第59話 お礼参り2
俺が『闇の使徒』の連中に向かって前に出て行くと、それに合わせて後ろに引いていく。そうこうしていたら、玄関から新手が5、6人現れた。今度はこの前の覆面を被った連中が出てきたみたいで、俺の姿を見て一瞬ひるんだようだが、気をとりなおしたようで、玄関口に突っ立ってなにやらぶつぶつ言いはじめた。
「これで、おまえたちは終わりだ、われらが闇の神の呪いを受けろ!」
何? 『闇の神』だと! わが主の名を僭称するとは、許さん!
覆面男たちのつぶやきが終わったようだ。
あれ? 何だか妙に気持ちいいんだが。すがすがしいというか、元気が出るというか。何なんだ?
「これでヤツらは弱ったはずだ! 早く討ち取れ!」
男の言葉から察するに、さっきのつぶやきは連中の『闇の神』の呪いだったようだ。
なんだよ、これ、すっごく気持ちいいのだが。俺には呪いがかかると気持ちよくなる妙な体質?性癖?があったようだ。後ろを振り返ると、トルシェもアズランも目を細めて気持ち良さそうにしている。
これがヤツらの狙いだったのか? まさか俺たちは連中の高等戦術にしてやられたのか?
俺が振り返るという、戦闘中にはあってはならないような隙を見せたことで、やっと戦う気になってくれたようだ。3人ほどの男が手に持った槍を突き出してきた。
もちろんわざと作ったスキのため、男たちの踏み込んできた音も聞こえていれば、槍を突き出す気配も感じていたので、素早く振り返り、半回転しながら三本の槍をまとめて切り飛ばしてやった。
そして、さらに一歩真ん中に踏み込んでその三人の首を順に刈り取ってやった。
首の無くなった体が地面に倒れ込むまで、鼓動に合わせて首元から吹き上がる血が方向を変えながらまき散らされる。その血をうまく避けながら、さらに一歩、二歩と前に進む。
ここの連中は『闇の神の呪い』とやらで、俺の動きが鈍ると思っていたようだが、いつも以上に体の切れがいいのが自分でも分かる。いわゆるゲームで言うようなバフを受けたようなものだ。
こうしていると、桃〇郎侍の爽快感がリアルに理解できる。
オラ、オラ、コイヤー!
今の三連続首チョッパで一気に連中の戦闘意欲が下がってしまったようで、玄関から残った連中が屋敷の中に退避していく。逃げるのは勝手だが、逆に建物の中に入れば逃げ場がなくなるんじゃないか?
個人の自由意思は尊重しましょう。
全員屋敷に逃げ込むのを待って、
『それじゃ、屋敷の中を物色しながら、出てきたやつを片端からプッチしていくか?』
「だったら、わたしは収納係になりまーす。良さそうなものがあればみんな拾っていきまーす」
『アズランは気を付けて俺たちに付いて来てくれ』
「わかりました。ダークンさんがここまで強い人だとは思ってもいませんでした。申し訳ありません」
『百聞は一見に如かずだからな』
ちょっと違うか。まあ、俺の言いたいことは伝わったろう。
『いくぞ!』
「はーい!」「はい!」
玄関の前の三和土に立ち、扉を開こうとしたら閉まっていた。当然だな。ということなので、ここも、思いっきり右足で前蹴りをかましてやった。
バーン!
いい音とともに扉の片側が外れて屋敷の中に吹っ飛んでいった。玄関からその先まで飛んで行ったようで、奥の方で何かが壊れる音と悲鳴、その後うめき声が聞こえてきた。
『二人とも俺のすぐ後ろからついて来てくれ』
そういって、玄関の中に入ったとたん、前方から矢が飛んできた。気合が足らん! とばかりに4、5本飛んできた矢を、エクスキューショナーの一振りで薙ぎ払ってやった。そんなことをしなくても俺には何ともないようなへなへなの矢だったが、後ろの二人への気遣いだな。
剣の修行などしたことのないど素人の俺だが、ここのところ、剣を振るう時に無駄もなくなり、自分でもうまくなった自覚がある。
これって、もともと俺には隠された剣の才能があったんじゃないか? それがふとしたはずみで開花したとか? スケルトン最上位機種になったことがふとしたはずみで片付けられるようなことじゃないか。
玄関ホールの中は明かりがついていなかった。真っ暗なのだろうが俺たち『闇の眷属』には意味はない。眩しくないだけ隅々まで良く見える。
先ほど、蹴っ飛ばした扉が直撃したのか、奥の方で二人、口から血を流して倒れていた。その二人の前で5人ほどが小型のクロスボウに一生懸命、クロスボウ用の矢をセットしようとしている。
面白いので、一気にそいつらに近づいて行ったところ、焦ってボルトを取り落とすヤツも出て来た。素人か。それじゃあサヨナラ。
なで斬りというのか、エクスキューショナーを左右の足の動きに合わせて、右に左にと振るう。一振りごとに首が宙に舞う。
なで斬りではなくて、これは殺陣だな。殺陣と違うのは、実際に首が胴と泣き別れになるところくらいだ。本人たちからすれば大きな違いではあるが、俺からすると違いは全くない。
首を刈られると残った体から吹き上がった血がそこら中に飛び散る。うまく血をかわしながらのムーブだ。最後の一人の首を斬り飛ばした後、体を半回転して、エクスキューショナーを持った右手から刃先までまっすぐなるようにしてポーズを決めたやった。
「ダークンさん、カッコいいー!」
「すごい!」
そうだろう、そうだろう。最後に一度、軽くエクスキューショナーを振って血を払い、カチンと小気味よい音を立てて鞘に納めた。
『こいつら骨のないやつらばかりだったな』
「そんなものでしょう。ダークンさんほど骨のある敵なんて普通いませんよ。アハハ。わたしたちには骨がありすぎるってことですね」




