13 青春っぽい
めっちゃやる気が出なくて時間かかりますた。
謎の女の子との邂逅から時間が経って翌日。誰からの連絡も来ないまま考え続けていた俺は寝不足のまま登校する。
ぶっちゃけもう何もかも放棄して好きに生きていきたいという気持ちもあるが、退屈は人を殺す。直近でやることがない俺は人生を彩るためになんとかやる気をキープする。
学校の下駄箱で外履きから上履きに履き替え、廊下を歩くと何やら同学年らしき人達の目線を感じる。
三月の言ったとおり学校内での有名人だから見られているのだろうか? それにしてはいささか冷ややかな目というか、敵意を感じなくもない。明らかに好奇の目や珍しいモノを見る目ではない。
とはいえ殴ったりしてこなければ問題はない。何があったのかは分からないが放っておくのがベストだろう。何より俺の勘違いの可能性もあるし。
教室に入ると一瞬皆からの視線を感じた後、すぐにその視線は俺から離れていった。やっぱり気のせいだったか。
「おはよう。眠そう……?」
いつも通り雪が少しだるそうな声で話す。後々こいつにも迷惑をかけるかも知れないことを考えると少し気が重いが、いつも通り言葉を返す。
「おっすおっす。少し寝るのが遅くなってな」
「睡眠時間は大切」
「そう言えば雪はいつも何時ぐらいに寝てるんだ?」
いつも三時ぐらいまで起きてネトゲやってそうなイメージがあるが朝遠いところから学校に来ているのを考えると、割と早く寝ているのだろうか?
「うーん。一時ぐらい?」
「え、それで何時に起きてるんだ? 朝早いだろ」
「五時とか?」
四時間睡眠って結構厳しくないか? 大体平均して七時間ぐらいの睡眠をとった方が良いって聞くし、相当なショートスリーパーでないと体調を崩しかねない。
「え、眠くないのか?」
「平気」
確かにこいつが授業中寝ている所を見たことはない。何とも羨ましい限りだ。
「でも、あまり寝ないから背が大きくならない」
「それは……そうだな」
「ないすぼでーになりたい」
「それは寝てても厳しいんじゃないか……って痛い痛い」
ポカポカと雪が俺を殴ってくる。全面的に俺が悪い。
「言ってはいけないこと。言って良いことと悪いことがある」
「ごめんって。でも俺はそのままでの方が良いと思う」
「ないすぼでーよりも?」
「うん」
頷き肯定する。
別に俺はないすぼでーが嫌いだとか、小柄な凹凸のない子が好きとかではない。この見た目になれているので急に変わられても困惑するというだけの話だ。
「そう……ありがとう」
「何故にありがとう」
「言いたくなっただけ。あまり気にするものじゃない」
気にするものじゃないといわれてもな。別にありがとうといわれることでもなかったしな。
まあ気にするなと言うのであればそれ以上は聞かないけど。
「話は戻るけど、一時まで何をしてるんだ?」
「ラノベ読んだり、ゲームしたりしてる」
「勉強とかはしないので?」
「課題とかはやる」
うちの学校は学習進度はそこそこというか結構早い。そのためサボっていると学校の進度に追いつかないということが発生するらしい。課題とかはやるとのことだがこの学校の課題は多くはないし、大半は学習に関係ないことだったりするので殆ど勉強していないことになる。
「それでよく追いつけるな」
雪が学校の授業で特段困っている様子はない。よくそんな状況でついて行けるものだ。
「朝学校来るときに一応やってる」
「あ、家遠いもんな」
なるほど、通学時間を有効活用しているのか。二時間ぐらい通学にかかるとしてその時間を全部勉強時間に充てられるのであればなかなかに予習復習が出来る。
「風矢はどうなの?」
「どうって?」
「普段の生活」
普段の生活か。なんだろ、最近はゲームもあんまりしてないし、ラノベとかも読んでない。勉強なんて課題以外は勿論していないし。強いて言うなら……。
「考えごとばっかりしてるな」
「勉強は?」
「してない」
中学の時塾に入ってたけど結構先の方まで勉強してたからな。多分一学期までだったら、勉強しなくてもなんとかついて行けると思う。そう思いたい。
「した方が良い。赤点なんてとって補習とかになったら面倒」
「そりゃそうだな。必要になったら勉強を教えてくれ」
「分かった」
友達と一緒に勉強をするというのは俺の高校に入ってやってみたいことランキングの上位に位置することである。塾の自習室で缶詰にされていたからね。友達と一緒に勉強する機会などそうそうなかった。
「でも私も分からないところがあったら教えて」
「教えられることならな」
ああなんだろう。友達は少ないがこういう会話をしていると青春をしている感覚になる。 求めていたのはあいつらとの互いに罵り合い不毛な争いではなかった。
これだったのだ。このたわいもない会話こそが……
「風矢、大変だ! 風矢の写真が学校のグループに」
登校してきたらしき真が大慌てでこちらに駆け寄ってきた
写真って。え、なんで?
◇
あらかたの事情は分かった。どうやら昨日のよく分からん一般美少女と話している時を写真に撮られていたらしい。で、それを浮気だーって誰かが一年生のグループに流したらしく今日の登校してきた時みたいな事態になったようだ。
そっかーみんなに浮気者って嫌われてるのかー。二股かけてると思われてるのかー。
……いやみんな馬鹿なの? そもそも俺は雪と付き合ってないし、あの女の子だってお悩み相談会をしたまでだ。それ以上でもそれ以下の関係ではない。大体昨日の女の子に聞けば一発で分かることを何故そうやってすぐに信じるのかがさっぱり分からない。
全くこの学校の生徒は情報に対してのファクトチェックをもう少し行った方が良いんじゃないか?
「風矢は本当にあの女の子と付き合っていないんだね?」
「ああそうだよ。大体俺は出会ったばっかの女の子を口説く程のスキルを持ってない」
友達ぐらいなら頑張って持って行けるがそれ以上は不可能だ。
「まあ女の子の感情の機微を見抜けない君にはそうだろうね」
「何だそれ」
「もう少し精進した方が良いって話さ」
え、マジで俺なんかした? まあ確かに異性の感情など分かったものではないが、さほど悪い対応はとってないと思う。とは言っても雪と名も知らぬ女の子ぐらいとしか異性と最近話していないけど。
「まあそれは良いよ。それよりもどうして昨日の夜あの子と一緒にいたんだい? 君の言い分だと恋人どころか友達でも知り合いでもないようだけど」
「ランニングしてたら公園見つけて、それでベンチに座ったら隣に同じ高校の生徒がいたから話しかけだだけだ」
ここら辺深く突っ込むとちょっと困ることになりそうだからぼかしておく。
「君は変なところで社交性を発揮するねぇ」
「俺だって最初は話しかけるつもりじゃなかったんだよ。制服に見覚えがあったから思わず高校の名前を言ったら向こうが反応したんだ」
アレに関しては別に狙った訳でもなく本当に偶然だった。まさか同じ高校の奴が近くに住んでいるとは思わないじゃないか。
そういえば……あの子あの後どうなったんだろう? 話し合いに成功したのか、それとも失敗したのか。ちょっと気になるな。
「よくその後話せる」
ずっと無言だった雪が口を開く。
「まあ最低限話せないと厳しいからな」
「何が?」
「学校生活を円滑に過ごすことだよ」
とりあえずはどんな人とでも話せるようになっていた方が得……というかその方が変に思われずに済む。
現状はそれ以前の問題で円滑に過ごすことは出来ていないけどな。
「普通に学校生活を送るって難しい」
「まあでもやりたい人はやれば良いしやりたくない人はやらなくて良いことだからな。雪が生きたいように生きれば良い」
「そうなの? じゃあ面倒臭いしやらない」
あんまり人に生き方を強要するものでもない。好きなように生きれば良いさ。ただ、みんな好きなように生きているから良いカモにならないように注意して生活した方が良いけどな。
「……君はすぐそうやって格好いいことを言うね。言ってて恥ずかしくない?」
真が俺の心を的確にえぐってくる。
そりゃ常に格好付けた言葉で格好付けて喋っていて恥ずかしくない訳がない。
「ちょっとだけな」
そう、ちょっとだけだ。そう思えば気が楽になる。と思う。
「ちょっとは恥ずかしいんだ。じゃあ話を戻してこれからどうするの?」
「放っとけば良くないか? 人の噂も七十五日って言うしそのうち消えるだろ」
現状学校生活が終わっているので、これ以上悪くなったとてそうそう違いなどありはしない。強いて言うなら、三月に対してのアプローチに支障が出るだけだが、早急に解決しようと思っている問題ではないので、とりあえずは置いておいて良いと思う。
「自分のことなのに良くそんな気楽に居られるね」
自分のこと。自分のことだからこそどうでも良い。放っておいても実害が出るのは自分だけである。どうせ俺が二股かけていると思われて女の子は被害者でちやほやされるのだ。 実害も俺に対して誰も何も言ってこない以上何もない。
誰も何も不利益を被らない。
だからどうでも良い。
「辛くなったら相談するさ。俺は人におんぶに抱っこで生きているからな」
「その時は相談に乗る」
「まあ僕もできる限りはね」
おお、なんか青春っぽいぞこれ。
とりあえず星五つよろ。ブクマよろ。感想よろ。誤字報告よろ




