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紫眼《しがん》の魔法使い。ウィルスに感染したVRMMOで巻き起こるデスゲームを生き延びろ!  作者: ぐーてん
第1章 全滅=ゲームオーバー=強制ログアウト=“死”
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逸脱した存在

「うわあああああ!!」


 俺は迫り来る恐怖そのものからダッシュで逃げ出した。

 足がもつれそうになるのを必死で堪えつつも懸命に走る。


 ドオォォン!!


 何かが爆発するような振動が離れていく俺の耳にもはっきりと伝わってきた。

 走る足を止めないながらも恐る恐る振り返ると、そこには扉を吹き飛ばして、それでも足りずに周辺の壁をぶち破りながら、マイルームから飛び出した大きな二足歩行の牛がいた。

 敵は俺を補足するや否や歓喜に満ちた咆哮を上げた。


「ヴオオウォォォォォオオオ!!!!」


 そして愛しい人を見つけたかのように全速力で俺に向かって走り始める。


「パワータイプのモンスターは俊敏性が低いってのがゲームじゃお約束だろうが!」


 暗黙の了解なんて知ったこっちゃないとばかりに狭い通路の壁を肩で削り取りながら再度突進を始める化け物に対して、俺も負けじと全速力で逃げ回る。

 魔法を使おうとも思ったけど、正直それどころじゃない。

 そもそも習得している魔法は、街にある『コレクションショップ』と呼ばれる、お金を払えば魔法を手に入れられる場所で買った初級魔法ばかり。

 あっても俺がストレス発散に使っていた中級魔法が一つ。

 Levelも未だ10の俺にはどう見ても手に余る相手にしか思えなかった。



 もう、自分がどこを走ってるかなんてわからない。

 マップを確認しながら走る余裕すらない。

 こんなにがむしゃらに走っていれば他の敵にエンカウントしてもおかしくはないだろう。

 そして案の定、ウサギの姿をした『キラーラビット』に遭遇してしまった。

 視界の右下でBATTLESTARTバトルスタートを知らせるアイコンが表示されて、さぁ戦えと訴えかけてくる。



 しかし俺はキラーラビットを相手にする事もなく迷わず“逃げる”を選択する。

 敵の行動範囲から出る事が出来ればもう向こうから襲ってくる心配は無い。

 そしてBATTLESTARTバトルスタートのアイコンは思った以上にあっさりと消えてしまった。

 何故ならキラーラビットが仲間のはずのモンスターによって踏みつぶされてしまったから。

 システムのルールを無視して追いかけて来る牛のストーカーによって。



 本来ならさっきのキラーラビットとのバトルが正しいゲーム上のシステムだ。

 名前もノイズがかったものじゃなく、ちゃんと『キラーラビット』と表示されていたし、姿も俺が良く知るキラーラビットだった。

 あんなゲテ物なんかじゃない。



 走りながら振り返る俺の視線の先には、相変わらず大地を響かせながら突進してくるモンスターがいる。

 しかし徐々にその距離が開いていることに気付いて俺は安堵した。

 どうやらステータス上では俺の方が“俊敏性”が上だったようだ。



 微かに見えた突破口に俺は何が何でもこのまま逃げてやると意気込むが、しかしそんな俺を誘惑するようにしてそれは現れた。

 ひしゃげた扉と瓦礫の山が散乱した通路。

 それはボス部屋でありゴールである祭壇の部屋の一部。

 どうやらがむしゃらに逃げている内に、元居た場所に戻ってきてしまったようだ。



 どうするべきか走る足は止めずにどうするべきか考える。

 本来の俺の目的はこの祭壇のある部屋であり、そこで貰えるはずの“クリア報酬”だ。

 今ならボスもいない。

 入ることは簡単だ。

 もしかしたらクリア報酬を手に入れることができるかもしれない。



 迷う俺を急かすようにして牛の化け物が近づいて来るのがわかる。

 俺は腹を括ることに決めた。

 ボス部屋に入って奥にある祭壇まで一気に駆け抜けると、その裏に身を隠す。

 対象の姿が確認出来なければ敵は深くまでは追ってこない。

 多少活発にその場を動きまった後、時間が経てばエンカウントはリセットされる。

 だが、それは正常なシステムが相手である場合だ。

 今の正体不明の敵に対して、それがどこまで通用するのかはわからない。



 やがて部屋の前を地響きと共に悪魔が通り過ぎて行く音が聞こえる。

 俺は自分の口を両手で押さえて目を閉じながら一切の音が出ないよう音と気配を消すことに集中した。

 そして気が遠くなるような数秒を耐えた俺は、ようやく悪魔の手から逃れることに成功した。



 ゆっくりと祭壇から顔を覗かせてみるが、そこはホラー映画のように実はもう部屋の中にいました的なことにもなく、無事にモンスターを撒くことに成功したみたいだ。

 けど、相手がいつまたここに戻ってくるかはわからない。

 なにせここはアイツの部屋だ。

 俺の追跡を諦めれば必然とこの部屋に戻ってくることだろう。

 2度目の遭遇はもう俺の心が持たないのでさっさとクリア報酬を頂くことにした。



 俺は手に持っていながらも一度も使うことのなかった魔法書を、自分の胸の位置ぐらいにある祭壇の上へとそっと置いた。

 本来ならこれでクリア報酬を貰えるはずなんだが、現状がイレギュラーな続きなためどうなるかは賭けに近かった。

 ボスは倒しておらずただ部屋にいないだけの留守状態。

 ボスを倒してこそのクリア報酬だが、果たして……。






 何も起きない。

 うんともすんとも言わない。

 どうなれば正しいのかがわからない俺にとっては正直判断のしようがない。

 そもそもダンジョン攻略で祭壇まで来たことも初めてなんだ。



 どうする?

 もう少し待つか?

 それとも諦めて逃げるか?

 いつまでもこうしてここに居る訳にもいかない。



 焦る俺の気持ちを嘲笑うかのように遠くから地響きが近づいてくるのが聞こえた。

 筋肉隆々のルールに縛られない牛のストーカーがここに帰って来る!

 駄目だ。ここは一端諦めて出直そう。

 そう思い俺が祭壇に置かれた魔法書を手に取ろうとしたその時だった。



 白く輝く光の玉。

 それが突然俺の頭上から降り注いできた。

 魔法書に吸い込まれるようにしてゆっくりと落ちて来るそれを見て、俺は確信した。

 クリア報酬だ。



 クリア報酬は、ボスモンスターを倒した冒険者が、祭壇で祈りを捧げれば女神から加護を与えられるというもの。

 まあそれはこのゲームの設定であり、実際に祈りを捧げる必要もなければ加護が貰えるわけでもない。



 実際に手に入るのは加護ではなく“魔法”だ。

 そしてそれこそがこのゲームの肝ともいえる。

 WCウィザード・コレクションはダンジョンを攻略しながら魔法を集める事を目的としたゲームだ。

 初めは習得魔法ゼロの状態からからスタートして、徐々に色んな魔法を覚えていく。

 レベルが上がってもステータスや冒険に役立つちょっとしたスキルを手に入れることはできても、魔法だけはダンジョン攻略でしか習得できない。

 コレクションショップで買うことは出来るが、それはどれも初級魔法に限られているし、スタート時に1つだけ貰える魔法も中級魔法が1つのみ。



 魔法習得のために仲間と協力してボスを倒す者もいれば、あるいは一人で挑戦して特別ボーナス狙いのプレイヤーもいる。

 そうして全魔法コンプリートすればゲームクリアとなるわけだ。



 まあゲームクリアとかは今の俺には関係のない話だ。

 今の俺の目的は少しでも習得魔法を増やすこと。

 ゲームクリアなんて興味はない。



 気付けば光の玉は丁度俺の目の前にまで降りて来ていた。

 あともう少し。

 この光の玉が魔法書に吸い込まれれば、あとはこんな変態の住処に用は無い。

 ダッシュでこのダンジョンから逃げてやる。

 そんでもって、次は本当の仲間を探して一緒に……。


 ドシュッ。


 突然、柔らかく弾力のある物を鋭い何かで貫く音を、俺は自分の耳の内側から聞いた。

 何が起きた?

 必死に考える俺の視界に、“部位欠損”を示すアイコンが点滅しているのが確認出来る。

 同時に視界の左半分が見えなくなったことも。

 視界を奪う魔法やトラップもあるらしいが、この状況で一番正確な答えは、敵により左目が破壊された。

 正確には長剣ロングソードによって貫かれた、だったが……。




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