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紫眼《しがん》の魔法使い。ウィルスに感染したVRMMOで巻き起こるデスゲームを生き延びろ!  作者: ぐーてん
第1章 全滅=ゲームオーバー=強制ログアウト=“死”
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避難先はVRMMORPG

 中身を要約するとこうだった。

 現実世界ではのウィルスによってそのほとんどが感染区域となってしまったこと。

 今現在ログイン中のプレイヤーもすでに感染している恐れがあり、発症が時間の問題であること。

 そして今ログアウトすれば意識が肉体へと戻り『意識中枢』が破壊される恐れがある。

 だからログアウトはするなということらしい。



 テレビで言っていた内容と殆ど同じだった。

 俺は書いてある内容を理解することはできた。

 けど、にわかに信じることのできない自分がいた。



 だって今現実世界にある俺の肉体がすでにのウィルスによって死ぬ寸前だなんて、そんな突拍子もない話、信じられるわけがないだろ。


「そもそも感染区域の拡大が早すぎるだろ。感染者は今朝確認されたばかりなのに」


 そうは思いつつも期待せずにはいられない自分がいるのは確かだった。



 そしてこのメッセージの内容が本当であることを裏付けるように、目の前の光景が事実であると肯定していた。

 俺の目の前にいる多くのプレイヤーが初心者であることは確かな以上、どうして急に増えたかという話しになる。

 けど、それもさっきのメッセージを見た後なら納得できる。

 感染区域の増えたのウィルスから逃げるために彼らはこのゲームにログインして来たのだ。

 仮にメッセージの話が嘘ならこれだけのプレイヤーが殺到してくることはないだろう。

 つまり、現実世界では彼らをログインに駆り立てるような事態が明確に起こっているわけだ。

 信じたくはない。

 けど信じるしかない光景が目の前には広がっていた。



 俺はどうするべきかと頭を悩ませていると、今度は着信を知らせるアイコンが点滅していることに気付いた。

 それは俺がこのゲームに同期させてあるスマートフォンからの着信を知らせるもの。

 表示されている相手の名前は「ユイナ」だった。



 俺は一度ログアウトして電話を取ろうと、今度は親指と人差し指の腹をくっつけて弾く動作をする。

 するとホログラムウィンドウが現れた。

 俺は一番下にあるログアウトボタンをタッチしようとしたが、しかしあることを思い出して固まってしまった。


 “もしさっきの話が本当だったらどうする?”


「俺の体は今、のウィルスに感染していて、あとは意識を破壊されて終わり。今はこっちの世界にいるからなんともないだけで、本当はもう……」


 そう考えただけで急にログアウトすることが恐くなってしまった。

 都合の良い部分だけ期待して、いざ本当にそうなっていたらそれはそれで困る。

 あまりの身勝手さに俺は思わず笑いそうになってしまった。



 現実世界へ戻ることを躊躇う俺に、ユイナからの着信コールは依然として鳴り続けている。

 今は旅行に出かけてるはずなのに一向に鳴り止む気配がないことから何かあったことは明白だ。


「何を躊躇ってるんだよ俺。感染なんてしてるわけないだろ……」


 俺は自分に言い聞かせながら、意を決して震える人差し指でログアウトボタンをタッチした。

 普段ユイナとは小さいことで喧嘩してばかりだが、こういう時に放っておけない辺り、自分がアイツの兄であることを強く実感させられる。








 現実世界へ帰ってきた俺の意識を真っ先に刺激したのは嗅覚だった。

 自分の部屋の匂い。

 肉体はずっとここにあったはずなのに、まるで久しぶりに帰ってきたかのような感覚。

 俺はベッドから飛び起きて、机に放り出されていたスマートフォンを鷲掴みにすると画面も見ずに応答ボタンをタップする。


「もしもし! ユイナか!?」


「お兄!?」


 すぐにユイナからの応答があった。

 切羽詰まった声と周囲から聞こえて来るざわめく人の声。

 それだけで異常事態が起きていることがわかる。


「どうした!? 何があったんだ!?」


「お兄、どうしよう!? 私どうしていいかわかんなくて! 他に頼る人もいないし……、おまけに早くしてとか言われてもうどうしたらいいか…………」


 今にも泣き出しそうなユイナの声に俺の方がどうしたらいいのか、パニックになりそうだった。


「い、いいから落ち着け! 何があった!?」


 殆ど自分に言い聞かせるようにして俺はユイナに先を促した。


「い、いま北海道に着いたんだけど、なんかアーカイブ?って会社の人が、のウィルスの感染者が空港に現れたから……、早く避難して下さいって言ってて……」


 俺はそれを聞いて疑問に思った。

 なんでアーカイブ社の人間が?

 ウィルスとは関係ないだろ?

 けどその時俺は朝のテレビの内容を思い出した。

 VRMMORPGでのウィルスから逃げ延びた少年を。

 そのVR装置を作った会社がアーカイブ社であることを。


「その人は避難した後にどうするか言ってたか?」


 俺はある程度予想はしていたが確認せずにはいられなかった。


「それなんだけど、なんかウィルスから逃げるためにもVRMMOの中に避難する必要があるとかなんとかって。設備は整ってるから大丈夫とは言ってるんだけど……、具体的な説明は全然してくんないし、そもそも私VRMMOなんてやったこともないから、だからお兄ならその辺のことに詳しいかと思って……」


 不安そうなユイナの声。

 それもそうだろう。

 いきなりウィルスだの、VRMMOだの言われたところで混乱するのが当然だ。

 事前にある程度知識があった俺でさえ現実を受け止め切れていないというのに。



 ただ、相手がパニック寸前である以上、何かアドバイスをして安心させてやらなければと思い、俺は現状で一番安全と思われる方法をユイナに指示した。


「取り敢えずその人の指示に従ってすぐに避難しろ! VRMMOの使い方も説明してくれるはずだ!! それと、ログインしたら街の中から絶対に出るなよ!? 俺も今からログインする!!!!」


 すぐに再ログインしようと通話を切ろうとした俺の耳に、震えるユイナの声が耳に届いた。


「お兄……」


 こんなにも弱々しいユイナの声を聞くのはいつぶりだったか。

 同時にかつてないほどの不安が俺の胸を締め付ける。


「……必ず迎えに行く! だから下手に動き回らないでアーカイブ社の指示に従っててくれ!」


「……うん、わかった」


 ユイナは絞り出すようにそれだけ答えると、そこで通話は終了した。

 俺は一刻も早く再ログインしようと思ったが、ゲーム内で何かあった時のためにすぐに使えるよう、貰ったばかりの生活費を全額ゲームマネーに変えるために課金した。

 そしてスマートフォンでチャージされたことを確認すると、俺は早速ベッドに横になろうとするも、ふと鏡に映った自分の姿を見て絶句した。


「……うそ、だろ」


 姿見に映ったスマートフォンを持つ右手の甲。

 そこに、のウィルスの象徴とされる紫色の斑模様が、否定しようがないほどにはっきりと浮かびあがっていた。

 まるで不気味にわらう悪魔のようなそのいびつな模様は次第に腕へと伸び、左手を覆い、そして顔全体に広がった所で……、俺の体は完全に動かなくなってしまった。


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