第74話 三人団が行く2、野人≧裸族
俺たちが、新拠点に戻ろうと『大迷宮』の入り口に向かうと、これまでとは違う意味で、道ができていった。
「あいつら、いったい誰だ?」
「ただものじゃないのだけは確かだ」
「銀カードだ。Bランクにあんな連中いたか?」
「きょういきなり木札から、Bランクに上がったのがあの連中だ」
「たった三人のパーティーで、しかも中に子供までいるぞ」
「『迷宮都市』での注目株なのは確かだ」
よしよし、尊敬のまなざしで俺たちを見ているぞ。なんなら、わが主の信者にでもなってみるかな。
そうだ! こんどAランクになったら、信者を募ってみるのも面白そうだ。将来的には地上に神殿を建てるのもありだな。
妄想はそこまでにして、ギルドの職員に軽く会釈して、『大迷宮』の出入り口の黒い渦に向かい、
『一緒に入るぞ』
「はい」「はーい」
三人そろって渦を通り抜けた先には、少し先に扉が見えた。ちゃんと、新拠点に戻ってこれたようだ。
『時間がここじゃあ分からないけど、トルシェとアズランはベッドに入って休んでいろよ。あした、アズランの鎖かたびらを受け取りに街に出ていくまでやることがないからな』
「いまのところ、ぜんぜん疲れてないんですよね」
「あのー、私も全然疲れていません」
『それなら、仕方がない。トルシェ、アズランを連れて風呂にでも入ってろよ』
「そうですね。アズラン、ここの風呂はすごいよー! 一緒に入ろうよ。それに、脱衣所に置いた衣服も汚れが勝手に落ちてるんだ。不思議だけどすごく便利だよ」
「何がすごいのかは、見てみないと分かりませんが、この先の池で水浴びをしたのが久しぶりのお風呂でしたが、あれからそんなにたっていないのにもうお風呂に入るんですか?」
『アズラン。おまえがどういった生活をしていたのかは分からないが、風呂にはもう少し回数入った方が良いと思うぞ』
「アズラン。それもそうだけど、ここのお風呂は、お湯なんだよ。お・ゆ!」
「お湯? いまからお風呂用にお湯を沸かすんですか?」
『百聞は一見に如かずだ。早いとこ行って実物を見てこいよ』
二人が風呂に入るためワンルームに向かったので、俺は大広間の中でコロちゃんの世話をすることにした。
革紐で肩から吊るした鉄箱の中のコロちゃんも、街中で瘴気をまき散らすこともなくおとなしくしてくれていたので、問題が起こることもなかった。
ここはご褒美に、『収納キューブ』に入れたリュックを取り出して、その中からトルシェから預かっている水袋の『暗黒の聖水』をかけてやることにしよう。
鉄箱を床におろして、蓋を開け、用意した水袋から『暗黒の聖水』をコロちゃんに振りかけてやった。
カタカタカタ(嬉しそうに震えてるよ)
カタカタカタ(もうちょっと、かけてみよ)
カタカタカタ(どう見ても、嬉しそうにしている)
カタカタカタ(それじゃあもうちょっとだけな)
カタカタカタ(うれしいか? これが最後だからな。ほら)
独り言をカタカタ言葉で言いながら、コロちゃんの世話をしていたら、俺の横でマッパの上に風呂上がりで濡れたまんまのアズランがしゃがみこんでコロちゃんを見ている。
『アズラン。マッパでそんなところにしゃがんでると、いろんな見えちゃいけないものまで見えちゃうぞ。早く体を拭いて、服を着ろよ』
「えっ? あっ!」
そう言い残し、アズランが俺の知覚力の限界すれすれのスピードでワンルームの中に駆け込んでいった。そう言えばアズランがやって来た気配を俺はまったく感じなかった。恐るべし、アズラン。
俺もそろそろワンルームに戻るとするか。
鉄箱に蓋をして、革紐を肩にかけてワンルームの扉を開けると、中にもう一人、野人がいた。
「ダークンさん、外で何してたんですか? いいお湯でしたよ」
『なあ、トルシェさんや。俺のことより、どうして服を着ていないんだ?』
「この方が楽なんですよ」
もう、好きにしてくれ。
アズランはちゃんと服を着てきたが、トルシェはマッパのままで部屋の中をうろついている。
トルシェの格好のことは放っておいて、
『おーい、これからどうする? シルバー・ファングはおいしかったが、あれでお終いだったんだろ?』
二人がやっと集まってきた。
「十中八九、おそらくは」
『それじゃあ、こんどは「大迷宮」を行けるところまで下ってみないか? あした街に行ったら、必要なものを大量に買い込んでみようぜ。「暗黒の聖水」も樽でも買ってきてその中に入れておけばかなりの量が運べるだろ』
「それは、楽しそー」
「えーと、その前に鳥かごが……」
『鳥かごは、あした見つかれば買うし、なければ注文しておけばいいだろう。「大迷宮」を深く潜れば、ピクシーに会えるかもしれないしな』
「それはほんとですか? でも、鳥かごを先に用意してないと」
アズランの頭の中はピクシーでいっぱいのようだ。
『あくまで可能性な。もしピクシーをどこかで見つけたら、見つけたところをちゃんと覚えていればまた行けるから。アズランなら道を覚えることができるだろ?』
「はい。それだけは確実に覚えます」
それだけじゃなくって、他のも頼むよ。
結局、朝と思える時間まで何もすることがないので、そのうちトルシェとアズランは自分のベッドに入りおとなしくなった。
俺は、ヘルメットとガントレットを外し、部屋の隅で床に腰をおろし壁に背中をあずけて、自分の額を中指を中心とした三本の指でぺちぺちたたいてリズムをとってみた。
ピン、カン、ポン!
いい音がするじゃないか。それから俺は、トルシェたちが起きだすまで、頭のいたるところをぺちぺちたたいて遊んでいた。
♪カンカカンカカンカン カンカカンカカン ……♪
まずは、ウサギと亀だ。つぎは、……
最後のころにはどこかで聞いたことのあるクラシックが骨音楽でできるようになった。
カカカカーン! カカカカーン! ……




