第69話 シルバー・ファング2
出くわす緑のゴブリンを思い思いの方法でたおしながら、通路の突き当りまで到着した。俺たちはそこを左に折れて、通路の脇の『大迷宮』につながる孔までやって来た。
軽い気持ちで5層の『大迷宮』に通じる孔を通り、『大迷宮』の領域にやって来た俺たち三人。
俺を一人として勘定していいのかと自分でも疑問に思うがこれを二人と一アンデというのも何か違うのでこのままでいいだろう。
出てくるザコモンスターをトルシェが遠距離からたおしていくので、俺とアズランは何もすることがない。
『トルシェ。そういえば、俺たちは今どの辺を歩いているのか分かるのか?』
「え、そんなの分かりませんよ」
『え? そうなの?』
「ダークンさん。ここは『大迷宮』の中ですよ。そんなのは適当に歩いていればそのうち、階段を繋ぐ通路にたいてい出くわしますから大丈夫ですよ」
『そんなので、本当に大丈夫なのかな』
「大丈夫ですって」
「ダークンさん。大丈夫です。私が通った道は全て覚えていますから」
『おお、それはすごい。アズランには色いろな特技があるんだな』
「へー。そんなことができるんだ」
「お役に立てそうで良かったです」
『それなら、あまり帰り道を気にせずシルバー・ファングを探せるな』
「それは、ありがたいですね。5層から下の階層では階段を結ぶ通路の周りだけしか普通の冒険者は活動しませんから、アズランの能力があればだいぶ遠くまで行けますよ」
『そうだな。さて、それでトルシェ。シルバー・ファングのいそうな場所とか、方向とかそういったものは分かっているのか?』
「はい、6層に向かう通路を左に折れてしばらく進んだところでシルバー・ファングがいたそうです」
『じゃあ、そっちがどっちなのか俺にはわからないが、そっちに行ってみよう』
しばらくなんとなく進んでいたら、他の冒険者が往来している通路に出た。この通路が階段間を結ぶ通路なのだろう。そのままこの通路を横切った先の通路に入って進んで行けば、そのうちシルバー・ファングに出会えるはずだ。なにせ、われわれには主のご加護があるのだからな。
それから、10分ほど進んで行った。
『気配がします』
さすがは、アサシン、アズラン。俺にはまだ気配を感じることはできなかったのだが、すでに気配を感じ取ったようだ。
『シルバー・ファングかどうかわかるか?』
『気配は複数です。シルバー・ファングをこれまで見たことはないので何とも言えませんが、この気配は群れのようですから、シルバー・ファングがオオカミに近いモンスターだとすれば可能性は高いと思います』
『どうする? ここで待ち受けるか? それとも打って出るか?』
『やはり、突撃でしょう。ここで待っていてこっちに来なければ取り逃がしますから』
『敵を甘く見るのは良くないが、この三人でかかれば間違いないだろう。よし、やろう。シルバー・ファングなら死体も金になるらしいから、あまりエグイ殺し方はするなよ、特にトルシェはな』
『やだなー。今度はすごいのをダークンさんにお見せしますよ』
『わかった、わかった。ほどほどにな。俺が先頭、トルシェが俺の後ろ、アズランは遊撃だ。行くぞ』
『はい』『はい』
俺たちは腰を落とし、姿勢を低くしてアズランのいう気配の方向に進んで行った。俺は右手にエクスキューショナーだけ持っている。トルシェは手ぶら。凄い魔法を見せてくれるんだろう。アズランは短剣『断罪の意思』を抜いて右手に持っている。
通路が緩く曲がっているところまで進んだ辺りで、俺にもその先にいるモンスターか何かの気配が分かるようになった。鼻で息をする音とか、ウーとか体を震わせる音とかそんな音とともに、何かを食べている咀嚼音も聞こえて来た。
曲がり角から少しだけ頭を出してその先を見ると、肩の高さまでで人の高さを越える大きな白い犬とその周りにそいつの半分くらいの鼠色の犬が5、6匹いた。
よく見ると、そいつらの口元が赤い。食べているのは何かの肉、普通は別のモンスターの肉と思うが、モンスター同士で仲間討ちをするのだろうか?
こいつらをたおせば何を食べていたのかわかると思うが、まさか人間じゃないよな。だから、何だといわれればそうなのだが、食い散らかされた人間を見るのは、こうなってしまった俺だが、ちょっとだけ嫌ではある。
そんなことを考えていたら、
『いきます!』
そう言ったトルシェを振り返ると、右手を広げて前に出し、その手から黒い糸がすごいスピードで目の前の犬の群れに伸びていった。そして、その糸の先端が犬のこめかみを正確にとらえた。
一打ち七匹という童話があったがまさに一撃ち七匹。バタバタと犬の群れは自分の身の上に何が起こったのかもわからぬ間に死んでしまったようだ。
犬たちは死んではいるのだろうが、倒れこんだ体がまだぴくぴく動いている。それに対し、アズランが一気に近づき、あっという間に七匹全部の頸動脈を切って回ったようで、すぐにぴくぴくは止まった。そのかわり、当たり前だが、そこら中が首から流れ出る血でべちょべちょになってしまった。よく見るとどの犬も左耳がない。速い! 早い! すごい!
『押っ取り刀で駆けつけてみれば』とかいってしまいそうな状況で俺には全く出番がなかった。
近寄ってみると、犬が食べていたのは、思った通り人間だった。髄を食べるためか、頭蓋を含め骨もかみ砕かれてしまっているようで、何人そこで殺されて食べられているのかすぐには分からなかったが、引き裂かれた革製の鎧などから勘定すると6人ほど犠牲になっていたようだ。そこらに転がっていたギルドカードの色が銀色だったところを見るとBランクのパーティーが全滅したのだろう。
『この犬っころがシルバー・ファングなのか?』
「わたしもシルバー・ファングの実物は見たことないので断言はできませんが、小さい方は灰色で見た目がオオカミですからシルバー・ファングだと思います。ですが、この一番大きな一匹はシルバー・ファングじゃなさそうです。わたしも知らないモンスターですが、おそらくシルバー・ファングの上位種か変異種じゃないですか」
『ふーん。しかしどいつも想像以上にデカいな。トルシェ、とりあえずおまえの「キューブ」の中に仕舞っておいてくれるか。あと、アズランが切り取った耳も一緒にな』
「ダークンさんすみませんが、わたしでは小さい方は動かせても大きい方は動かせそうもないので、こいつらを収納するの手伝ってくれますか?」
『わかった』




