第40話 拠点へ帰還
『さっきの連中はいったいなんだったろうな? 「大迷宮」に入りたいならギルドでカードをもらって冒険者になるだけだろうに』
『それすらも知らなかったのか、冒険者になれない理由があったのか、ただ面倒だから冒険者にならなかったのか。それにしても「闇の使徒」とか、カッコいい名前を使っていたことが許せません』
『そうだよな。「闇の使徒」、何だかカッコいいよな。あいつらみんなやっつけて俺たちが「闇の使徒」を名乗ってやるか?』
『いえ、いえ。それはダメなヤツですよ。わたしたちはあくまでも『闇の眷属』、使徒なんて、ただの使用人ですよ。それに引き換えわれわれ眷属は、おそれ多くもわが主の親戚ですよ』
『それもそうだ。おれたちは、会社の重役だが連中はただの使用人ってことだな。ワハハ』
『重役って何です?』
『一言で言えば、お偉いさんだ。いるだろ? この世界にもお偉いさんが』
『ということは貴族みたいな人のことですか?』
『貴族とはちょっと違うが、そう思ってもいいだろう。ようするに、俺たちは言うなれば「闇の帝国」のお貴族さまだな』
『また出てきましたね、カッコいいフレーズ、「闇の帝国」。いいですねー』
『自分で言った言葉だが、良い響きだな「闇の帝国」』
『それじゃあ、ダークンさんが、「闇の帝国」の侯爵さまで宰相、わたしが、「闇の帝国」の伯爵さまで大臣ですね』
『宰相はわかるが、トルシェは何大臣になりたいんだ』
『宰相以外にどういった大臣がいるか知らないんです』
『それじゃあ、いつもトルシェはお金を払ってくれているから、大蔵大臣なんかどうだ』
『大蔵?』
『国のお金を扱っている大臣だ』
『なるほど』
そんな感じで、闇の帝国の組閣を終えた俺たちは、「大迷宮」の中を歩き続け2層、3層、4層と下り、やっと5層まで下りてきた。
それからしばらく進み幹線の洞窟を外れ、来た道を戻っている。俺などは、すぐにどこを歩いているのかわからなくなったが、トルシェには今歩いている場所も分かっているらしく、迷わずおれたちの拠点がある石造りのダンジョンへ向かって歩いているようにみえる。
幹線の洞窟から外れてからはそれなりにモンスターに出会うので、出会う端から、トルシェが俺にはわからない魔法でたおしている。
知らないうちにトルシェの魔法は俺の想定の上を行っていたようだ。何をしたのか知らないが、目に入ったモンスターの頭がいきなり吹き飛ぶ。胴体がいきなり縦に二つになる。壁に高速でぶつかり壁のシミとなる。やりたい放題だ。
そういうわけで、俺の出番は全くなかった。もう一度言おう、アブソルートリーゼロだった。
そうやって、あの狭い孔にやっとたどり着いたのだが、そこで、いままで元気いっぱいだったトルシェが、急に立ち止まり、洞窟の壁に寄りかかって、
『ダークンさん、すみません。急にめまいがして、立っていられなくて。どうも、「暗黒の聖水」の力が切れたようです。さきほど最後の一口を飲んでここまでもったんですが、ここまででした。いままで張り切り過ぎたようです。「軽装者の回復の鎖かたびら」を着ているのでそのうち回復するとは思います』
『急に来るんだな。よし、俺の背中に乗れ』
「暗黒の聖水」効き目はスゴイが、体の中の何か大切なものを消費しているようで怖いな。
俺は自分が背負ったリュックをいったん下に置き、しゃがんでトルシェをおんぶする姿勢をとった。
『ええー、ダークンさんにおんぶされるんですかー、えへへ、それじゃあお言葉に甘えて』
大きなリュックを担いでいるトルシェをおんぶして立ち上がってみたが、それでもそうとう軽い。トルシェは、モンスターや他人に対して容赦がないが小さな女の子なんだ。そう思った。
俺は自分のリュックをなんとか手で持ち上げて歩き始めた。
トルシェを背負っているので孔を通るのに多少は苦労したが、なんとか通り抜け、俺たちのダンジョンに出た。
ここから先、緑のゴブリンでも出くわすとトルシェを負ぶったままでは面倒だ。とにかく急いで下の層に向かおう。
『トルシェ、おまえ、おんぶされたままで敵が出てきたらたおすことができるか?』
『魔法は無理そうですが、弓矢なら何とか使えそうです』
『最悪、いったんおまえを床におろすかもしれないから、そのつもりでな』
『放り投げないでくださいよ、頼みますよ』
『なるべくな』
『もう』
案ずるより産むが易し。とはよく言ったもので、一度もゴブリンなどのモンスターに出くわすこともなく、下の層につながる階段にたどり着くことができた。頭の上で弓矢を使われなくてほんとに良かった。
そのころには、トルシェは、少しは回復してきたようだ。なにもしゃべらなくなったと思ったら、俺の背中の上でぐっすり眠っている。むにゃむにゃ俺には理解できない言葉で寝言を言っていた。
やっとたどり着いた階段を上からのぞくと、黒い靄が立ち込めている。それを見ると今まで焦ってここまで来たが何だか気持ちが落ち着いてきた。俺は一度しっかりトルシェを背負い直し、階段を一歩一歩下りていった。




