃ授業を始めるぞーってあれ? 痴話喧嘩か?」
どうしようかと思っていると担任がクラスに授業をするためやってきた。普段はクラスの悪ノリに付き合って人様にたくさん迷惑をかけている教師免許を剥奪されたほうが良いやつだが、今回ばかりは助かった。
「というか、俺のクラスのやつじゃない奴もいるし。早く戻ったほうが良いぞー」
「え、あ、授業に遅れる! それじゃあ校門の前で待ってますからね!」
前川が教室から飛び出す。
俺は、お弁当を食べるために動かしていた机をもとに戻し、何食わぬ顔で授業を受けようと準備をする。一応、前川が座っていた椅子を貸してくれた人に謝罪と感謝の言葉を言っておいた。
「青春だねぇ。俺もそんな高校生活を送りたかったよ。いや俺さ、高校男子校だからそういうことなくてさ……」
担任の聞いてるだけで悲しくなってくる自分語りが始まった。授業時間も削れて事態の収拾もついて一石二鳥だ。
隣を見ると雪がすごい顔でこちらを見ていたので見なかったことにする。
これからどうしよう。
◇
ホームルームが終わって放課後。授業の合間合間の休み時間をなんとかトイレに逃げ込むことで乗り切った俺は、校門の前に来ていた。
「あ、風谷さん。ちゃんと来てくれたんですね」
「まあな。流石にすっぽかすのはまずいだろ」
ホームルームが終わり雪に話しかけられる前に教室を飛び出して最速で校門まで来たので邪魔されることはなかった。
「なーんか大変なことになりましたねー」
校門を出て歩きながら話す。
「まあな」
「雪ちゃんの独占欲すごかったですね。愛されてますねぇ」
何が愛されてるだ。
「嬉しくはないよ」
「どうして嬉しくないんですか? 人からの愛情なんてなかなか貰えるものでもないのに」
「どうしてって言われてもな」
友達で居たいと言うのは簡単だ。しかしもしこの会話が他に漏れたら雪を傷つけてしまうことは確かだろう。それはできるだけ避けたい。
もし仮にこの先送りにしていることが雪を傷つけているとしても。
「嬉しくないと言うのは少し語弊があったな。実は戸惑ってるんだよ」
「戸惑う……ですか」
「ほら、俺中学の時に全然モテなかったから。急にこんな事言われても実感わかないというか、どうしたら良いのかわからなくて」
大抵の人は俺と同じ状況になった時、戸惑うだろう。現に俺もそうなのだから。
弟から聞いた話に雪みたいな女の子との付き合い方はなかった。というかまさか俺に独占欲的なものを働かせるとは想定外だった。
だからといって関わりを断つということは俺にはできない。それなりに一緒にいる時間もあった。短い時間でよくここまで仲を深めたと思う。
もう、雪のことを冷酷に切り捨てることは俺の心が耐えられない。
「そうなんですか? 風谷さんって初対面の人とも臆せず話せるぐらいコミュ力あるじゃないですか。結構モテそうな気がしますけどね」
「中学の時はこんなんじゃなかったからな。実際ほとんど異性と話すことなんてなかったし」
「コミュ障な風谷さんですか……。ちょっと想像できないですね。まぁでも確かに恋愛経験なさそうとは初対面のときに思いましたけど」
「別にコミュ障だった訳じゃないけどな」
暇じゃなかったからな。他人と話すよりもゲームしているときの楽しさのほうが勝っていた。ラノベを読んでゲームをプレイして、そんなこんなで日はすぐに暮れて他のことをする暇がなかった。
それに比べて今はどうだろう。
やることもなく毎日雪と話してばかりいて、家に帰ったらちょっと勉強して九十九のラノベレビューを書いて。それだけで。
忙しいは忙しかったが、課題に追われるだけの忙しさだったため隙間時間はいくらでもあった。それに、その忙しさすらも今はなくなってしまった。
「まあ歩きながら話すのもあれですし適当にファミレスとかにでも入りますか」
「分かったけど良いのか?」
「何がです?」
「いや、例の噂があるから一緒に店に入ったら困ることになるだろ」
それのせいで昼休みは怒っていたはずだ。
「噂? まああれは良いんですよ。さあさあ、一緒に行きましょー」
「まあ前川が良いんだったら良いけどさ」
上機嫌な前川に着いていき学校近くのファミレスに入る。
うちの学校の生徒はいないようだ。
店内で適当にドリンクバーなどを頼み、話の本題へと入る。
「で、どうだったんだ? 昨日の交渉は」
「あ、聞きます? 聞いちゃいます?」
「聞ちゃいますので早く言ってくれ」
「つれないですねぇ。もっと引き伸ばせましたよこれ」
そら、いちいち付き合ってたらいつまで経っても本題に入れないからな。ある程度のラインで区切りをつけなきゃいけない。
今回はそれがめちゃくちゃ早かったってだけの話だ。
「上手くいったのか?」
「もう、わかりましたよ。結論から言いますと、辞めることには成功しました。でも、三分の一以上の順位をキープしなければまた塾に逆戻りですね」
おお、あんな適当な作戦で上手くいったのか。人生何があるかわからないな。
「模試とかについてなにか言われなかったか?」
「特には言われてないですね」
模試での成績も考慮するとかだったら多少面倒くさい事になっていたが、それもないとなるとわりかし良さげなところに着地できたんじゃないか? 前川も上手くやったのものだ。
「それで、ものは相談なんですけど……勉強教えてくれません?」
「え、俺が? なんで? 友達とかに教えてもらえば……」
「良いじゃないですか。風谷さんがあの方法を提案したんですし最後まで責任とってくださいよ」
いや、あんな誰にでも考えつくような方法で成功して責任取れはないだろう。百人に相談したら百人が一度は言うだろあれ。親に自分のやりたいことを通すための常套句だぞ。
「そもそも俺あんまり勉強好きじゃないし」
「じゃあ二人で一緒に勉強しましょうよ」
「いや、だから友達と勉強すれば良いんじゃないか?」
「嫌ですよ。なんで友達に弱みを見せなきゃいけないんですか。ただでさえ今大変なことになってるのに」
なるほど人に弱みを見せたくない系の人ね。そんで一度弱みを見せた俺にはもう何を見せてもいいからこういうお願いをすると。そういうわけだ。
まあ俺もテスト勉強とかはしっかりとやらなければいけないとは思っているので別に嫌ではないが……ただなぁ。
女の子と勉強するってすごい緊張する気がするんだよな。単純に異性と一緒にいるだけで少し気を使わなければいけないのに二人でするとなると更に気を使わなければいけなくなる。
まともに勉強できるかどうか。
まぁ良いか。どうせ一人だけだったらそんなにやらないだろうし。気を使わなければいけないと言っても一人でやるよりかは捗るか。
「分かった。でもどこでやるんだ? 勉強するために集まれる場所なんてなかなかないだろ」
「そりゃ、私の家ですよ」
「本気で言ってる?」
「そりゃ本気ですよ。なんで嘘言う必要あるんですか」
いや、男を家に招き入れるなんてないだろ。しかも出会ってまだ2日だぞ。ないない。絶対にない。
「いや倫理的に色々問題が」
「でも他に場所ないですし。今どきどこもかしこも規制がひどいですからね。集まって勉強できるのは家ぐらいしかないですよ?」
いや言われればそうなんだけど。ああもう。なんでこの学校の生徒は妙に距離が近いんだろうか。雪然りこいつ然り、出会ってすぐ距離を詰めてこようとする。もっと時間をかけてこういう関係というものは深まっていくはずなのに調子が狂うな。
「……しょうがないからそこにしよう。でも俺、前川の家知らないぞ」
「まあ後で教えますよ。それよりも、せっかくファミレスに来たんですしなんか食べましょー」
「お金は?」
「風谷さんの奢りでお願いしますよ」
「前川お前……」
え、そんなに親しくない相手におごってもらおうとしてるの? こいつ相当図太い神経してるな。
まぁ俺のせいで色々迷惑かけてるっぽいから良いけどさ。
「はぁ……分かった奢るよ。色々迷惑かけてるし」
「え、本当ですか? いやー言ってみるものですねぇ。ありがとうございます」
前川は定員さんを呼ぶとそこそこの値段がしそうなパフェやらなんやらを頼んでいく。
「なかなか一人だと手を出しにくいものってありますよねぇ」
前川のテンションがすごい高い。やっぱり人の金で食べる飯ほど美味しいものはないからな。
「そうだな……」
俺のテンションはすごく低い。書いてるレビューのデータが吹っ飛んだときぐらい低い。
まじで財布が軽くなるな。どうしよう。
とりあえず星五つよろ。ブクマよろ。感想よろ。誤字報告よろ




