Mという男
メールの返信は早かった。
全てを見通すつもりではないが こいつの目的は何となく分かる
考えたくもない嫌な思考が頭の中をぐるぐると巡りやがる そしてしばらくすると目の前に一台の車が止まる
「さあさあ、”お姉さん”入ってくださいよ?」
すこし空いた窓から、声が聞こえる。
俺はドアを開けると、怒りを隠そうともせずに、強くドアを締めた。
目の前にいたのは、なんというか…
ヒッピー、或いはラッパー…
それもかなり本格的な奴だ。
日本人という感じはしない。
ハーフか在日、それも二世だろうか。
発音は日本人そのものだからだ。
「イェーイ…待ちくたびれたよ」
そう言ってこちらに缶ジュースを投げる。
「モンスター?」
「ああ、そうさ、モンスターだ、俺たちハッカーはモンスターが燃料みたいなもんだ、違うか?」
それは違いない、しかし、もっと間違いないことは
目の前の男に、私の秘密が全てバレているということだ。
「協力はしないから」
「おいおい、まだ何も言ってないぞ?」
「ジュースごちそうさま、丁度排水口にジュースを流してみたかったから…」
そう言って、出ようとする私を男が止める。
「おいおい待ってくれよ、どうだ、ドライブしないか?これはいい車だぞ、マニュアルだ、少しでかいが、日本で最も優れた車はこれに間違いない。」
「そうね、いい”中古車”だとおもう。
…盗難車ね、どこでこれを盗んだの?あんたカタギじゃないね。」
「うーん、バレないと思ったが、いや、でもちょっと待て、俺はカタギさ、捕まったことはないし、お天道様に堂々と体を晒せる」
そう言いながら、大げさなジェスチャーをしている。気をそらすつもりらしい、そう、分かってはいたが、抗うことは出来なかった。
ガックン…!と下手くそな発進とともにハイエースが走り出してしまった。
まるで今まで読んできた同人誌のようだけど、違うのは私は助手席に乗ってることだろうか。
「”美人”に嫌われるのは苦手でね」
そう言って男、おそらくこいつがメールをよこしてきたMだろう。
Mはジョークでも言うように話しかける。
「要件を言ってくれない、警察呼ぶわよ」
「警察!いいねえ、警察はいつでも市民を助けてくれる、最高のヒーローだ」
私は無言でスマートフォンを取り出す。
「カメラにテープ、セキュリティーの基本だ、良い機種とメーカーだな、そのSoCは信頼できる。信頼するしかないというべきか」
「反社には付き合わない」
「だから、違うって!俺は潔白さ、ただ、ちょっとマズイことになってんの。」
その言葉は迫真だった。マズイことになってる…?気になる言葉だった。
「もうすぐ意味がわかるはずだ、頼む、少しだけ付き合ってくれ。元天才少女さん」
「協力するとは言ってないんだけど…」
Mと名乗る男の、豪快な雰囲気に、完全に呑まれてしまった私は弱々しく返事をするしか無くなっていた。