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紫眼《しがん》の魔法使い。ウィルスに感染したVRMMOで巻き起こるデスゲームを生き延びろ!  作者: ぐーてん
第1章 全滅=ゲームオーバー=強制ログアウト=“死”
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紫《し》のウィルス

 その後俺は、あの正体不明で元リトルミノタウロスだったはずのボスモンスターを倒したことによる討伐報酬を手に入れた。

 内容は経験値とお金。

 しかし、あれだけ怖い思いをしながら倒したというのに、悲しい事に経験値はLevel1のモンスターを倒した時と同程度のEXPだった。

 お金も経験値と同様の結果。

 この世界ではお金の単位はGOLDで表記されており、俺の今現在の所持金は討伐報酬の50GOLDを足した5050GOLD。

 多いか少ないかと聞かれれば、どちらかと言えば心許ない方だ。

 まだ初心者の俺には揃えなければいけないモノも多く、この状況では正直あと10倍は欲しい所だった。

 けど、贅沢を言ってもしょうがない。

 それでGOLDが増える訳でもないし。



 俺は気を取り直してこのダンジョンから出るべく転送魔法陣を探すことにした。

 ボスモンスターを倒せばその部屋に出現して、わざわざ来た道を戻る手間を省いてくれる便利な移動手段の一つ。

 そして目当てのものは部屋の入り口付近で確認できた。



 正直俺の残りのHPはもう雀の涙程度なので早く街に戻って回復したい。

 回復魔法はまだ未習得なのでその辺も今後は考えなきゃいけないな。

 それとこの左目だ。

 正直なにがどうなってるのか全然理解できない。

 モンスターの攻撃でアバターのデザインが変わるなんて聞いたこともないし、魔法の威力が増大するなんてのも同じで聞いたことが無い。

 ただ、理解できなくてもとれはそれで仕方がないと受け止められる自分がいた。

 なぜなら今のこの世界において、ルールは守られるべき絶対的なものでは無くなっていたから。



 イレギュラーがルールに組み込まれたクソゲーム。

 おまけにゲームオーバーが死に直結するという誰も望まないリアルすぎるVRMMO。

 リアリティを求めちゃいたけど、誰も“死”まで再現しろとは言ってない。

 まあこんな所で愚痴を言ってもしょうがないので、俺はさっさと転移魔法陣に身を委ねることにした。

 魔法陣の上に乗るとすぐに転移が始まった。

 視界が霞、浮遊感が全身を襲う。

 疲れと少しの達成感に浸りながら、俺はふと昨日のことを思い出していた。


 まだ1日しか経ってないのに随分前のことのように感じる。

 それは死、そのものから逃げるために、世界中の人間がVRMMOの中に“潜在意識”を避難させなければならなくなったあの日。

 両親や妹の安否もわからないまま、俺がのウィルスに感染して、その恐怖を身を以って体験したトラウマの記憶……。















 午前8時30分。

 その日は休日ということもあり、昨日徹夜で『ウィザード・コレクション』プレイしていた俺は一日中、何が何でも寝倒してやるつもりだったのに、気付けば就寝後2時間で目を覚ましていた。

 恐らく原因は部屋の外から聞こえて来るバタバタと駆け回る2人分の足音のせいだろう。

 まあ、うちではよくあることなので特に気にするつもりもなかったけど、おかげでもう一度寝ようという気にはなれなくなった。

 生活リズムが狂った直後によくある、気持ちが悪いほどの目覚めによって俺はその日の朝を迎えた。



 ベッドの上で大きく伸びをすると、喉が水分を求めてるような気がしたので、何か飲もうかと自分の部屋を出る。

 先程の慌ただしい音は今はなく、静かすぎる廊下が俺の朝を出迎えてくれた。

 冷蔵庫を求めてリビングへ行くと、テーブルに座って朝食をとる私服姿の妹のユイナの姿があった。



 亜麻色の髪を後ろで束ねたポニーテイルに中学生らしからぬ大人びた顔立ち。

 長袖の赤いチェックのワンピースにショートパンツというラフな格好。

 身内贔屓で見ても可愛いとは思うのだが、ただ1つ欠点がある。

 それはユイナ自身が自分の可愛さを自覚しているということ。

 謙遜を知らない可愛さ程、手に余るものはない。

 それさえなければ素直に可愛い妹なのだが……。



 ユイナ以外に誰もいないリビング。

 お互いにとくに挨拶することもないが、これが俺達兄妹の間では普通だった。


「父さんと母さんはもう行ったのか?」


 あくびをしながら気怠そうな俺の質問に、ユイナは簡潔に応えてくれた。


「今日は海外出張だって。一週間は帰ってこないから後はよろしくって」


 それを聞いた俺は特に驚くこともなく冷蔵庫から取り出した紙パックのオレンジジュースをラッパ飲みした。

 喉が求めていたものを手に入れて歓喜するようにゴクゴクとならす。

 すると、そんな俺の姿を見ていたユイナが思春期らしい最もなリアクションをとる。


「あ~! 口付けて飲むのはやめてっていつも言ってるでしょ!!」


 拳でテーブルをドンと叩き不満気に俺に抗議してくる。

 言いたいことはわかる、けど従うつもりはない。

 俺は喉がいいというまで飲み続けると、残り半分となったところで飲むのを辞めた。

 そして持っていたパックをそのままユイナへと差し出す


「飲むか?」


 どういうリアクションを取るのかはもうわかりきってるので、からかうように言ってやった。

 暴言を吐いて終わり。

 それがいつもの日常だ。



 しかし予想外にも、ユイナは俺からパックを受け取ってしまった。

 え、飲むつもりなの?

 若干引き気味に見ていると、ユイナは俺を無視するように立ち上がり、そのまま流し台へ。

 そして中に入っていた残りのオレンジジュースを全て捨てやがった。


「あー!! お前何考えてんだよ!? もったいないじゃねぇか!!」


「おにいが口付けた飲み物なんて、殺菌消毒しても手遅れなんだから捨てる以外の選択肢なんてないでしょ」


 心の無い言葉を感情のこもらない声で俺の心に突き刺す我が妹。

 そんなユイナの新しいリアクションに新鮮さを覚えながらも、俺は排水溝へと流れていくばい菌扱いされたオレンジの液体を見つめる。


「同じ親から食べ物を粗末にするなって言われて育ってきたのに、どうすればこういう悪育ちをするかね」


 呆れた物言いの俺にユイナは返事をするのも面倒だといわんばかりに、顎でクイッとテレビを見ろと促してくる。

 テーブルを挟んで反対側。

 いつも決まった朝のニュース番組を見ている我が家だが、その日は緊急ニューというテロップが流れて少し慌ただしい感じだ。



「なになに、『致死率99%ののウィルス、日本で初の感染者! 全国で緊急警報発令中!』」



 朝から“致死率99%のウィルス”なんてヘビーなものをよく流してるなぁと気軽に読み流していた俺だが、内容を理解すると一瞬にして青ざめた。


「え、あれから1年は経ってるのに、まともな解決策もないまま日本うちに来ちゃったのか!?」


 のウィルスとは、感染するとほぼ助からないと言われていることから付いた、“のウィルス”の別称として使われている。

 そんな聞くだけでゾッとするような言葉がテレビでも聞くようになったのは今から1年前。

 どっかのよくわからない聞いたことさえない国で、それが発見されたとのこと。



 感染するのは人に限定されていて、1度発症すると体中に紫の斑模様が浮かび上がり、1時間後には肉体の全機能が停止。

 生きてはいるが体は動かせず、最後は脳に侵食されて完全に死んでしまうというもの。

 正確には脳の『意識中枢』が破壊されるとのことらしいが、そういう専門的なことは俺には理解できないので、取り敢えず感染したらヤバイ!

 とだけ理解している。



 ちなみにこのウィルスの恐ろしい所は、一度感染すると治療方法がなく、ただ死を待つのみになること。

 感染経路もどっかのゲームや映画もビックリな、空気感染・飛沫感染・接触感染・経口感染とあらゆる感染経路を網羅。

 どうやら地球上に棲む人間を1人残らず殺したいらしい。

 そんな目に見えない殺戮兵器がこの日本に上陸ともなれば居ても立っても居られない。



 何故なら、これまでもはやばいウィルスが見つかった!

 なんて言ってても、自分の知らない国の赤の他人が、言い方は悪いかもしれないけど、そのウィルスの犠牲になって、ある程度日が経ったら沈静化する。

 それが当たり前で日常だったし。



 ちょっと前にもそこそこヤバめの、なんたらウィルスが日本上陸!

 ってニュースでやってたけど、結局はWHOの世界保健なんとかの人たちが頑張ってくれたおかげで、すぐに沈静化した。

 だから今回のウィルスも放っておいても、時間が経てばワクチンが完成していつかは耳にすることもなく忘れ去られるだろう。

 そう思ってたのに、気付けば沈静化どころか勢いが増している。

 おまけに日本上陸!?

 普通に考えれば異常事態なことは良く分かった。

 だからテレビでも緊急ニュースとして扱われてるんだろうことも。


「だから気をつけなきゃいけないの。お兄から感染して死ぬとか絶対にヤダし」


 兄を傷つける事にけた妹の暴言は日に日に増しているように感じる。

 果たしてこれも思春期のせいだろうか?

 難しい時期だなぁ。

 俺は自分のことは深く考えないようにしつつ、そんなことを思った。

 しかしたかだかその程度の暴言で一々傷付いていては思春期真っ只中の妹の兄としてはやっていけない。

 なので妹の嫌味に対してツッコミを入れてみる。


「いや、まず俺が感染してたら致死率99%なんだからとっくに死んでるだろうよ」


 すると切れ味鋭い見事なまでの返しが俺の心を斬りつけた。


「なら早く死ねば」


 それだけ言い残すとユイナは朝食の続きを取るために自分の席へと戻った。

 俺はそんな逞しく育った妹に感心しつつ、丁度お腹も空いてきたので親が用意してくれている朝食を一緒にとることにした。

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