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紫眼《しがん》の魔法使い。ウィルスに感染したVRMMOで巻き起こるデスゲームを生き延びろ!  作者: ぐーてん
第1章 全滅=ゲームオーバー=強制ログアウト=“死”
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エリア46

 それから特に何が起きるわけでもなく、古城前は少しばかり落ち着きを取り戻しつつあった。

 GMは自爆し、それ以降、運営からのコンタクトはなく、結局この後どうしていいかはわからないまま。

 それは俺以外のプレイヤーも同じようで、戸惑う様子の人が殆どだった。



 先程のGMの自爆に別プレイヤーの暴走。

 迂闊に他のプレイヤーに近付くことも出来ずに右往左往しているプレイヤーの姿が多く見える。

 俺もユイナの行方に関しての手がかり得るためにも他のプレイヤーと話をしたいところだが、いきなり魔法をぶっ放されても困るので、不用意に近づくことができない。



 加えて気掛かりなのは強制ログアウトになったプレイヤーたちだ。

 今はもういないGMゲームマスターの話が本当だとは信じたくはない。

 けど、自分がここへ来る前に正に死ぬ寸前だったのだから、現実世界に戻った彼らがその後ウィルスに意識を破壊されて死んでしまった。

 その可能性は限りなく真実に近いだろう。



 そして別のプレイヤーたちもそのことが気になっている様子で、その話題について話し合う声が聞こえて来た。


「ねぇ、さっきの人たちって本当に死んじゃったの?」


「だ、大丈夫だろ。きっとすぐに戻ってくるって。もうすぐしたら再ログインしてさっきの話しが嘘だって教えてくれるよ」


 確か強制ログアウトのペナルティは、10分間の再ログイン不可とスタート地点である焔の都からのスタート、所持ゴールド半分、アイテムのランダム消去となっている。



 都合のいいことにここは焔の都だ。

 仮に生きてるなら何人かは再ログインしてくる可能性はある……。









 しかしその後、10分を過ぎても誰も再ログインしてくる者はいなかった。

 できれば今起きている問題に運営が手一杯で再ログイン不可の状態になっている。

 俺はそうであることを心の底から願った。





 とにかくまずは何でもいいから手掛かりが欲しい。

 ログアウトがやばい事はわかったけどそれだけじゃあ、この後どうすればいいのかがさっぱりだ。

 どうするべきか。

 その場で悩む俺の耳に、ふとある女性の声が聞こえて来た。


「……早く……メインサーバーから切……」


 微かに聞こえて来た”メインサーバー”という単語。

 それが間違いでないなら、ある可能性が浮かび上がる。

 そう、運営の人間である可能性が。

 メインサーバーなんて言葉は今この状況で一般プレイヤーが口にする言葉とは考えにくい。

 なら、このゲームを管理している人間と考えるのが妥当だろう。



 俺は耳を澄ませながら古城前に残っているプレイヤー達を見渡した。

 しかし、運営と思われるアバターの姿は見当たらない。

 みんな似たり寄ったりの姿をしている。

 GMゲームマスターみたいにぱっと見でわかればいいんだが、それらしい人影は見当たらなかった。



 気のせいだったか?

 そう思い諦めようとしたが、しかしもう一度、今度ははっきりとした口調でその声は聞こえてきた。


「早く私のアバターとメインサーバーを切断して! ……連絡が取れなくる? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」


 それは古城の足元。

 入り口から離れた木陰に隠れるようにしてそいつはいた。

 女性のアバターに黒いローブ姿。

 それだけ見ると、人目を避けて怯えている初心者アバターに見えなくもなかったが、話していた内容は完全に初心者のものではない。


 メインサーバーと切断。


 会話でそんな言葉が出てくる人間といえば1人だけだ。

 間違いない。

 運営の人間だ。



 幸い他のプレイヤーがそのことに気付いた様子はない。

 こっちの聞きたいことは山程あるし、運営の人間だと分かればみんなが殺到するのはわかっている。

 だから俺は周囲にバレないようにこっそりと話を聞こうとその女の元へと近付き声を掛けた。


「あの、ちょっと聞きたいことが……」


 しかし女は一切俺の方を見ることもなく、まるで聞こえていないかのように、そそくさとその場から逃げようとする。



 そりゃあさっきのGMの暴走があった後じゃあ、一般プレイヤーから逃げたくなる気持ちもわかる。

 もし見つかれば何をさせるかわかったもんじゃないしな。

 けどだからと言って俺もそのまま行かせるわけにはいかないので、無理矢理にでも話を聞いてもらうことにした。


「運営の人間だって大声で叫んでもいいのか?」


 俺の()()()()言葉を聞いて女の動きがピタリと止まった。


 すかさず女の隣へ並ぶ。


「手短に終わらせるから少しだけ俺の質問に答えてほしい」


 女は舌打ち混じりに俺を見ると、苛立ちを隠そうともせずに口を開く。


「少しだけよ。さっさと話して」


「どうしてゲームマスターは自爆したんだ? おまけにここは魔法発動制限区域のはずなのに?」


「そんなこと私は知らないわ」


 さっきの話からして心当たりがあるから、焦った感じでメインサーバーと切り離せとか言ってたんじゃないのか?

 そのくせわからないはないだろ。

 どうやら俺の誠意が足りなかったみたいなので、アプローチの仕方を変えて聞いてみることに。


「じゃあ他のみんなも呼ぼうか? 大勢で考えれば何かわかるかもしれないし」


 俺は近くにいた男の魔法使いに声をかけようと手を上げたところで、女が慌てながら早口にまくし立ててきた。


「ウィルスがサーバーに感染したのよ。それで制御が効かなくなったの。ちっ」


 やっぱり誠意ある聞き方をすればちゃんと答えてくれるみたいだ。

 けどこんなことになったのは運営そっちのせいだし舌打ちは酷くないか?

 俺は自分の聞き方には全く問題はなかったはずだと思いながら、しかしその言葉を聞いて一瞬ながらも悩んでしまった。


 どっちのウィルスのことか?

 コンピュータウィルス?

 それとものウィルス?


 普通に考えればコンピュータウィルスだ。

 しかしタイミングがタイミングなだけに、あり得ないとわかっていながらもつい疑ってしまう。


「それってもしかして……」


 その疑問をぶつけようとすると、女はすぐにでもここから姿を消したいらしく、あっさりと答えてくれた。


「ええ、のウィルスよ」


 ただ、その答えを聞いても俺には理解できなかった。

 意味かわからない。

 のウィルスと言っても、それはPCや電子機器に感染するものではなく、あくまで生物に感染するウィルスのことであって、なぜのウィルスがサーバーに感染して、おまけにアバターに影響を及ぼすのか全くもって理解できなかった。


「具体的なことは調査中で私にもわからないわ。ただ、のウィルスが運営のアバターに感染して制御不能になった。それが現時点でわかってることよ。ちっ」


 だから舌打ちはやめろよ。

 地味に傷付くだろ。

 俺の心は繊細なんだぞ、全く。


 俺は心の中で愚痴を漏らしつつも、同時に女の話に驚かされた。


 のウィルスがアバターに感染した。

 どういう原理でコンピューターウィルスではないのウィルスが感染したのかは置いておくとしても、それはそれでかなりまずいんじゃないだろうか。



 感染したアバターは自爆したんだ。

 だったらそれが俺達のアバターにまで及んだらどうなるのか。

 俺は聞かずにはいられなかった。


「俺たちのアバターに危険はないのか?」


「メインサーバーに直結されているシステムだけだから、貴方たち一般のアバターには関係ないわ。ただ、今後はどうなるかは知らないけどね」


 この世界に閉じ込めた張本人である運営の人間がその言い草はあんまりじゃないか。

 俺はウィザード・コレクションは好きだったが、アーカイブ社のことはほんの少しだが嫌いになった。


「もう行くわよ」


「待って! 後少しだけ教えてくれ!!」


 周囲を気にしながら、そのまま立ち去ろうとする女だが、しかし俺は待ったをかける。

 どうしても聞きたいことがある。

 今の俺にとって何よりも知りたい情報。


「北海道から避難したプレイヤーは今どこにいるんだ!?」


 俺の質問に嫌そうな表情で答える女。


「北海道サーバーからログインしたなら、今はエリア46に転送されているはずよ」


 エリア46。

 俺はうろ覚えの記憶を引っ張り出してウィザード・コレクションの世界マップを思い出す。

 そして俺は自分の記憶が間違いであってほしいと心の底から願った。

 何故ならエリア46は未だクリア者が出ていない難攻不落のダンジョン。

失われた魔法(ロストマジック)』が習得可能だとの噂がある場所でもある“宵闇よいやみの都”。



 俺が今いるほむらの都がスタート地点であるなら、宵闇の都はマップの一番端に当たる場所にある。

 簡単に行くことができないことは目に見えていた。


「そこへ行く方法は!?」


 俺はすかさず女に質問を繰り出すが、返ってきた言葉は俺の期待を裏切るだけじゃ飽き足らず、更に粉々に打ち砕くものでもあった。


「エリアを繋ぐ転移門は停止中よ。行きたければ歩いて行くことね。ただし、エリア46はモンスターの襲来にあって壊滅状態らしいから、行くのはあまりオススメしないけど」


 モンスターの襲来で街が壊滅状態?

 果たしてどういう意味か?

 俺は女の言ってることを理解するために現実逃避しようとする自分を無理矢理押さえつけて、現実を自分自身へと突きつける。

 そして理解する。



 つまり、言葉の意味そのままだと。


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