第12話 カタタタタタ、カタカタ!
鑑定石で持ち物を鑑定していった結果、
『命を奪うことにより強化される』、『命を奪うことにより使用者の気力・体力を回復』
こんな鑑定結果がならび、この容姿とあいまって、自分自身が闇の眷属であると強く意識してしまった。
「闇の眷属、俺!」
ここには誰もいないので、中腰になって両手に持った武器をぐるっと回転させながらポーズまで取って大声で叫んだつもりだったのだが、声帯もないし、舌も唇もない。声なんて出ない、出て来た音は、
カタタタタタ、カタカタ! だった。いやになるねー。
まあいい、もろもろをろっ骨に結んで、ブレストプレートを着けて、探検の再開だ。
ゴブリンからいただいた袋は片方をもう片方の中に詰めて、その袋を、腰椎の辺りに結んで動きの妨げにならないようにしている。
さて、次に行くべきところはやはり、ゴブリンたちが現れた上り階段だろう。一度にゴブリン2匹までなら何とかなりそうだ。
通路に湧いていたスライムを駆除しながら、階段を目指して歩いて行く。こういう時は鼻歌でも歌っていたいのだが、口からはカタカタ音しか出せない悲しさで歌うことができない。
歌うことのできた生前は幸せだったんだなあ、とつくづく思う。
幸せは、命を失って初めて分かるもの。
妙な至言を作ってみたが誰の生きるための参考にもならないだろう。
スケルトンにはスケルトンの悩みがあるのだ。
『若きスケルトンの悩み』
かの文豪ゲーテさんでも考えたこともなかったろう。俺は、ファウスト博士になりたかった。
『時よとまれ、おまえは美しい!』
言ってみたところで己の魂が救われるわけもなく、出て来た音は、相変わらず、
「カタタ、タタタ、カタカタカタタ!」なえる。
気を取り直して行くぞ、1つ上の階層へ!
ふざけるのはここまでだ、気を引き締めて、上り階段を一歩一歩、一段一段上っていく。
どこまでこの階段続くんだ? 階段の幅は5メートルほど、その階段がどこまでも続いている。こういうのって、50段もあれば十分だろ。
俺に殺された二匹のゴブリンたちもこの階段を往復するつもりだったと考えるとかなりすごいことだぞ。
上っているうちに徐々に階段の先が明るくなってきた。先が見えてきたので気力を振り絞り階段を上り切ることが出来た。
結局階段は300段ほど続いていたような気がするが正確に数えたわけではないのでアバウトな数字だ。
振り返って階段の下の方を見ると、どんよりとした黒い霞のような物が階段の中を漂っていて下の方は全く見えない。
上っている間に上を見ても何も感じなかったのに不思議なものだ。
しかし、黒い霧の中から現れた黒ずんだスケルトン。この俺のことだがやはり十分闇の眷属している。
「闇の眷属、俺!」
カタタタタタ、カタカタ!
生前の自分に関する記憶はほとんどどこかに飛んでいってしまったようで、自分の名前すら思い出せない。それなら、いっそのこと自分で名前をつけてしまおう。
待てよ。そもそも俺は自分のことは男だと思っているが、ほんとにそうなのか? ゾンビだったころなら確認できたが、もうそのころの記憶があやふやだ。外見的な記憶がほとんどない。俺が女だった可能性も微レ存だ。まあ、それだけはないだろう。ないよな?
付いていたのか、いなかったのか? ああ、それが問題だ。確証はないが、男だったことにしてしまおう。
ファウストもウェルテルも俺じゃない感が強い。ダークな俺に似合いのカッコいい名前はないか?
今の感じで敵をたおし続けていくと、そのうち俺は真っ黒になると思う。
「黒曜石」、良いんじゃないか? 英語にすると「オブシディアン」か。
とりあえず、「オブシディアン」と名乗るとしよう。英語は覚えてたのに名前も性別も忘れるとはいったいどうなっているのだろうか? しかし、この名前、言いづらいし、すぐ忘れてしまいそうだな。
「闇の眷属、オブシディアン!」 やっぱり、変か?
カタタタタタ、カタカタカタタ! 分かってたけど、カタカタ言葉じゃしまらないわ。
階段を登り切った先、上の階層は一見、俺のいた階層のように通路でできたダンジョンのようだが、下と違い、通路を作る石材は玄武岩よりやや明るい安山岩質のように見える。素人目なのでそれが正しいかどうかはわからない。
また、通路のところどころに、謎たいまつが壁にかけられて明るく燃えているので、通路はかなり明るい。下の階層でおなじみだった黒スライムはいないようだ。
この階層の通路は、碁盤目状に通路が張り巡らされていることが少し歩いてみて分かった。
通路が交差する場所ではかなり気を使う必要がある。何かと戦っているとき横合いや後方から別の敵が来ないよう注意してうまく立ち回らなくてはならない。




