第4話 スライム、カモン!
石室の中には、結構な数のスライムがいた。壁や天井を這って俺のいる方に近づきつつある。感覚的なものだが、俺のこの嫌な臭いに惹かれれてるんじゃないだろうか。彼らにとって腐肉は好物かも知れない。
さきほどスライムに取りつかれた時、体についた肉は食われたが、骨の部分はお残しされた。こういったやつらは、ふつうなら髄の入っている骨もかまわず食べそうだが、おいしい腐肉を先に食べようと骨の部分を放っておいてくれたのだと思う。そのおかげで、俺は立ち上がることができた。
肉の残っていない足が動くことも不思議なのだが、そもそも腐肉まみれの俺が意識をもって動けること自体不思議なのだ。では、俺はいま生きているのだろうか? はたまた死んでいるのだろうか? それが問題だ。まあ、その辺は深く考えないようにしよう。
さて、ゾンビの俺にダメージといったものが存在するのかどうかは哲学的問題だが、やはりこんな体でも、手足が取れてしまいたいわけではない。
なんとかして、無傷?でスライムをたおして経験値的なものを手に入れたいものだ。うまくすれば、どこぞのラノベのごとく進化なんかできるかもしれない。
ゾンビが進化したらいったい何になるのかはわからないが、それなりのものを期待だけはしておこう。
スライムを手で触ると、接触部分が溶かされるというか喰われるようなので、なるべく触りたくはない。遠距離攻撃とは言わないまでも、なにか間接的にスライムにダメージを与えられるようなものが欲しい。
夜目が少し効くようになった目で、石室の中を眺めると、こぶし大ほどの小石が数個転がっている。運よく一つだけ近くに転がっていた小石を拾い、一番近くまで迫って来ていたスライムに近寄って、手に持った小石を思いっきり投げつけた。
自分でも分かるほどスピードのない小石が、スライムにめがけて飛んでいき、命中したもののスライムをたおすまでにはいたらなかった。小石もスライムの中に取り込まれてしまった。
仕方がない。手のひらが喰われることを我慢して、スライムを両手で抱え上げて床にたたきつけてやった。
ベチョリ、そんな音を立ててスライムは形を崩して動かなくなった。同時に前回同様何かが俺の体に吸い込まれてきた感じがして、先ほどよりも、部屋の明るさが増した。いや、俺の視力が上がったようだ。しかも体も軽くなったような気もする。
たかがスライムを一匹たおしただけで、これほどはっきりとした効果があるということは、実はこのスライム、結構な経験値を持っているのではないか?
さきほど、スライムを両手で抱えたせいで、手のひらの肉がまた喰われた。白い骨が何個か見える。今さらどうすることもできないので必要経費として割り切ろう。
さて、どんどんいくぞ! 俺の手がダメになるのが早いか、俺が進化するのが早いか。ただ、問題なのは、進化などが本当に起こるものなのかどうかだ。まあ、そこは信じていくしかない。
いくぞ! 足元にたかって来たスライムを床にたたきつける。
ベチョリ。
ベチョリ。
ベチョリ。
いかん、左足に取りつかれた。少しずつ足先が溶けていくのが感覚で分かる。スライムにこれ以上たかられるとまずい。左足にスライムをくっつけたまま、ゴミの山のあるところまで後退し、ゴミの山からのぞいていた金属を引き抜いてまとわりついているスライムにたたきつけた。
ベチョリ。
なんとかスライムをつぶすことができた。手に持った金属は、鎧のどこかの部品のようだったがもちろんどこの部品かはわからない。
一度ゴミの山にその金物を戻して手のひらを見ると、何本か見えていた指を動かす細い腱が知らぬ間になくなっていた。それでも不思議なことに指は問題なく動かせる。
ここから演繹できることは、俺にとってこの臭い腐肉は、ただのお荷物ににすぎないということだ。
これまでスライムをたおして、何度か体が軽くなった感じがしたうえ、このゾンビの体の動きもなめらかになっている。これなら小石をスライムに強くぶつけられそうだ。これでたおすことができれば、これ以上体を溶かされずに済む。
ゴミの山の近くにも小石が数個転がっていたので、二つ拾いあげ、いちばん近くまで近づいて来ていたスライムに向け投げつけた。
ベショ!
やった! 命中、しかも一撃でたおせた。
俺は、少しずつ強くなってる。周りの暗さも今では気にならない。
それからどのくらいたったろうか。石室の中にあれほどいたスライムを全て殺し尽くしたようだ。
スライムは死んでしまうと黒い塊が形を保てなくなるようで、黒い水たまりを作る。それが、しばらくすると消えてなくなってしまう。
水たまりが乾燥するスピードよりはるかに速く消えてなくなる。時間的には2、30分程度だろうか。
消えていくところを一度じっくり見ていたら、どうも黒い石の床に浸みこむというか吸収されているようだ。
俺のいる場所をあえてダンジョンというのなら、ダンジョンに還元されてるように思える。




