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闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-  作者: 山口遊子


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第98話 『三匹の侍』


『万夫不当』の連中を成敗せいばいしたあと、もうすることが無くなってしまった。今回の20階層チャレンジでだいぶ貯まったモンスターの死骸をダンジョン前の買い取り所に持っていってもいいのだが、べつに金がそこまで必要でもないし、今となっては商業ギルドの口座の中にうなるようにある。


『それで、これからどうする?』


「もう、あまりすることもなくなってしまいましたね」


「王都にでも行ってみますか?」


『いきなり、王都?』


「王都といっても別に何があるわけではありませんが、さっきみたいな連中がいればそれなりに楽しめそうですから」


 アズランもトルシェに毒されたのか?


『もうここじゃあ、俺たちに(から)んでくるようなヤツもいなさそうだしな』


 俺も、トルシェに毒されたのかもしれない。


『王都というのはどのあたりにあるんだ?』


「この迷宮都市から北へ馬車で二週間ほどかかります」


『馬車となると、乗り合いになるんだろ? それだとちょっとまずいかもしれないな』


「それならいっそ馬車と馬でも買ってしまいますか」


『それは良さそうだが、馬の面倒を見る者がいないんじゃないか?』


「そうでした。アズランは御者ぎょしゃできる?」


「全くダメです」


『だよな』


 そんな話をしながらあてどなくぶらぶらと通りを三人で歩いていると、(かね)を打ち鳴らす音が聞こえてきた。最初は一カ所から聞こえて来た鐘の音が、そのうち街中のいろいろなところから聞こえてきた。


『何かあったのか?』


「わたしも初めてですが、何だか大変なことが起きてるのかもしれません」


「そういえば、これと同じ感じで鐘がならされたのを聞いたことがあります。その時は、戦争中の敵軍が急に街の外壁近くに現れた時でした」


 道行く連中が急に血相を変えて走り回り始めた。


『いまこの国はどっかと戦争でもしているのか?』


「いえ、そんなことはないと思います」


『それじゃあ、なんだろうな? 地震でも来るのか?』


「地震がいつ来るかなんてわからないもので鐘は鳴らさないと思います」


 それはそうか。


「そこらで走ってる人に聞いてみます」


『頼む』


 トルシェが通りを血相変えて走っている男を呼び止め、何があったのか聞いている。騒ぎの最中だが、ちゃんと質問には答えてくれたようだ。美人に優しいのはどこの国でも同じようだ。


『何だって?』


「はっきり分かりませんが、さっきの人の話では、モンスターの大群が南の方向から街に迫っているらしいです」


『モンスターはダンジョンから出てくるものなのか?』


「いえ、出て来たのはおとぎ話の中だけで、普通は出てこないと思います」


「私もそのおとぎ話は知っています。魔王の軍勢が押し寄せて来たお話でした。それを、ウマール・ハルジットやビスマ、ボルマン、タセって伝説の人たちが協力してたおしたって話です」


『あの連中か、ボルマンってのはこの前いたっけ?』


「ボルマンのなにそれというアイテムはまだ手に入れていませんが、ボルマンは伝説の剣士です」


『そうなんだ。で、今回も魔王の軍勢とかいう()めた連中だったらどうする?』


「やっつけちゃいますか? それとも、魔王の軍勢に味方して、この街を潰しちゃいますか? どっちでも面白そうです」


『街が無くなっちゃうと、不便になるかもしれないけれど、魔王に味方したら何かいいものをもらえるかもしれないからな。様子をみて考えよう。まあ、魔王なんかいなくてただのモンスターの大群かもしれないけどな』


「魔王がいたらうれしいですよね。それで魔王がふざけたヤツなら叩き潰せばいいだけですしね」


『魔王っていうくらいなんだから、そんなに弱くはないんだろ?』


「意外と、弱っちいかもしれませんよ、この街の冒険者程度だったり、キャハハ」


 もはや、トルシェには恐れるものなどないようだ。自信の現れなのか何なのか。


『とにかく俺たちは街の南に急いで行ってみよう』


「はーい」「はい」



 通りを走っている連中とはほぼ反対側に向かって俺たちは進んでいく。


 見えて来た街の南の外壁は、思ったほど高くはなく、せいぜい3メートルほどのほどの石組みの外壁だった。厚さは分からないが、外壁の上に人が何人も立っているところを見ると、ある程度の厚さはあるのだろう。


 壁の内側には、4、50メートルおきに石の階段が取り付けてあるので登るのは簡単だ。俺たちも、すぐに外壁の上に登って街の外の様子を確認する。


「いますねー」


「どこからこんなにいたのかな?」


『もう数などわからないな』


 外壁の外は、田園地帯(でんえんちたい)が広がって、ところどころに農家と思われる集落(しゅうらく)がある。そして1キロほど先にはモンスターの大群が畑を、集落を飲み込みながらこの迷宮都市に砂煙(すなけむり)を上げて迫っていた。


『アズラン、魔王っぽいのは見えるか?』


「うーん、ちょっとわかりませんが、そもそも魔王ってどんな格好をしてるんですか?」


『俺は知らん、トルシェは知ってるか?』


「もちろん知りません」


『それはそうだ。ところで、街の連中はこれからどうするのかな?』


「さあ、みんな北の方に走ってたから、逃げるのかな?」


「戦えませんよね、軍隊がいる訳じゃないし」


『ここって、守備隊みたいなのはいないのか?』


「いることはいるんでしょうが、逃げちゃったんじゃないかな」


『命あっての物種ものだねだしな。魔王さまもいないなら味方するわけにもいかないし、ちゃっちゃとモンスターを片付けてしまうか? だけど、あの数だ。手間は手間だな』


「そうだ、こういった時のためのリンガレングじゃないですか」


『そういえばそうだった。ただ、リンガレングを使うとモンスターが跡形もなく消えちゃいそうだが、俺たちが一々モンスターの相手をするのも面倒だから、仕方ないか』


 俺たちが外壁の上で話をしているあいだにも、壁の上にいた連中がだんだん減っていって、気が付いたら俺たちだけになっていた。だーれも街を守る気はないらしい。普通はそうだ。だが、ここに『三匹のさむらい』がいる。守ってやろうじゃないか、この街を。


 と、一人で盛り上がっていると、案の定、考えていたことが漏れてたようで、


「ダークンさん、『さむらい』って何なんですか?」


『俺たちみたいに、カッコいい「騎士」みたいなもんだ』


「なるほど、『三匹の侍』か、それもいいですねー」




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