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第5話 探索、ゴブリン?


 そこそこの時間をかけて玄武岩(げんぶがん)?の石室(せきしつ)の中のスライムを全て殺しつくしたのだが、ゾンビになった恩恵(おんけい)なのか(のど)も乾かなければ腹もすかない。いまのところ、疲れも感じない。いまは、眠気(ねむけ)はないが、今後、眠気が来るのかがいまのところ不安要素だ。


 石室の中のスライムを全滅させた俺は、次に部屋の隅にあるゴミの山をあさることにした。先ほども何に使うのかわからない金物があったが、何か他にちゃんと役立ちそうなものがないかと思ってゴミをあさったところ、どうもそのゴミの山はかつて人型ひとがただったものの成れの果てだったようだ。


 人骨などはスライムに食べられたのか見当たらないのだが、金属製の胸当(むねあ)てや、スネ当てのような物があった。先ほどの金物もそういった防具の部品だったようだ。しかし肝心(かんじん)のそれらをつなぎ留める(ひも)がどこにも見当たらず、体に固定することができそうもないのであきらめた。


 その代り、刃先(はさき)がボロボロになった剣が一振(ひとふ)り、かつて布か革ひもが巻いてあったと思う持ち手には今は何もついていなくてつるつるだ。俺が持つと、手のひらの骨とわずかに残った腐って湿った肉でいいあんばいに握れるみたいで助かった。


 その剣の他にはやや上等そうなナイフが一本。黒ずんでしまった硬貨はおそらく銀貨だろう。そういった硬貨が十数枚見つかった。


 この世界には硬貨を使う人間らしきものがいるということが分かったのは大きい。俺のこの姿を見た人間はおそらく俺の敵になるだろう。


 このゴミの山だけで判断するのは早いかもしれないが、鉄砲(てっぽう)などといった対処不能の武器は見当たらないので、この世界は、剣と魔法、魔法は未確認だが、剣と魔法の世界と考えてよさそうだ。


 ゴミの山には(ひも)同様、衣服に相当するものは見当たらなかった。ゾンビになってしまった俺だが元は文明人だ。全裸状態では落ち着かない。やはり体を覆う衣服は欲しい。


 あと問題なのは、いまさらながら全く痛覚(つうかく)がないことだ。触覚(しょくかく)は有るので物を持つこともできるし何かにぶつかれば気付けるのだが、なにかで体が傷ついても目で見るか触ってみないとどうなっているのかわからない。少々傷ついたところで行動に支障(ししょう)が出ないので、いまのところ立ち止まった時に点検するようにしている。


 この石室の中にいる限り、出入り口だけ見張っておけば今のところ安全なので、ここを当面の拠点としてまずは周囲の確認をしてしまおう。


 出入り口から首を出し通路を確認すると、左右に伸びた薄暗い通路はどちらも真っすぐ遠くまで続いているようだ。


 当てがあるわけではないので、まずは左側から探索(たんさく)していくとにした。持ち歩けるような袋も何もないため、右手にボロボロの剣だけを持っての探索行(たんさくこう)だ。


 通路には、黒いスライムがそれなりの数うごめいている。俺の臭いを()いだのか、何匹かがこちらに()()ってくるが、手にした剣で切り付けると面白いほど簡単にスライムをたおすことができた。ただ、スライムを切り付けるたびに、ほんのわずかだが、刃先が傷んでいるようだ。


 あと何匹くらいスライムを切り殺すと、右手に持ったこの剣がダメになるのかはわからないが、思いっきり壁や床にぶつけない限りまだまだ何とかなりそうだ。


 拠点(きょてん)の石室を出て出会うスライムを切り殺しながら一本道を進んでいるのだが、いまのところわき道もなければ、突き当りにも当たらない。


 拠点を出て10分ほど進んだところで曲がり角が前方に見えて来た。


 そこまで進んだところ、曲がり角の向こうから足音のような気配(けはい)がする。


 音を立てないよう用心しながら曲がり角の脇からそちらをのぞいてみると、背の低い人型(ひとがた)が片手にこん棒のような物を持ってこちらに向かって歩いて来ている。暗闇の中でも、物がだいぶよく見えるようになったが、ここからのぞき見るだけでは、相手の顔ははっきり分からなかった。ただ、自分の腐臭(ふしゅう)とは違う、これもかなり不快な臭いが漂ってきている。相手には俺の腐臭がまだ届いてないようで、いまのところ、そいつの歩みに変化はない。


 人型が敵かどうかは分からないが、ここでのこのこ出て行って襲われてしまえば()が悪くなる。俺はゾンビだ。人間の倫理観(りんりかん)は今となっては何の意味もないはずだ。


 先手必勝。


 とはいえ、いずれ人型も俺のこの臭いに気付くだろう。不意打(ふいう)ちはほぼ不可能。どうする?


 ちょうど目の前の床の上に、いつもの黒いスライムがいた。そいつが俺に向かって這い寄ってきている。こいつをタイミングを見て人型に投げつけてやればいいんじゃないか?


 足音が近づいてきた。1、2、3、いまだ!


 曲がり角から飛び出して、持っていた剣を床に置き、そこで這っているスライムを両手でつかみ、すぐそばまで近づいて来ていた人型に投げつけてやった。


 言葉にすれば一瞬だがそこまで素早く俺が動けたわけではないので、人型(ひとがた)もすぐに俺に反応して飛んでくるスライムから逃れようと体をひねった。しかし、逃げ切れなかったようで、ぎりぎり人型の腰のあたりにスライムが取り付いた。やみくもに振りまわされたこん棒の先が俺の左手の中指にあたり、中指があらぬ方向に曲がってしまった。もちろん痛みは感じない。


 ギャー、ギギー、ギャギャー!


 人型が大騒(おおさわ)ぎを始めて、腰に取りついたスライムを引きはがそうとしていたが、すぐに声が小さくなり、そのまま倒れ込んで動かなくなった。


 あれれ、スライムってそんなにヤヴァイ生き物だったのか?


 ほぼ一撃で、人型(ひとがた)はスライムにたおされてしまった。人型が今どうなっているかというと、腰から腹にかけて骨の部分を残してスライムに喰われてなくなっている。人型がスライムを引きはがそうとした手先はあの短時間で溶かされてしまったようで消えていた。


 まわりにはすでに数匹のスライムが寄ってきているので、美味(おい)しい肉の部分を食った後は骨も食うのだろうから人型は間もなく跡形(あとかた)もなく喰われてしまうだろう。



 結局、今の人型が何だったのかははっきり分からないが、ラノベ的にはおそらくゴブリンだったんだと思う。ゴブリンの経験値が入ってきた感じはなかったので、想像だが経験値はスライムに入ったのだと思う。


 5分ほどで人型の死体は、たかっていたスライムに食べつくされた。


 俺は剣を再び手にして、死体をむさぼりつくしたスライムをたたき切ってやった。そうしたら、いままでよりもさらに夜目が利くようになり、体も軽くなった。ついでに言えば、力もみなぎってきたような気がしてきた。進化というものがあるとしてだが、この調子で行けばまもなく進化できるんじゃないか? 


 通路の床には、人型が持っていたこん棒だけ転がっていた。繊維質(せんいしつ)も食べるスライムだから、木製であろうこん棒も食べるかと思ったがそうでもないようだ。こん棒を拾ってよくみると、溶けた跡がない。


 これは使えそうだ。右手に刃こぼれした剣、左手にこん棒を持って、いたるところの骨の露出した全裸のゾンビ、俺が行く。あらぬ方向に曲がってしまった左手の中指は少し引っ張って元の位置に戻しておいた。


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