第31話 ダーク・ナイト爆誕
俺はいまトルシェと二人で、拠点の階層から1層上がった階層の探索を続けている。ここまで何度かゴブリンのペアに出くわしたが、苦戦することもなく簡単に蹴散らしている。こん棒はもういらないし、トルシェがゴブリンの腰布を臭がって嫌がるので、戦利品はまだ何もない。
『トルシェ。その先、二匹じゃない』
これまで、この階層は碁盤の目状に通路が走っているものと思っていたのだが、碁盤の盤面の端に外側に伸びる通路を見つけた。
その通路への分岐点でいったん立ち止まり、その先を確認したところかなり遠くになるが、ゴブリンが5、6匹見えた。しかも、あの謎タイマツがたかれているようでゴブリンのいるあたりが明るくなっている。
ゴブリンの数も多いし、明るく照らされた場所だというところが今までと違って少し気になる。後で挟み撃ちにあったりする可能性を考えると、見つけた敵はその都度殲滅していくほうが安全だ。
『やるぞ。連中に気付かれないようなるたけ近づこう。俺が合図したらトルシェはファイア・ボールを連中の真ん中に撃ち込んでくれ。こっちはそれに合わせて突っ込んでいく』
『分かりました』
俺が通路の左側、トルシェが通路の右側。通路の両側を、腰を落としてゴブリンに接近していく。ヤツらの視力がどの程度なのか今のところはっきりは分からないが、明かりのある場所から、暗がりを見てもあまりよく見えないはずだ。そう思って、俺たちはゆっくりとゴブリンたちに近づいて行った。
あと30メートル。ここらが限界だろう。右手のエクスキューショナーを軽く振ってトルシェに合図し、俺も一気に走り出す。
ゴーー! と音を立てて一抱えもあるような炎の塊が、俺の横を通り過ぎていった。
ドッガーン!!
ファイア・ボールがゴブリンたちの真ん中あたりに着弾し大爆発した。
爆風と、さっきまでゴブリンだった肉片が全力で走る俺に襲い掛かった。一瞬体が浮き上がったものの、吹き飛ばされることもなく、すぐに走り出すことはできたが、もはやゴブリンたちの姿はそこにはなく、爆発で大きくえぐられた床があるだけだった。
ますますトルシェの魔法が強力になってきている。
鼻を膨らませたトルシェがやって来たので、一応褒めてやった。
『おまえの魔法はどんどんすごくなるな。これだと俺の出番がなくなるじゃないか』
『エヘヘ。ダークンさんはわたしの後ろにいてくれて構いませんよ。それにしても、ダークンさん、ゴブリンの肉片だらけじゃないですか? すこし臭いますよ』
ちょっと褒めるとすぐこれだ。それに、これはお前のせいだろうが。
ゴブリンたちがたむろしていたここは広間になっている場所だった。爆風でも謎タイマツは消えることなく燃えていたので、広場の壁に、ゴブリンの肉片がそこらに貼りついているのが良く見えて実にシュールだ。
俺もトルシェも『闇の眷属』なので何ともないが、床には原型を留めた部品が何個も転がっているので、結構グロなんじゃないか。
『ダークンさん、あそこ、何かありますよ』
トルシェの指さしたのは大広間の奥の方にこんもり盛り上がった小山だ。揺らめくタイマツの光できらめいているところを見ると、金物で出来た小山のように見える。今の爆風で、幾分くずれたのか、元からなのか、周りにも金物がそれなりに散らばっている。
近寄って見ると、やはり金物の山だった。以前下で見たゴブリンのペアも光物を集めていたようだったから、おそらくここにいたゴブリンたちも光物を集めていたのだろう。
それが目の前に山と積まれている。これだけあれば、なにか役立ちそうなものがあるのではと二人であさっていると、
『ダークンさん、金貨を何個か見つけました、そのほかには、このヘルメット以外はいまのところほとんどガラクタみたいです。どうですこのフルフェイスのヘルメット、ダークンさんがかぶれば、すっぽり頭を覆えるので、防御力が大幅アップしますよ。
……あ、これも、あれ、これも……、ダークンさん、大変です。全身鎧が一式揃っちゃいました』
聞いたわけではなく頭に響いた声だが、光物の山をあさっていたトルシェが素っ頓狂な声を上げた。
なるほど、床の上には、全身鎧が一揃い並べられている。素人の俺が見て少々部品が足らなくても分かりはしないので、一式と言われれば一式なのだろう。
その鎧は、表面の窪んだところは黒サビで渋い模様が描かれており、出っ張ったところはピカピカに磨かれた実に立派な鎧だった。
『すごくいいものだとは思うが、トルシェは、どうやってこれを着るのか分かるのか?』
『やってみれば何とかなると思います。さっそく、ダークンさん着てみましょう』
トルシェが嬉々として俺に勧めるので、断るのも悪いと思い、言われるままズボンとブレストプレートを脱いで真っ裸になった。お肉のない体なのにマッパと言うと勘違いされかねないので、俺のこの状態をこれからはスーパーマッパと呼ぶことにしよう。
トルシェがああでもないこうでもないと言いながら鎧を俺に取りつけていく。俺は言われるまま手を上げたり、足を上げたりしているだけだ。
ある程度大物を着込んだ後は、トルシェがリュックの中から、布切れや、紐を取り出して、本来革製の留め具で固定していたような鎧の部品をしっかり固定していってくれた。
『ダークンさん、だいたいこんなところです。最後にこのフルフェイスのヘルメットをかぶればでき上がりです』
手渡されたヘルメットを頭からかぶった。ヘルメットのバイザーの隙間からでは視界が遮られるのかと思ったがそれほどでもないようだ。
『ダークンさん、ダーク・ナイトって感じですよ。カッコいいです』
『ほう、そうか、そうか』
そこまでカッコいいか。ダーク・ナイト、良い響きだ。
『闇の眷属』ダーク・ナイトのダークンだ! ちょっと、ダークはかぶるな。俺の名前はあとでよく考えて改名したほうがいいかな。




