第90話 『大迷宮』19階層、バジリスク
俺たちは、妖精たちの18階層から、階段を下って19階層に下り立ち、気を引き締めた。
「ダークンさん。少しいいですか?」
『どうした、アズラン?』
「上の階で、無理に笑おうとして、顔を動かしていたら、元の顔がどうだったかわかんなくなったんで、今からいろいろ顔の感じを変えてみますから元の顔になったら教えてください」
『アズラン、心配しなくても今の顔は、いつものおまえの顔だぞ』
「あれ、そうでしたか。よかったー。ああみえても、やはりいつもの顔に愛着があったようで、顔が変わっちゃうと少し寂しいかなーと」
アズランを元気づけようとしているのか、フェアがアズランの周りでくるくる回っている。
「アズラン、顔なんてついてりゃいいだけじゃない」
また極端なヤツがいたよ。
『人それぞれ、愛着があるヤツもいれば、ないやつもいるだろ。そういうトルシェだって今の見た目が気に入って進化しないんじゃなかったか?』
「顔と体は違うんです!」
『それも人それぞれ。だろ?』
「そう言われればそうでした。こんどはわたしも進化しようかな」
『トルシェは進化できるんだから進化した方がいいと思うぞ』
「それじゃあ、今度『進化の祭壇』に行ったら進化しよーっと」
『そうしろ、そうしろ。それじゃ、先に進もうか』
いつも通り、アズランを先頭に俺たちは進んでいる。フェアはアズランの周りを飛び回っている。
ダンジョンといっても、次から次にモンスターが出てくるわけではないようで、だいたいにおいて、散歩と大して変わらない状況になってくる。
そうすると何が起きるかというと、
目の前では、一人の舞踏家が、頭の周りに妖精をくるくると回らせながら華麗に舞い踊り、後ろの方では、なにかの放電か、通路がときおり明るくなっては、バシーン! とか、ブーーーンとか訳の分からない音がするわけだ。俺は臭いがわからいのではっきり言えないが、おそらくオゾンのようなものが発生して異臭がしているんだろうと思う。
それでも、途中何事もなく、20階層への階段前にたどり着いた。
階段の前にいたのは、大きなトカゲだった。頭から尻尾までの長さは5メールほど。見ると足が六本ついている。久々に見る本格的モンスターだ。
そいつも俺たちに気づいているようだが、階段の前を離れずじっとしており目を閉じているように見える。
かなり近づくまでアズランも気付けなかったところを見るとそれなりのモンスターなのだろう。
『ダークンさん! あいつはヤヴァいヤツですよ』
『なんだ?』
『初めて見ましたが、あれはおそらく伝説の「バジリスク」です』
『ダークンさん私も「バジリスク」なら聞いたことがあります。六本足で、胸の上あたりに「M」形の模様が見えるそうです。威嚇するとき首を持ち上げるのでその時見えるそうです。あと、「バジリスク」の息を吸い込むと石になるとか』
『アズラン、「バジリスク」の息を吸いこむと猛毒だから即死するのと、目を見つめると石になっちゃうのを混同してるよ』
『そうだっけ、ずいぶん昔に聞いた話だったから間違えちゃったかな』
『いずれにせよヤヴァいヤツだということは分かった。毒の息は俺には通用しないから問題ないが、見つめると石になるというのが問題だな』
『ダークンさんは最初から黒曜石なんだから大丈夫じゃないですか?』
『そういえば、そうだった。そしたら、そこの「バジリスク」なんぞチョロいんじゃないか? そもそも、ここからトルシェが黒いムチやら頭の中のファイヤー・ボールなりで一撃でたおせないのか? あと、モス地雷に仕立てて自爆させるとか』
『どうでしょう。強いモンスターは魔法耐性があるので一撃ではたおせない可能性が有ります』
『いうほど簡単じゃないってことか。それじゃあ、トルシェが「ファイヤー・ボール」のデカいのを正面から撃ち込んでくれ。その後から俺が突っ込んでいく。視線を俺に向けさせるから、アズランは、死角から「断罪の意思」の防御無視攻撃をヤツの首の付け根辺りに叩きこんでくれ』
『了解!』『了解!』
みんなの気合が入った。これならいける!
両手を突き出したトルシェの前に白く輝く火の玉が形作られて、それが徐々に大きくなり、とうとう直径が60センチくらい。バランスボールほどになったところで、
「イッケー!」
ゴーーー!
白く燃え盛った『ファイヤー・ボール』が『バジリスク』に向かって飛んでいく。
その後を追ってエクスキューショナーを右手に持った俺が必死に走る。そして俺のすぐ後ろで『バジリスク』の死角になるように走るアズラン。
俺は『ファイヤー・ボール』の後ろに隠れているので、『バジリスク』がどういうような状態なのかは分からないが、首をもたげたような気配がした。
ドッガーーーン!!
閃光と同時にものすごい音が起こり、爆風が俺を襲った。俺の黒曜石でできた体は量ったわけではないが、相当重たいと思う。その俺が爆風にあおられ、足が浮いてしまいそのまま後ろにいたアズランを巻き込んで通路の上を2、3回転がってしまった。
『アズラン、大丈夫か?』
『何とか、あれ? フェアちゃんは? ……、良かったー、戻ってきてくれた。うん、なんともないようだね!』
自分のことよりフェアの方が大切らしい。
『バジリスク』の方をみると、今のファイヤー・ボールの爆発で跡形もなく吹き飛んだようで、周囲の通路に真っ赤なシミがベッチャリと付いていた。今となっては、ヤツが本当に『バジリスク』だったのかは分からない。しかし、トルシェの魔法はどこまで威力が増していくんだ?
「ダークンさん、すみません。アズランもごめんね」
『いや、俺は何ともないし、この逆より数倍いいから気にするな』
「トルシェ、私もなんともないから」
『それで、ヤツの胸の上の模様はトルシェから見えたか?』
「いえ、見えませんでした」
『そうか。まあ、それは仕方がないな。階段前に宝箱が出ているようだから拾って20階層に下りよう』
「はーい」「はい!」
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