第21話 スケルトン第二形態
歩きながら、嬉々《きき》としてトルシェがブラック・スライムに向けて矢を射ていく。
『ダークンさん、何だかこの弓の色が黒ずんできたんですけど。矢も少し黒ずんできているみたいです』
『そいつは、おまえの持ってる武器が強くなっている証拠だ。おそらく、おまえ自身も強くなってるはずだぞ。その先に進化の祭壇ってのがある。おまえも進化したりしてな。ワハハ。まあ、それはないか』
『進化の祭壇ですか。何だかすごそうですね』
『その先が少し明るくなってきたろ、あそこだ。そういえば、ここはかなり暗い場所なんだがよく夜目が利くな』
『えっ、今まで気になりませんでした。そんなにここは暗いんですか。周りもダークンさんの顔もよく見えるんですが』
『よかったじゃないか。おそらくだが、おまえが俺の眷属になったからだと思うぞ』
『ダークンさんの眷属はいいことばかりなんですね。エヘヘ』
闇の眷属の眷属になって、そんなに朗らかに笑われるとちょっと違うんじゃないかなー、と、思っちゃうぞ。
『そこ、落とし穴だから、脇によって俺のあとをついてこい』
『わたしには、分かりませんが』
『ほらな』
落とし穴の蓋をリフレクターでたたいて壊してやった。今回も壊れた蓋が穴の中に落っこちていって見えなくなった。
トルシェが落とし穴を上からのぞいて『ひょえー』と怯えたような声を出したのが聞こえてきた。
落とし穴から少し進んで、てっぺんで謎の火が燃えている石の円柱、進化の祭壇のある場所にやって来た。
『トルシェ、あそこの真ん中に立っている柱に触ると進化していたら分かるんだ。もしかしたら、もしかしておまえも進化してるかもしれないから柱に書いてある模様だか文字を触ってみな』
おそるおそる、トルシェが石柱に手を伸ばして、そこに刻まれた模様に指を触れた。
『ダークンさん、進化を望むや? とか聞かれてるんですが?』
『そしたら、ハイと答えろよ、進化したいだろ?』
『進化したらどうなるんでしょう?』
『それは、進化なんだからたいていは強くてカッコよくなるんじゃないか? 俺みたいに』
『えー、わたしがダークンさんみたいにですかー? ちょっとそれは』
『ただの例えだよ、例え。いやならやめておくか?』
『いえ、進化します。「はい」』
『望みは叶ったって言われました。何だかすごく疲れが出てしまって……、だいぶ良くなってきました』
『おい、大丈夫か? トルシェ、おまえなんだか肌の色が褐色ぽくなってるんだが、気付いているか?』
トルシェが俺の言葉で、自分の手を見て開いたり閉じたりしている。
『確かに、色が褐色になってる』
『手だけでなくて、顔もだぞ、それに耳が長くなってる』
『どういうことでしょう?』
『俺に聞かれても分からないが、話に聞くダーク・エルフに進化したんじゃないか?』
『ダーク・エルフ。もしそうなら、わたしも魔法が使えるかも知れない。それじゃあ、『ファイア』、うわーー』
トルシェの右手の人差し指から火炎が吹き上がった。こいつは俺を笑わせたいためのジョークなのか、いや渾身のギャグ? それじゃあ、眷属の主として笑ってやらねばなるまい。
「ワハハハ」
『ダークンさん、ひどい。なに人の失敗を笑ってるんですか?』
『えっ? 今のは俺を笑わせるためだったんだろ?』
『ひどーい。でも生まれて初めて魔法が使えました。フフ、フフ、フフフ』
『それこそ俺が驚くぞ、何だって? 生まれて初めて魔法が使えたって?』
『言いにくいんですけど、わたしは生まれた時から魔法が使えなくて、それもみんなからバカにされる原因でした』
『それで、初めて魔法を使って調節ができなかったわけか?』
『調節ができなかったのはそうなんですけど、やろうと思っても普通の人ではあんな大きな炎を作り出すことはできません』
『へー、そうなんだ。俺は魔法のことは全く分からないから、トルシェが俺を笑わせようとワザとやったとばかり思ってたよ』
『そんなわけないでしょ。それはそうと、ダークンさんは、柱に手を当ててみないでいいんですか?』
『それじゃあ、俺もやってみるか』
……
『これは、進化の祭壇。汝、進化を望むや?』
あのことばが頭の中に響いた。そして同じように「はい」と答えた。
そして『望みは叶えられた』の声が。
一瞬立ち眩んだ俺だが、すぐに持ち直した。
それで、俺はどうなった?
『ダークンさん、すごい!』
『?』
『なんだか、ダークンさん、真っ黒になっちゃいました』
『真っ黒?』
トルシェに言われて、露出している両腕を見ると、確かに真っ黒で黒光りしている。非常に硬そうだ。試しに、左腕の骨を右手の人差し指で軽く弾いたら、
キーン!
金属音が響いた。これなら行ける。
どこに行くのかはわからないが、右手にエクスキューショナーを持ち直し、少し腰を落として両足の足幅を十分にとって踏ん張り気味にして、気合を込めて振り下ろした。
ブン!
エクスキューショナーが振り下ろされたあと、遅れて音が響いてきたような気がする。今の斬撃に耐えられるものはそうはいまい。フフフ、ハハハハ。
『あのう、ダークンさん。すごくカッコよくなったところ恐縮ですが』
『なんだ?』
『ダークンさんからなんだか嫌な臭いがしてるんですが? おそらく、そのぶら下げている袋から臭ってくるようです。言おうか言うまいか微妙なものなので、黙っていましたが、この際ですので言ってしまいました。ごめんなさい』
『そうか、それは悪かった。俺には鼻がないからな。この袋の中にはゴブリンの腰布が入ってるんだ。布は貴重なので持って歩いてる。それじゃあ、この先の池で先におまえは体についた血でも洗い流せ。俺はそのあと洗濯をする』
『はい』




