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第35話 魔力操作、穿孔光弾


 上の階層への階段を上りながらも、トルシェは俺に言われた魔力操作の練習を続けている。そろそろ、なにか新しい練習方法を示してやらねば専属コーチとしての威厳(いげん)が失われてしまう。


 横目でトルシェの火の玉の出し入れを見てみると、なんだか、最初の時よりも明らかに手のひらより離れたところに火の玉が出来ている。


 今までわからなかったが、俺にはコーチングの才能が眠っていたようだ。眠れる獅子しし『闇の眷属、俺』だったのか? はたまた生前?は名だたるプロコーチだったのか?


 自画自賛(じがじさん)はこれくらいにして、トルシェの作る火の玉を観察する。最初は手のひらとの距離は3センチくらいしかなかったが、今は倍の5、6センチはある。この調子で倍々ゲームで行ければ、10センチ、20センチ、40センチ、80センチ……。まあ、あとは沢山たくさん



 やっと300段上り切った。


 フウー


 登りに疲れたのか、火の玉作りに疲れたのかわからないがトルシェが大きく息を吹き出した。いまでは、手の先10センチくらいのところで火の玉が作れるようになっている。トルシェ、恐ろしい子。


『ダークンさんの言う通り、だんだん遠くに火の玉を出せるようになってきました』


『だろ』


 信じる者は救われる。世の中には、他人の言葉を信じたばっかりに、見事に足をすくわれるヤツがいるようだがな。


『あとな、火の玉なんだけど、もっと熱くなった方が威力(いりょく)が増すと思うんだよ』


『そうでしょうね。わたしもそう思いますが、いままで熱くしようとか考えたことも有りませんでした』


『そうなのか。なんだか、せっかくの魔法なのに改善というのか、改良が進んでいないようだな』


『それは、魔法に関する事柄は研究も含めすべて、「魔術師ギルド」が独占しているためだと思います』


『あるんだ、利権団体(りけんだんたい)だか利権組織(りけんそしき)。そしたら、トルシェはその「魔術師ギルド」で勉強したのか?』


『いえ、父親が(のこ)してくれた本を参考にして、独学(どくがく)で勉強しました。でも、独学ではいちども、一番簡単だとされる「ライト」の魔法でさえ使えませんでした。それでも、あきらめずに本の勉強だけは続けたおかげで、魔法が使えるようなった今なら、本の中にあった魔法は全部使える気がします』


『トルシェは(えら)いな。それに、結構苦労してそうだものな』


『苦労したんでしょうが、こうして、ダークンさんに命を救ってもらったし、その後「眷属」になって幸せです。ですから昔のことはもうどうでもいいです』


『そうか、幸せか。幸せならよかった。ハハハ(カタカタカタ)。ついでだから手も叩いておこう。パチ(ガシャ)パチ(ガシャ)パチ(ガシャ)


『それでは、もっと火の玉が熱くなるようにやってみます』


『まてまて、今の火の玉はだいだい色だろ? 一番高い温度の炎は青いんだ。それを意識したらどうかな』


『青い炎ですか?』


『そう、青い炎。一度に、青は難しいだろうから、そうだな、白っぽい黄色の炎でいってみるか?』


『それじゃあ、試してみます』


『ちょっと待て、向こうから音がする。ゴブリンだろうから、トルシェに任す。できれば、白っぽい黄色の炎を意識してな』


『やってみます』



 俺たち二人とも、姿勢を低くして通路の交差点にゴブリンが現れるのを待っている。トルシェが仕留めそこなった時のバックアップに、俺は両手の武器の握りを確かめる。


『近づいてきた。1、2、3で俺も飛び出すから。いくぞ、1、2、3』


 俺は体を低くしていっきに飛び出して、両手の武器を斜め下に構え走り出した。


 その横を、俺から見て、右側、少し遠い方のゴブリンに向かって白い閃光(せんこう)が走った。


 チュン!


 白い閃光が当たったゴブリンの胸に大きな孔があいた。その孔から煙がわずかに上がっている。そのゴブリンはそのまま倒れ込んでしまった。それを見たもう一匹のゴブリンはおじけづいたようで、くるりと回れ右をして逃げ出していった。


 その逃げ出したゴブリンに向け、トルシェが右手を突き出したところ、広げた手のひらから白い閃光が走った。


 チュン!


 と、さっきと同じ音がしたと思ったら、俺のすぐ脇を閃光が走って、逃げ出したゴブリンの頭が消えてなくなっていた。


 トルシェのヤツ、ヤヴァいよ。覚醒(かくせい)しちゃったよ。


 俺のコーチング能力もヤヴァいよ。


 ちょっと(まと)を得たことを教えちゃったようだよ。


『トルシェ、すごいじゃないか。で、今のはなんていう魔法なんだ?』


『何も考えずに、白っぽい黄色の炎ってことだけ頭にあって、気が付いたら白い光が手のひらから出ていました』


『そうなのか? それじゃあ、魔法の名前がないのも仕方ないか。そしたら、カッコいい名前をつけなきゃな。簡単なところだと「レーザー・ビーム」だよな』


『レーザーって何ですか?』


『そうか、レーザーはないな。ごめん、そいつは忘れてくれ。それだったらそうだなー』


『それなら、「穿孔光弾せんこうこうだん、ピアシング・ライト・バレット」はどうでしょう?』


『いいよ、いいよ。そいつもすごくいい。トルシェ、おまえその方面、ほんとに才能あるな。真性(しんせい)C2(シーツー)だぞ』


『えへへ、それほどでもー。えへ』


 C2(シーツー)は誉め言葉じゃないけどな。


 だが、トルシェの『穿孔光弾せんこうこうだん、ピアシング・ライト・バレット』はまさに俺の目指していた攻撃魔法の一つの完成形ではある。


『ダークンさんの指導のおかげ? かな?』


『なぜ、そこで疑問形? 俺のおかげに決まってるじゃないか。どんどんその魔法を使って、威力を上げていくぞ』


『はーい』


『返事は伸ばすな』


『はい』


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