15 雪の想い
雪視点の話です。
無言でお弁当を食べる。目の前に座っている人のこともまともに見ることができない。見ると恥ずかしいから、心がドキドキするから。
言われた言葉を思い出す。
――親愛の愛と恋愛の愛を混同してはいけない。
感情を分析することに私は慣れていない。その必要がなかったから。人と関わってなかったから感情が動くということがなかった。
ずっと独りだった。小学五年生の頃にはもう一人で読書をしていたと思う。 それを寂しいとか、辛いとかは思っていなかった。多分一人で何かをすると言う適性があったのだと思う。
何故そうなったのか。きっかけは何だったのか。今となっては確かではないが十中八九ライトノベルのせいだと思う。
当時、ライトノベルを読んでいた人は少なくはなかった。ただ……読んでいる本が全く合わなかった。みんなが読んで居た本は基本的には全て読んでいたし、追ってもいた。ただ……学校では読んでいなかった。
話しかけてくる人も居た。しかし私の読んでいる本は知らないという。小学生のお小遣いというものは少ないものだ。だから私が読んでいる本を買って読む人は少なかった。私は両親がよく図書カードを貰ってくるのでそれで買っていた。
何はともあれ私はそもそも人と話すことが得意ではなかったため、だんだんと人もつかなくなったのだろう。
ああでも、若干一名ずっと話しかけてきた人もいた気がする。あれはなんだったんだろう。
まあいいや。中学に入ってからそれは一層激化した。入学当初はクラスメイト達も話しかけてきてくれたけど、みんなライトノベルなんて読んでいなかったので誰も話しかけてこなくなった。
その時のことを思い出すだけでもイライラしてくる。私の読んでいる本を指して「何これー」ってあざ笑うかのように言ってくるのだ。関わらないだけなら良い。小学校の頃と何も変わらないから。でも笑うのは違うと思う。
でも私にそれをどうにか出来る力もなかったし、どうにかするのも面倒臭かった。
そしてそれから人と喋ることが殆どなくなった。
姉、親、教師に授業中指されたとき以外は声を出すこともあまりなかった。意地を張っていたのか、クラスメイトに何か話しかけられた時も必要な時以外は聞こえていないふりをした。
そしてそんな状況が中学卒業まで続いた。辛くはなかった。自分が好きなことをする時間が沢山あったから。でも……心の片隅には人と何かを共有したかったという気持ちがあった……と思う。
断言はしない。その時の気持ちを今思い返してみてもあまり定かではないからだ。殆ど考えることをせずに生きてきた。ただ本を読んで、ただゲームをプレイしてそれらを楽しんで。でもそれだけ。それだけで人間関係に悩むとか特定の誰かが嫌いだとか好きとか、何か強い感情を抱くことはなかった。あるのは読書したときやゲームをプレイしたときに抱いた感動だけ。
それが悪いことだとは今でも思わない。ただ、現実世界のことを考えていなかったので、あのときこんな本を読んでいたなぁ位の記憶しかない。
だけど。だけどそれら全てが高校に入ってから変わった。
私の心を動かす人、私の頭を埋める人、私の生活の一部になった人。そう、風矢が変えた。
私が風矢に初めて話しかけられた時、私は無視をした。だって今までそうしていたから。そうやって今まで生きてきたから。
ただ、その話しかけてくる姿は滑稽だった。コロコロキャラを変えて、ギャグじゃないかと思うぐらい口調もテンションもそして雰囲気も変化させていった。
馬鹿だと思った。そして私とは違う人だと思った。だって初対面にあった人にそんなことができるなんて、普通じゃない。社交性の化け物だ。
でも、それでも話そうとは思わなかった。あのときのことが脳裏をよぎったのだ。入学当初のあの言葉を。
人と話してもイライラするだけ。そんな考えをあの一件で抱いていた。どうせ分からない。どうせ理解されない。
そう、思っていた。
でも違った。彼は風矢は私の読んでいる本を知っていた。私の趣味を理解してくれた。
優しかった。底なしに受け止めてくれた。この人なら全てを受け止めてくれると思った。理解をしてくれると思った。
だから踏み込めた。だから話そうと思った。実際大体のことは聞いてくれたし受け止めてくれた。私のわがままにも怒らなかった。
お弁当を作ると言ったときも断られると思っていた。でも断られなかった。それどころかお昼ご飯をずっと一緒に食べるということまでオーケーしてくれた。
分からなかった。何故そこまで私を受け入れるのかを。私のせいで風矢は孤立していくのに、友達を作れないのに。私から離れず一緒に居てくれた。
風矢なら私が居なければ簡単に友達を作れたはずなのだ。それなのに。分からなかった。
でも私は風矢から離れる気はなかった。風矢が辛いとしても、苦しんでいるのだとしても私に風矢から離れるという選択肢はなかった。
風矢の居ない生活は考えられなかった。風矢と話し、読んだ本の感想を共有し、そして笑い合う。実に心地よかった。風矢に姉の愚痴を言い慰めて……いやアレは慰められていたのか? まあでも人に愚痴を言うなんてしたことが無かったから言うだけで気分が晴れた。
風矢は強いところだけでなく弱みも私に見せてくれた。いや見せてくれたからこそ話しやすかった。守ってあげなければいけない。助けてあげなければいけないと言う思いが私に芽生えた。だから対等に話すことが出来た。
私の弱いところを風矢が補い、そして風矢が見せた弱みを私が補う。私の中ではそんな図式が思い浮かんだ。
実際にどうだったのかはわからない。でも、私はそのつもりで風矢と話していた。
風矢との交流の全てが楽しかった。嬉しかった。珍しかった。そんなことを思っていたからだろうか。いつしか独占欲のようなものが私に生まれた。
風矢ともっと話していたい。風矢が人と話しているのが嫌だ。風矢に私を見ていて欲しい。
そう思っていたから休み時間の度に風矢に話しかけていた。私以外の人と話す時間がないから友達も出来ない。結果私と話す時間が増える。そうやって私は満たされていく。
私のせいで風矢が孤立するとさっき言ったけどむしろ積極的に風矢を孤立させていった節もあった。
しかし風矢にはまだ私の他にこの学校での友達が居た。真である。真は、実にキラキラしていた。私とは別の生物のように見えた。風矢とはまた違う方向性で社交性が高く真はあっという間に学校内のヒエラルキーの頂点に立った。
邪魔だった。私が風矢と話す時間を真が奪う可能性があったから。でも、風矢は私のことを優先してくれた。真も私が現れると、すぐに場所を移動してくれた。私が風矢と話しているときに話に入ってくることもあったが、その回数は多くなかったため気にとめる程でも無かった。
私は少しだけ真に気を許した。漫画を書いているらしく私を苛つかせることがないから。でも積極的に話しかけようとは思わなかった。それは真に風矢をとられたくなかったから。風矢と話している時間を減らしたくなかったから。
風矢の全てを手に入れることができなかった。しかしそこまで独占することは不可能だと頭では分かっていたのでその状態に満足して生活をしていた。
でも、ある日というか数日前風矢の口から私と真以外の人の名前が出た。しかも女の子。とられるんじゃないかと思った。風矢がその子のことが好きで恋人にでもなりたいのかと思った。
しかし違った。でも何故かその子の情報を集めたがっていた。
その子は小学校時代のクラスメイトだった。
風矢が何をしたいのか分からなかった。何故情報を集めたがっているのかも分からなかった。
しかし私はそのときすでに風矢が私以外の誰かのことを考えることすら不快に感じていた。
そしてそのすぐ後風矢がその子とはまた別の女の子と恋人関係になっているという情報を知った。風矢は違うと言っていたが、本当の所は分からなかった。
そしてその噂相手の都と言う少女がついさっきこのクラスに現れた。その子は凄い可愛かった。そして賑やかでそれでいて風矢を翻弄していた。あんな風矢を見たことがなかった。
私は頭がおかしくなりそうだった。風矢がとられる。そのことで頭がいっぱいだった。見ているのが辛かった。嫌だった。
でもそれも都の一言で変わった。
――恋人じゃないんですか?
端から見たら私たちは恋人なのか。そう思うと嬉しさと幸せがこみ上げてきた。恋人に見える程仲が良いということは風矢から好かれていると言うことで、そしてそれは風矢の心の中の多くを占めていると言うことにつながるから。
本当に恋人になりたいと思った。だからあんなことも言った。
でも風矢はそうは思っていないようだった。
――いやいや、違う。恋人じゃないぞ友達だ。恋人な訳がない。
私はいつからか恋人になりたいと思っていた。でも風矢はあくまで友達として付き合いたいようだった。そのギャップに私は悲しくなった。
でもその悲しがっている姿を風矢に見せると風矢はすぐに優しく声をかけてくれた。やっぱり風矢は優しいのだ。
その姿をみて私の独占欲は最大限にまで高まった。風矢のことが愛おしくなった。欲しくなった。
だから私は聞いたのだ。私のことが好きなのかと。愛しているのかと。風矢はどちらも肯定してくれた。
それなのにあの言葉だ。
友達に対する独占欲と恋愛感情。私にはその違いが分からない。その感情の違いが分からない。同質ではないのか? 異性との友情の延長上に恋愛感情があるのではないか? 本質的には同じものなのではないか。
分からない。人と関わってこなかったから分からない。
気付いたらお弁当はなくなっていた。そろそろ答えを出さなければならないのだろうか?
答えなんてない。分からない。
どうしたら良いの? 風矢。
このまま進んでったら雪ちゃんヤンデレ化しちゃうよ。主人公君どうにかしてくれぇ。
とりあえず星五つよろ。ブクマよろ。感想よろ。誤字報告よろ




